人々が知らないことを教えるのではなく、
実例によって道を拓いてやる
不断の困難な仕事である。
- ジョン・ラスキン -
スクールは、普段どうしても
プロ目線になってしまいがちな私達が、
お客様の声をじっくり聴くことができる
チャンスでもあります。
・何がわかっていないのか
・どこが苦手な人が多いのか
・何を知りたいと思っているか
などがわかってくると思います。
そして「教える」ということは、
それまで自分が何気なくやってきたことを
「言語化」「可視化」し、
伝えるということです。
この「言語化する」という作業は、
スクールでもしない限り
あまりやらないと思います。
マニュアルを教わって
会得したことならば、
簡単に説明できますが、
誰に教えてもらったわけでもなく、
経験の中から自然に自分でやっていることを
言葉にしようとするのは
難しいことです。
それを人に理解してもらうためには、
それらにすべて「理由」や「目的」をつけて
説明しなければならないからです。
しかし、これをやっていると、
いろいろなことに気づき始めます。
生徒さんが自分に求めていることが
わかるということは、
つまりどんどん「自分の強みが明確になる」
ということなのです。
すると、不思議なことに、
ブログやSNSに記事を書いたりする際、
スラスラ文章が書けるようになります。
誰に向けて、何を言えばいいのかが
はっきりわかってくるからです。
初めてお会いした人にも、
自分のことをきちんと説明できるようになります。
こうしてビジネスへの集客もアップしていくのです。
以前、ネイルのインストラクターを養成する
集中特訓セミナーに参加した時のことです。
メーカーが、自社商品を各地で広めるために、
日本各地から講師候補のネイリストを選び、
インストラクターにするための教育をし、
各地でセミナーをやってもらうのです。
それまでに数ヶ月間、課題提出などをクリアし、
最終的に3日間、都内で缶詰になり、
朝早くから夜までのハードスケジュールで
特訓セミナーがありました。
アメリカ本社から
先生が3人来日していました。
セミナーが始まってまず最初に、
「私たちが考える○○インストラクターの
あるべき姿について、
あなたはどう思いますか?」
という質問をされました。
最初は勢い良く手が挙がりました。
「聡明であること」
「常に自分磨きを怠らないこと」
「明るさを持っていること」
「技術を向上させる努力をしていること」
など、たくさんの意見が出ました。
しかし先生は
「まだあるでしょう?日本人はシャイなのね。
もっとたくさん意見を出して!」
と言うのです。
でも、いくら絞り出してもそこからはもう
似たような答えしか出てきません。
私はそのことにだんだん飽きてきて、
「もうわかったから、早く技術を教えてよ。」
と考えていました。
他の人達も、早く技術はやらないのかと
焦っている様子がうかがえました。
ところが驚いたことに、
その後ブランドの理念や歴史、
大切にしていることなどの講義を受けた後、
また同じ質問の時間が続き、
1日目はほとんどの時間を
そのことに費やして
終わってしまったのです。
そして、何と2日目も
「会社がどれだけ愛情を込めて
商品を作ってきたか」
「この商品でどんな人にどう
幸せになってもらいたいか」
など、商品に対する想いや特徴、
こだわりについてを
とことん掘り下げました。
そして、最終的に技術を教わったのは
3日目の午後だけだったのです。
そして最終日に表彰が行われました。
「3日間を通して○○だった人」
という賞でした。
○○は、それぞれ1日目に話した
「インストラクターのあるべき姿」でした。
私はハッとしました。
そうか!あるべき姿を
きちんと理解させることが大切なんだ!
あるべき姿に
「常に積極的に学び、技術を向上させる人」
というのがあれば、
その人は自分で学ぶことができる人なのだから、
何もセミナーで手取り足とり
技術を教える必要なんてないんだ!
マニュアルから先に教える日本の教育とは
まるで逆なのだと思いました。
マニュアルを教えてしまったら、
マニュアルのことしかできない人になりますが、
あるべき人間像を教えれば、
成長に限度はありません。
失敗させないようにやり方を教えるのではなく、
失敗した時に負けずに立ち上がり、失敗を検証し、
どうすればもっと上手くいくかを工夫して、
またチャレンジできる精神をつければ、
むしろ失敗した方が成長するのです。
とても大切なことを教えてくれたセミナーでした。