『幕末・維新』の素晴らしさ | いいかげんにっき

『幕末・維新』の素晴らしさ

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)/井上 勝生
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 岩波新書の「シリーズ日本近現代史」のなかで,わたしが第1巻『幕末・維新』をベストだと,現時点ですが,思う理由は...少なくとも,わたしにとって常識だったことがひっくり返されたことです。

 「アメリカの黒船によって開国を迫られた江戸幕府は,徹底的に無能であり,その結果不平等条約を押しつけられ,あげくのはては薩長土肥を中心とする勤王派によって妥当され,明治維新が実現した」というような歴史理解を,わたしはしておりました。

 ところが上記書の著者である井上勝生さんは,徹底的な資料分析によって江戸幕府の役人たちは世界の情勢について十分な知識を有し,アメリカ側の恫喝や詭弁にぎりぎりまで抵抗したことを明らかにしています。たとえばアメリカ代表が「アメリカ合衆国は戦争で他国から領土を奪ったことがない」と言いますと,幕府の役人はアメリカが戦争によってメキシコから領土(カリフォルニアとニューメキシコ)を奪ったという事実を指摘して,反論したのです。

 江戸幕府の役人にかぎらず,江戸時代の日本に住む人々の教養と思考力は当時の西欧人に決して劣るものではなかったのです。もちろんそれは教育の成果です。

 

 教育を軽んじる国は衰えます。