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Kierkegaard

その前の話 その1 その2 その3

12月ー、港ヨコハマには、外国人も多く滞在しておりこの月を境に、故国での

クリスマスを偲ぶように、華やかな飾りが施される。


もみの木が近在の山から切り出され馬車で運ばれ、教会や大きな屋敷に

運ばれる。


故国から船で運ばれた、銀や陶器、レース、布、紙で造られた飾りがつけられる。


マヤは、女学校の英語教師の家にお手伝いに来ていた。


日本には、宣教師である夫と一緒にカナダから来たこの女性は、快活で

優しく、お茶目でチャーミングな女性だった。


「きれいですね」


「クリスマスというのは、とても特別なのよ。遠く離れた兄弟姉妹もクリスマスには

必ず帰宅して家族全員揃って新年までを過ごす大切な休暇なの」


「先生は、日本にいて寂しくないですか?」


「愛している主人もいるし、マヤさん、私にはこんなに沢山の教え子もいるわ。

もしよかったらミサや茶会や、パーティもするのよ?パートナーと一緒にいらっしゃい」


「あの先生、パートナーはいないので、クラスメイトと一緒でもいいですか」


「OKよ、でも、私はあなたは素敵な男性と来るような予感がするけど」


「・・・」


マヤは他の生徒と一緒に午後のお茶を頂いたあと、先生の家を辞去し、

なんともなしに港へ散歩に行った。


冬の海、肌を切り裂くような風が冷たい、でも、マヤは、この光景が好きだった。


港に停泊している船から上る蒸気の煙、ボーボーとなる汽笛、遠いくにから来たのだろう

おおきな貨物船、行き交う船員、青い目をした船員、黒い目をした船員、背の高い

異国の人々、あ、かもめ、白い波頭、青い空、冬の日暮れは早い、紫から赤へ

日が暮れていく、マヤはその美しい暮れを目に焼き付けようと魅入った。


「お嬢さん、もう日が暮れて、夜道の一人歩きは危ないですよ」


振り向くとマスミがたっていた。


「あ、マスミさん、こんにちは、すみません、つい魅入って、帰ります」


「待ちなさい、商談も終わったから送って行こう」


「そんな、だめです、ご迷惑をかけられません」


「人の親切はという諺が」


「喜んで送られます」


「それがいい」


マスミはマヤの手を取り、そばに「引き寄せる。


「あの、その」


マヤの顔は真っ赤だ、西洋のマナーだからといって強引にそばによせ、

エスコートし彼の車へ誘われる。


「君は、女学校を卒業したらどうするの」


「わかりません、将来なんて、でも、すごく不器用だから、結婚できないかもしれない」


マヤは自分で言って落ちこんだ。


「そうしたら僕が貰ってあげようか?」


「はあ」


「本気だよ、君と話していると楽しい、ずっとそばにいてくれると退屈しない気がする」


「退屈、何ですかそれは!」


「そのくるくると変わる表情だよ」


マスミの手がマヤの顎へ、向けられる顔、瞳と瞳がぶつかり合う、マスミが優しく

笑い、素早くマヤの頬に口付けがされる。


茹蛸のようにマヤの頬がそまる。


「あ、あう」


「これは親愛の印だよ」


車がマヤの家に到着し、降り立つ二人。


「じゃあな、チビちゃん」


マヤの脳みそはぐつぐつでぐらぐらでぐったりで、何も言えなかった。


「・・・」


その二人の姿を見つめていた青年がいた。


「マヤちゃん・・・」


マヤは、そんなことは知らずに、ぐったりする体を何とか持ち直して、家の中へ入る。


からかわれたのだ異国の人に、寝るに限る、まさか翌日にそんな話が持ち上がる

なんてちっとも考えずに。



続く   その5


***


12月だっていうことを忘れていた。私は季節感を大事にするのである。


赤毛のアンのシリーズにも、日本へ行く友達とその旦那の宣教師のくだりがありまして、

そういうことです。