第184回「吹奏楽コンクール問題!その要点と解釈」 | 打楽器奏者・嶋崎雄斗のプレイヤー日記~折れない心と折れていくスティック~

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【同シリーズの記事】
















2017年・夏!

都内では小学校から大学、一般まで吹奏楽コンクール目白押しの季節だが、ここ数年この時期になると必ずネットで盛り上がるのがコンクールの問題点の提示だ。



審査が公平じゃないとか、ブラック部活だとか、顧問がひどいだとか、まあとにかく色々な酷評が飛び交う中、大抵の吹奏楽関係者は

「いやいや、そんなこと言われたって吹奏楽を知らない人にはわからないよw」

と華麗にスルー!!

まあ反論すると余計喜ぶような人もたまにいるし、静かにやり過ごした方が良いということだろうか…





とは言え、確かに吹奏楽、特にコンクールにおける部活としての運営には謎が多いのも事実。中には噂だけが広まってしまい誤解されている部分もある。

というわけで、よく耳にする「吹奏楽コンクールの問題点」からいくつか、打楽器奏者・指導者から見た現場の意見としてなるべくわかりやすく解説してみたい。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

1.審査の公平性について

2.指導について

3.吹奏楽というジャンルについて

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





1.審査の公平性について


【審査員によって点数やコメントが全然違う?】


複数の審査員で点数を評価され、その平均点によって賞が決まる吹奏楽コンクール。

演奏後には点数と一緒に各審査員の先生方が書いた講評用紙が各学校に配られるのだが、今後の課題にしようとこれを見てみると「大きい音に迫力のあるアンサンブルでした!90点」と書いている先生と「大きい音も丁寧なハーモニーを心がけましょう。75点」と書いている先生がいる。

え、点数バラバラだしコメントなんか矛盾してない?どういうこと…?(・・;)


これは複数の、それも専門分野の異なる(フルートだったりトランペットだったり作曲だったり)先生を「審査の偏りをなくす」ために呼んでいることで起きる現象。審査員は演奏全体を評価しつつそれぞれの専門分野も気にしながら点数をつけるため、ある程度のバラつきが出るのは当然とも言える。

また、審査員が演奏を聞いてから点数をつけてコメントを書く時間は、次の学校へのセッティング転換中…だいたい3分!めっちゃ忙しい!

この時間で今の学校への課題をなるべくたくさん書いてあげよう…と思った時に、

「和音は微妙だったけど大きい音に迫力があるのはキープしてほしいな」→「迫力のあるアンサンブルでした」

「音がしっかり出ていたのは素晴らしいけどもっと和音にも注意して練習してほしいな」→「丁寧なハーモニーを心がけましょう」

という風に書き方がズレることになる。


じゃあ審査員がコメントを書く時間を増やしてあげれば良いんじゃない?と思われる方もいるかもしれないが…時間が伸びれば会場を借りるのにもお金がかかるし、顧問の先生方の時間だって取られることになる。

というかコンクールが開催期間中に終わらなくなっちゃいます。







【審査員に管打楽器以外の音楽家を入れたら?】


ピアノやヴァイオリンの先生にも客観的に審査していただこう!という意見。

地方ではこういう試みをしている支部もあるのだとか。ただ、予算やスケジュールなどの関係で吹奏楽に詳しい審査員を呼ぶのが難しい場合に多いらしい。

この辺が「吹奏楽を知らない人にはわからないよ」問題でもある。どうしても、管打楽器や吹奏楽の作曲家ではない人に審査を任せるのは違和感があるのだ…同じ「音楽」なのに、なぜ?


吹奏楽という音楽ジャンルについては後半に書くことにして、専門の楽器以外の審査にはどうしてもブレが出てしまう。前に知り合いのピアニストにも聞いてみたことがあるが、「吹奏楽の審査を私がするとかウケる」だそうだ。

なんとなく「音楽」と言うと一括りにする傾向があるように思える。これが「スポーツ」だったらどうだろう。サッカーの試合の審判を野球の選手が行う?あり得ないでしょう。


では逆に、打楽器の俺が「ピアノのコンクールの審査員をしてください」と頼まれたとすると…うわぁ絶対に嫌だw









【人数が多い方が有利?】


ぶっちゃけ有利なことは間違いない。

たくさんの人数で演奏すればそれだけ音量の幅も曲想の変化もつけられる…というのもあるが、そこは審査員はちゃんと判断している。人数が少なくてもその中で美しくダイナミックな演奏ができていれば高い評価がつくし、実際に小編成でも金賞を取る学校はある。

「人数が多いところは上手い学校が多い」というのは、

・同じパートにたくさん仲間がいることで教え合う、競い合うことができる

・コンクールに出るメンバーを選抜することができる

・逆に上手いから部員が集まる

こんな感じだろうか。

これも運動部なら当たり前で済まされる話なのに吹奏楽部ではなぜか問題にされることがある。「あそこの学校の陸上部、部員が多くて優秀な補欠がたくさんいる!ずるい!」とはならないはずだ。

人数が少ないだけで良い賞が取れないと思っているならそれは違うよ!








2.指導について


【部活で顧問の先生のお給料は変わる?】


私立は時間給が発生する。金額は学校により様々で大抵が時給制のようだ。

公立も手当てが一応出るには出る…でも「今日朝から夕方まで部活やって日給300円だわw」と自虐的な先生あるあるネタを聞いてしまった…。

公務員の先生という職業、これはこれで大変だ。大抵の先生が「生徒が頑張ってるから自分も頑張ろう」と時間を削って部活に参加したり勉強会に参加したりしている。

特に公立の部活で土日も顧問の先生が練習に付き合ってくれるという生徒の皆さん、感謝を忘れずに。


ついでに「そんなに上手くならなくても良いから土日の練習をなくしてほしい」というような団体があれば早めに相談した方が良い。先生にとっても生徒にとっても、こんなに無駄な時間はない。









【良い賞を取るとコーチがボーナスをもらえる?】


ほしいわ!w

これ、都市伝説みたいなもんだと思うんだけど…本当にあるのかなぁ。とりあえず自分の周りでは聞いたことがない。

「おかげさまでここまで勝ち進みました!ボーナスね!」って言って顧問の先生に焼肉を奢っていただいたことならある。生徒たちの喜ぶ姿を思い出しながら食べる焼肉は死ぬほど美味かった。


ボーナスというわけではないが、「指導で有名になると色々な学校から呼ばれる=仕事が増える」というのはあるかもしれない。

ただ、頑張ってる子供たちを見て頑張って教えてあげたいと思うのも演奏者(あるいはレッスンプロ)の心情であって、「仕事が欲しいから指導を頑張ってる」という人は少ないように思う。

子供たちと一緒になって頑張った結果、指導の仕事が増える。更に多くの子供たちと頑張れる。素晴らしいことじゃないの。










【「勝つ」ための指導は音楽的ではない?】


これは指導者によっても意見が分かれるところ。最近ではネット上で「賞にこだわって練習するのは面白くない」「良い音楽を追求すれば自然と結果はついてくる」といった書き込みも多く、何となく「良い賞を取るぞー!おー!」的な雰囲気は減っているような気もする。

この「コンクールのために」というのが問題になる理由のひとつとして、運動部(スポーツ)では元々試合に勝つことが目的であるのに対して、吹奏楽部(音楽)では本来は観客を楽しませるのが目的であることが挙げられる。

フィギュアスケートで例えると、点数をつけられて順位を決める「大会」と観客を魅了する「エキシビジョン」。音楽の本来の役割はエキシビジョンの方だという考えは誰にでもわかりやすい。


ただ個人的には勝つための指導、良いか悪いかは別にして有りだと思う。

だってせっかくコンクールという「大会」に出るんだもの。誰だって出るなら良い成績を残したい。先生だって子供たちに良い賞を取らせてあげたい。

賞がいらないなら最初からコンクールなんて出ないでその時間を地域での演奏などに費やせば良い。実際そうしている学校もある。


目標は金賞!そのために何が必要?ひとりひとりが良い音を出したい、和音を綺麗に響かせたい、リズムを揃えたい…それは美しい音楽を奏でるためのアプローチと何が違うのだろう。

それに全国大会に出るような学生たちの演奏、本当に素晴らしいですよ。










3.吹奏楽というジャンルについて


【吹奏楽ってこんなに音量必要?】


オーケストラやヴァイオリン音楽の愛好家の方が初めて吹奏楽を聞くと、あらビックリ!トランペットもガッツリ吹いてるし打楽器もガチャガチャ…こんなにうるさい音楽だなんて!


詳しくはwikiやまとめサイトなんかを見ていただければわかるのでここでは簡単に…吹奏楽は軍隊の音楽として発展した演奏形態である。

突撃、撤退などの合図や、味方への鼓舞あるいは敵への威嚇として使われてきた音楽。そのため、野外でも遠くに聞こえる音量、激しい打楽器のリズム、勇敢なメロディなどが好まれるようになり、現代の吹奏楽音楽にもそれは継承されている。

つまり吹奏楽というのは「格好良い!強そう!」と思われてナンボな音楽なのである。だから音量が他の生演奏音楽と比べて大きくなる。


これが室内楽の流麗な音楽と区別され「吹奏楽は音楽じゃない」なんて言う人もいる。まあ好みは人それぞれだが、音楽の歴史と戦争の歴史は密接に関わっているし、クラシック音楽の発展という見方からしても吹奏楽は楽器改良などにも深く携わっている。

この歴史を知っているだけでも吹奏楽の見方がずいぶん変わるはず。音量が大きいのにも理由があるんです。










【髪型とかを揃えてる学校はなんで?】


コンクールで髪型を同じにしている学校をちょくちょく見かける。強豪校と呼ばれる学校にも多いこの現象、やはり初めて見た人の中には「そこまでやらなくても…気持ち悪い」と思う方もいるらしい。

では皆さんがプロの演奏会を聴きに行く時に、身だしなみが綺麗で揃っている団体を見たいか、ヨレヨレのTシャツで演奏している団体を見たいか。極端な例になってしまって申し訳ないが、どちらが良いかは明らかだと思う。


先にも述べた通り音楽はエキシビジョン的な要素を多く求められる。ユニフォーム(制服)がきっちり揃っている方が格好良いに決まっているし、髪型だって揃ってた方が美しい。

さすがに運動部みたいに丸坊主にしろとまでは言われることはないだろう。女性部員が多い傾向にあるため後ろで束ねるとか三つ編みにするとか、その日すぐにできる髪型を選択している団体がほとんどだ。(運動部だと女子でも坊主にしているところもあるけど…)また、各学校の特色を出すのにも一役買っている。


別に髪型を揃えなければ減点!なんて酷い審査をされるわけではない。各自に任せるよりも揃えた方がお互いに気がつくし見栄えが良いから、そうしましょうね、と決めている学校があるだけだ。










以上!

どうしても狭い世界になりがちな吹奏楽界…詳しい人がなかなか近くにいないため「これ、なんで?」の声が届きづらいのかもしれません。


ちなみに僕は中学も高校も運動部の出身なので、吹奏楽と深く関わるようになった今でも「吹奏楽コンクールは特殊なところだなぁ」とは思います。

ただネットで騒がれているようなブラック部活って本当にごく一部だし、運動部では普通なのに吹奏楽部ではおかしいと騒がれていることって結構あると感じています。音楽に対する「優美な」という一般的イメージもあるのかもしれません。

あとはスポーツのようなわかりやすい勝ち負けがないので、いろんな人がいろんなことを言って混乱するんですよね。あ、この記事もそうか!





吹奏楽コンクールに疑問を持つ皆様、少しでもお役に立ちましたら幸いです(^_^*)