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初出:2010-02-11 07:25:25




赤い鳥とんだ。白い鳥とんだ。

毎日鳴くからうるさいな。

そんなら鉄砲で撃ってしまえ。


20XX年 (当初試演予定年) 亜弓さんの怪我により、試演は中止となった。

亜弓さんの怪我は、手術を受け順調に回復をしても数年はかかるため試演の

予定は無期限停止となった。


月影先生は、敵対していた速水英介氏の援助により、難しい手術が成功し

紅天女の里で静養し、亜弓さんの復帰と試演を待っている。


速水さんは、紫織さんと結婚した。元々身体が弱かったのだろう、結婚して

間もなくスイスで静養しており日本にはいないらしい。


試演が中止となり、黒沼チームは解散した。桜小路くんも、他のみんなも

新しい仕事に向かいそれぞれの場所で輝いていた。


突然試演が中止になって、私は宙ぶらりんになった。ジェーンが終わって

ずーと紅天女になるためにあがいていた私は、突然の延期で次の舞台も

フリーな立場の私にそうそういい役が用意されてるわけでもない。

でも現実に人は生きるために働かざるえなくて、でもいつかは紅天女にも

ならないといけない私は、バイトして、私に欠けてた表現力を身につけるため

日舞、ダンス、歌とか色々な基礎訓練に明け暮れていた。


紫のバラも試演の稽古場で無残に散ってからは送られていない。

速水さんにも会っていない。


たった一人で未来を信じて自分なり精一杯駆けてきた1年だった。


暑かった夏も終わり、朝夕めっきり涼しくなった頃だった。街の本屋で

亜弓さんの手術の成功とリハビリにより順調に回復している記事を読んで

嬉しくなった。もうすぐだ、また、紅天女になれる。


「あら、マヤちゃんじゃないの。久しぶりね」水城さんだった。

「いま、時間大丈夫。お茶でも飲まない。ご馳走するわよ」

私はしっかりケーキまでご馳走になった。水城さんは私のマネージャをして

いたときから姉のように見守ってくれた人だ。私はバイトが終わって生活費や

レッスン代に事欠いてるようなことも言ったと思う。

「それじゃ、割りのいいバイトを紹介しましょうか?」

別荘の管理人が、病気かなにかで休養しなくていけなくて、その別荘に

数日間ゲストが滞在するので掃除と簡単な調理をする人が必要だということだ。

水城さんの紹介なので安心してそのバイトを受けることにした。


大都所有というその別荘は最寄の駅から数キロあるらしい。それくらいたいした

ことないのでおおきなリュックサックをしょって、とぼとぼ歩いていた。


キーと急ブレーキがして、田舎に不似合いなスポーツカーが止まった。

車から、速水さんが降りてきた。

「チビちゃんじゃないか?どうしてこんなところに」

「速水さん、どーして???私はこの先の別荘の管理人のバイトにいくとこ

なんですけど」

速水さんは、指をこめかみにあて「送ってく」と腕を引っ張って車に押しこめ

発進させた。

私は?マークながら、どうやらゲストが速水さんだと気がついた。ま、私なら

このゲジゲジに免疫があるしこの人の暇つぶしには丁度いい相手だとあて

がっただけなんだろうな、はあー。

「久しぶりだな。ちびちゃん。」速水さんは運転に集中しながら言った。

「こんにちは。数日の間ですけど、仕事は頑張りますのでよろしくお願いし

ます」

私はバイトするのだから雇い主に丁寧に挨拶した。

「ちびちゃんにご馳走がつくれるのか?」

「大丈夫です。簡単なものくらい作れます。居酒屋とかファミレスでバイト

してたので洗物は得意です」

「くっくっく。毎食卵かけご飯はごめんこうむりたいな。」何がおかしいの

か、彼は笑いをかみ締めながら車を運転した。

久しぶりに会う速水さんはやっぱり昔と同じで、たわいもないことで私を

からかいむきになる私で和やかな時間が流れていた。1年という時間が

短くもないけど長くもない時間がやっぱり互いに必要だったのだ。

別荘について、荷物を置いてから食料品の在庫を確認した。生鮮食品

などは明日には届けられることになってるそうなので、あるもので作る

しかない。

速水さんにぎゃふんと言わせないとね。人参とたまねぎ、じゃがいもを

スライスし、さっと湯にさらして、アンチョビーを利かせたドレッシングで

合えてサラダを作った。

トマトの缶詰があったのでトマトソースを作り、塩ハムの缶詰で簡単な

アラビアータ風スパゲティを作った。野菜のスープとあとはデザートに

卵と牛乳でカスタードだ。

手際よく夕食の準備が整って、主である速水さんを書斎に呼びに行った。

速水さんは、無表情で窓から外を眺めていた。私も気になって窓の外を

見やると大きな木があった。実がなってる大きな木だった。

「速水さん、食事の準備ができましたので食堂へいらしてください」

「ちびちゃんの料理を頂けるなんて光栄だな」憎まれ口たたきながら、

二人で食堂に下りた。料理を見て速水さんは驚いていた。

ここには二人しかいないので一緒に食事をした。どうやらぎゃふんと

言わせることに成功したらしい。二人でとる食事は美味しかったし楽

しかった。

食後の片付けは速水さんも手伝ってくれて、食後のコーヒーは速水

さんが淹れてくれたブルマンをリビングで頂いた。

「ちびちゃんが、こんなに料理上手になってたなんで知らなかったな」

「ずっと一人で生きて行かないといけないから習って頑張ったの」

「一人でって、君には、これから現実の恋をして、結婚して幸せになる

未来もあるだろう」

「速水さんのようにですか?」

「・・俺のは政略結婚のようなものだ」

「紫織さんが可哀想ですよ。婚約披露パーティのときに、幸せになるって

いってたでしょう?」

「俺には仕事の一貫のようなものだった。その妻も身体を壊して外国にいる」

「紫織さんがそばにいないから、速水さんは寂しいの?」

「寂しいといったら、ちびちゃんが慰めてくれるのか?」

「商品には手をださないっていってませんでしたっけ?」

「ちびちゃんは商品じゃないだろう」

濃密な空気に急に覆われてて、なにせ経験ないので私はどうして

いいかわからなかった。

でも速水さんの辛そうな顔や暗い瞳に吸い込まて身動きできないくらい

体中があわだった。

「速水さん、、寒そう。暖めてあげる」

私は手で速水さんの頬をなでた。社務所で私を暖めてもらった。今度が

私の番なのだ。

ぎこちなく私は速水さんを抱きしめ速水さんを暖めようとした。

速水さんの私を抱きしめた。速水さんは私の顎に手をそえ私の顔を上に

向かせるとゆっくりと口付けを落とした。口付けは額、頬、耳、のど元と

だんだん下がってきて鎖骨に口付けし、速水さんは私を片手で支えながら

起用にブラウスの前ボタンをゆっくりはずして、胸元にも口付け落としていった。

甘い痺れが身体中を襲った。

「あーん」普段の私なら出さない声が口元から零れた。速水さんの指が私の体の

全てをなであげ、口付けを落とす。いつのまにか明りのついたリビングで二人は

何も身に着けない姿で抱き合っていた。速水さんの髪に私の指がからまっている。

頭をかきだいて自分から口付けをした。深い口付けを返された。速水に全身を

愛撫されやわらかくなった私は速水さんの全てを受入れていた。速水さんも私

も互いをずっと求めていた。むさぼるように互いを求め合い、私は何時しか眠り

に落ちていた。


目が覚めると速水さんがいた。昨夜のことがフラッシュバックし体中が真っ赤

になった。

「おはよう」

「おはようございます。すぐ朝ごはんの仕度します」

と起きようとしたが、ん、身体が動かないなんでパニックになる。

「もう少しゆっくりするといい」

速水さんは、ゆっくり身体を動かしてベッドから降りた。

速水さんの身体は彫刻みたいだった。着替えるところをぼーとして眺めてたら深い

口付けが降りてきた。身体の奥底がじくじくとしてくる感じで熱くなった。

「どうして君は、俺に抱かれた。初めてだったのに」

「速水さん少しは元気になった。速水さんが寒そうしてたか暖めたいと思ったの

社務所で速水さんが私を暖めてくれたように」

速水さんは寂しそうな顔を一瞬浮かべたけど、私は自分の思いを伝える気はしない。

ずっと私を影から見守ってきたあしながおじさん紫のバラの人、私は速水真澄に

よって作られてきたのだ。片思いであったけど私の魂の半分は、速水さんだから。


朝食は、速水さんがつくってくれた。トーストとハムエッグ、オレンジジュースと

簡単なものだけど二人で食べる食事は美味しくて楽しくて。

アルバイトで来てるのだから、別荘の掃除や洗濯を頑張ってやった。そのあと

敷地内の散策に一人で出かけた。速水さんは書斎で仕事をしてるようだ。

せっかくの休暇なのにやすめばいいのに。


昨夜、速水さんが見ていた木は、桃の木だった。実がたわわになってたので1つ

もぎって齧ってみた。甘い汁が口元を伝い首をつたい胸まとにまでかかってしまった。


「マヤ」

「速水さん」

「桃を食べたのか」

「え、食べちゃいけなかった」


「去年鳥を撃ったんだ。赤い鳥と白い鳥の二羽。そいつがこの木の下に眠って

るんでね」

「速水さんが撃ったの」

私は齧りかけの桃を地面に落とした。

「害鳥だったんだ。たまたま銃の手入れをしていて、紫織さんが白い鳥を撃って、

続いて俺が赤い鳥を撃った」

速水さんは、私をだきかかえると私の胸元に口付けを落とし、甘い桃の汁をなめた。

「昼ごはんにしよう」

「すぐに、仕度します。」私は、抱きかかえる速水さんの胸から降りようとしたけど

速水さんは、離してくれなかった。そのまま抱きかかえて、別荘へ向かった。

私は、桃の木を振替って見た。赤い鳥と白い鳥が木の枝に見えた気がした。

いや、人の姿だった。し 紫織さん。まさか、紫織さんはスイスの別荘にいるはずだし。

白いのは、は、速水さん。だって私を抱きしめてるよね。怖くなった私は速水さんを

強くしがみついた。速水さんは、深く口付けした。速水さんは現実にここにいる。


別荘に戻って、二階の寝室に私を横たえた。

「俺を暖めてくれるんだろう、君は」速水さんは昨夜と同じように冷たい暗い目をしていた。

「うん」

明るい昼下がりの寝室で互いにむさぼりあう二人を誰かが見つめてる気がした。

でも、私はこのぬくもりに溺れてしまって何も考えられない。

速水さんは何も言わない。私も何も言わない。ただ互いにむさぼりくいつくすだけだ。

そこには何も残らない。


intolerance(後編)