児童文学への深い愛情 | パラミタ、発動す

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日々感じたこと、読んだ本のこと、聴いた曲のことなど、書きたいことを書いています。

08.8.12
今江 祥智『幸福の擁護』は久しぶりに読みごたえのある本で、児童文学の戦後50年史という内容だ。著者自身は今や児童文学界の重鎮というか大御所というか大作家でいくつか知っている作品はあるけれど、児童文学というジャンルはほとんど知らないので興味深く読ませてもらった。200人以上の作家たちの作品の書評的な解説と人柄が紹介されており、とにかく今すぐその本を読んでみたくなって困ってしまった。それだけ、今江 祥智の書評が上手いわけだが、なによりも、児童文学への深い愛情が行間から溢れでている。子どもたちが手にする本が、豊かな人生の栄養剤となることを願い、子どもたちがワクワクしながら読んでくれる本、希望や夢を大きく膨らませることができる本を世に出したいという情熱が全編にほとばしっている。そして何よりも、子どもたちの手に本を渡す大人自身が、豊かな情緒と知性、感性を身に付けてほしいという メッセージが込められているのはあるまいか。
 知らない作家が多かったが、それでも河合隼雄、灰谷健次郎、梨木香歩、江國香織、佐野洋子、谷川俊太郎、長新太、田島征三ぐらいは知っているので、その人たちが登場してくる箇所は楽しい。
 中でも、今や大ベストセラーとなり、今年映画化された梨木香歩の『西の魔女が死んだ』については、河合隼雄から、まだワープロ原稿の段階で読むのを勧められたというエピソードが楽しい。一読するや「私たちはこの小型の洒落た本で、子どもの地平をまた大きくひろげてくれた一冊を持つことになった」と感嘆し、「さりげない造りの中に精巧にして強力な爆薬がしかけられているが、読者は吹き飛ばされるのではなく、逆に癒されるのである」「この新人のおそるべき構想力と筆力・・・またしても、いやなライバルが現れたぞ・・・、三十五年ばかり前から子どもの本の世界にとびこんで以来の手ごわい書き手と出会った」と絶賛している。その他、江國香織についてもたびたび登場し、高く評価している。いずれも敵とするのではなく、先駆者として、自分の後に続いてくれる頼もしい後輩というやさしい目で彼女たちを見つめており、今江 祥智の懐の深さを感じさせる。とにかく、今江 祥智自身の著作はもちろん、この本で紹介されている児童文学や絵本を読んでみたい。これでまた古本屋巡りが楽しくなるだろう。