Sibelius 7.5発表 | PENGUIN LESSON

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NAMM ShowにてSibelius 7.5が発表されました。これまで2年周期でメジャーアップデートしてきたSibeliusですがSibelius 7が出てから2年半以上経った今、7.5という中途半端なアップデートの登場です。

2012年の夏にイギリスのSibelius開発チームがAvidにリストラされたというニュースを見た時の衝撃は今でも忘れません。元々のオーナーがAvidから買い戻そうと相当頑張ったようですがAvidはオファーは断りました。Facebookからスタートした「Sibeliusを存続させて欲しい」という署名には私も参加しましたが、Avidからは正式な回答はなく、リストラされるまで元々の開発チームが用意してきた次のアップデートが最終版になるという噂は今でもいろいろなところで耳にします。

NAMM Showでの発表を受けて、これだけ長く待たせた後で「バージョン8」と呼べるアップデートが用意できなかったのがSibeliusの開発がほぼ止まっている証拠だと圧倒的にネガティブな意見が多く見られます。今回追加された新機能の中に、リストラされる前に用意されていたものがどれだけ含まれているのかは分かりませんが、今回のアップデートの内容は失望としか言い表せません。

もちろん2月発売予定なので現時点ではまだ触ることはできませんから、公式発表とsibeliusblog.comの情報を元にした感想です。

まず楽譜作成に関する大きな改善点はゼロです。バージョン7までで随分進化してきたのは事実ですが、パート譜の書き出しも含めて改善できる部分は多くあります。私も改善リクエストを何度か送ってきましたが、今回の7.5は楽譜を作る上では7と何も変わりません。楽譜作成ソフトの有料アップデートがこれで良いのでしょうか?

今回のアップデートは主にナビゲーションとプレイバックに関する進化です。

ナビゲーションではTImelineという新しいウインドウが追加され、リハーサルマークやテンポ、拍子、調号や楽器の活動の全体像をこれまでより容易に見渡せるようになりました。ただし、このTimeline上でリハーサルマークを追加したり、あるパートから別のパートや別の小節にアイデアをコピーしたりといった編集は一切できず、DAWを使い慣れたユーザーにとっては中途半端に感じられると思います。また再生中に再生ヘッドすら表示されないようですから、ナビゲーションツールとしても中途半端です。

Notionが登場してから、SibeliusもFinaleもプレイバック機能を充実させようと躍起になっているようですが、本当にニーズがあるのでしょうか? 私は楽譜ソフトにおいては音符の入力間違いがないか確認できるだけで良いと思っているので「表情豊かな再生」なんかよりも、NotePerformerのように弦楽器のハーモニックスが自動的に正しいピッチで再生される方が意味のある進化だと感じています。他にもアコーディオンや打楽器の記号を正しく読み取るようになるのなら、再生機能の充実は歓迎します。

しかし、打ち込みで仕上げる仕事では、どれだけ再生機能の表現力が向上しても、LogicやCubaseなどDAWには敵いませんし、第一ミックスやマスタリングは結局DAWを使わないといけませんから、どのみちSibeliusだけでは完結できません。特にキースイッチやプログラムチェンジ、CCなどを多用する最近のオーケストラ音源にSibeliusは全く対応できない以上、意味のない再生機能に力を注ぐのは方向性を間違えているようにしか思えません。

繰り返しになりますが、楽譜ソフトの再生機能に求めるのは「楽譜通りの音が出ること」であって、「人間らしく表現をつけて演奏すること」ではありません。そして前者も後者もNotePerformerで満足しています。

敢えて新再生機能で面白いと思ったのは、楽器ごとにグルーブの解釈を変えられるようになったことでしょうか。例えばドラムだけ前のめりに演奏して欲しい時に指示として「Ahead of the Beat」と楽譜のドラムの上に書き込むと、そのように演奏してくれるようです。ただし、スイングの曲でAhead...を書き入れると、そのパートだけストレートで演奏されるなど、笑える(イライラさせられる)部分も多々あるようです。

楽譜解釈の向上という点では、スラッシュ付きの装飾音符(acciaccaturas)とスラッシュのない装飾音符(appoggiaturas)を正しく区別したり、バロック音楽などで特に使われるターンやトリルの記号を正しく解釈したりと評価できる部分もあります。これまで「a tempo」とか「tempo primo」とテンポの指示を書いても無視されていたのでメトロノーム記号を書き入れた後に印刷されないように隠す必要がありました。これも正しく解釈されるようになっているようです。

あとはブラジルとロシア向けのローカライゼーションとYouTube、Facebook、SoundCloudへの共有機能、Scorchアプリとの統合と、どれも私には全く必要のない機能です。

腹立たしく感じているのは、楽譜作成に関して何も改善していないのにも関わらず、7.5で作成したファイルはそれ以前のSibelius 7で開けない仕様にしたことです。互換性を持たせることは簡単に出来たはずなのに、敢えてしなかったところにアップデートしないと不便に感じるようにしてやろうという悪意を感じます。

もちろん、旧Sibelius 7の形式で書きだすオプションは用意されています。でも、仕事で頻繁にSibeliusファイルのやり取りをする私にとっては、いちいち「旧Sibelius 7の形式でもう一度送り直していただけますか?」というやり取りをしないといけないのは大きなマイナスです。それが面倒だからという理由で必要としないアップデートを購入することになりそうで残念です。またこちらから送る場合も、念のため7のファイルで送るなど気を使わないといけないのもつまらないなぁ。

Sibelius 7.5は2月販売予定で、7から7.5へのアップデートは4,900円です。はっきり言ってぼったくりです。わざわざ上げる価値のないアップデートだと思います。

ちなみに2012年夏にAvidを解雇されたオリジナルのSIbelius開発チームは、その年の11月にSteinbergに雇われ、現在新しい楽譜作成ソフトを開発中です。今回のアップデートを見る限り、Sibeliusの今後のアップデートにはあまり期待できなさそうですので、Steinbergの新しいソフトに救世主になってもらいたいものです。教育関係にも強いYamahaですから、Avidみたいに簡単に潰してしまうこともないと信じて待ちたいと思います。Steinbergは新しい楽譜ソフトへの要望も積極的にきいてくれますので、私もすでにたくさん送っています。