雨の訪問者 1 | ~ 嵐気に包まれて ~

~ 嵐気に包まれて ~

嵐さんのメンバーのお名前や雰囲気をお借りした読み物です。
腐的描写や暴力的シーンがあります。
気を付けてご訪問ください。
山、大宮、櫻葉、モデルズ、にのあい等、様々なCPのお話がありますので
お気に入りのCPでお楽しみください。

注意メンバーのお名前や雰囲気をお借りしたお話となっております。
   BL的描写が含まれている場面があります。

   苦手な方は入らないでください。





俺が彼に初めて会ったのは、雨の激しく降る秋の夜だった。

銀行に勤めている俺は、地方の支店から東京の本部に異動になったばかりで、

慣れない仕事に追いまくられる日々を送っていた。

長い一週間が終わり、明日から三連休だ。

異動が決まってから、前任店での引継ぎと送別会、

新しい部署での引継ぎと歓迎会と、息つく暇もなかった。

しかも転居を伴うものだったため、引越しの準備と諸々の手続きで、

もう本当に泥雑巾のように疲れ切っていた。



まだ部屋の中は段ボール箱だらけで、足の踏み場もない。

なんとか通り道だけは確保してあるが、

この連休で少しは片付けなければならない。

でもその前に、明日は一日寝て過ごそうか、などと考えながら
駅の改札を抜ける。




夕方から降り出した雨は激しさを増していて、

傘も役に立たないくらいだ。

スーツはしっとりと湿っていて嫌な匂いがする。
これもそろそろクリーニングに出さないとな。

マンションのエントランスを入り、傘をぶるぶると降って水滴を飛び散らしながら

エレベーターへと乗り込む。   
  

3階で降りて、同じドアが並んでいる廊下を重い足取りで歩く。
靴の中まで水が入り込んでいて、歩くたびにぬちゃっと嫌な音がする。






ぐっしょりと濡れた鞄から苦労して鍵を探し出し、視線を上げた時、

自分の部屋のドアにもたれて座り込んでいる人影を見つけた。



ん? 酔っぱらいか?

どこの部屋の人だ?


訝しく思いながら近づいていく。

膝に手を組んで顔を伏せている。

柔らかそうな茶色がかった髪。


と、足音に気付いたのかそいつがふっと顔を上げた。

きれいな顔立ち。 
黒目がちな瞳が不安そうに見上げてくる。

なんか迷っている子犬を見つけた時みたいな感じ。

いや子犬というより草食動物系だから子鹿か?
なんてバカな事を考える。





「えっと、どちらさま?

 ここ、俺の部屋なんだけど。」

「あ、やっぱり・・・。

 ごめんなさい。」

のろのろと立ち上る。

「なんか頭がぼーっとしてて、気が付いたらここにいたんです。

 もしかして自分の部屋かなと思ったんだけど、鍵、持ってなくて・・・。」

「どっか他の部屋なんじゃないの?

 違う階の同じような場所とか。」

「そうかもしれません。

 ほんと、すみませんでした。」



歩き出そうとして、ぐらっとよろめく。
思わず手を出して腰を支えた。

細いな。


「大丈夫? 酔ってんの?」

「いえ、なんか頭が痛くて・・・。」

「部屋、どこ? 送ってくよ。」

「・・・。」


頭を押さえながら考え込んでいる。

酔っぱらって朦朧としているんだろうか。

こんなに具合が悪そうなのに、このままほったらかしにもできないか。

どっかで倒れられたりしても後味悪いしな。


「うちで休んでく?」

「えっ? いいん・・ですか?」

「別にいいよ。

 引っ越してきたばっかで、すんげぇ散らかってるけどね。」

「でも・・・。」

「酔いが醒めれば自分の部屋もすぐにわかるよ。

 帰巣本能ってやつでとりあえず帰って来ちゃったんじゃない?」



鍵を開けて招き入れる。

玄関も俺の靴が散乱していて足の踏み場もない。

「ああ、ごめん。

 靴、そこの段ボールの上に置いて。」

空になった段ボール箱を積んである方を指さす。

「あっと、濡れちゃってるか。 床の方がいいかな。」

思い直して、自分の靴をどかしてスペースを作る。

その時、彼の靴が全く濡れていないことに気が付いた。

だいぶ前からここにいたのか?




「とりあえず、上がって。」

片手を壁について、ぐちょぐちょの靴下を脱ぎながら、

奥の方へ顎をしゃくる。

「すみません・・・。」

消え入りそうな声。

ちょっとふらつきながら、中へと入って行く。



靴下を洗濯機に投げ入れ、タオルで足を拭いて、
ついでに濡れた床も拭く。

新しいタオルでスーツの肩口の水気をとりながらリビングへ入ると、

彼が所在なさげにぼんやりと立っていた。



改めて部屋の明かりの中で見る。

背は俺より少し高い。

細身だけど割としっかりした骨格。

同じくらいの年齢か。

服装はラフでサラリーマンではないようだ。

いや、でも今日はたまたま休みで、昼から飲んでたとかもありか。




「身体、冷えてない? 風呂入る?」

「いえ、大丈夫です。」

悪酔いして気持ち悪いのかもな。

「ここ使って。」

ソファの上に乱雑に積んであった服を一掴みにしてどかす。

「横になるといいよ。

 今、なんかかける物持ってくるから。」

「もう、ほんとに大丈夫です。 このままで。」

「顔色悪いよ。 水、飲む?」

無言で首を振る。



「とりあえず、横になりなよ。」

クッションを枕がわりに、頭の下に入れてやる。

されるがままで、なんか保護欲をくすぐられる。

「もし気分が悪くなったら、トイレはそっちだから。」

「あ、はい・・・。」


ま、時間がたてば酔いも醒めるだろう。
こっちも人のことを気遣ってる余裕はない。




熱めのシャワーをざっと浴びると、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、

キッチンで立ったまま一気に流し込む。

リビングの明かりは消してあるので、うすぼんやりとしか見えないけど、

すでに眠ってしまったのか身じろぎもしない。


成り行きで家に入れちゃったけど、もし泥棒とかだったらどうすんだ?

ま、盗られて困るような物もないし、いっか。


ビールの缶をくしゃっと潰すとゴミ箱に投げ入れ、電気を消して寝室へと向かう。

ベッドに横になった途端、沈み込むように眠りについた。





                           ≪つづく≫