虎は死して伝説を残す:寅 | パンデモニウム

パンデモニウム

日々の気になるコト・モノを万魔のごとく脈絡なく取り上げていきます

※何度かのブログフォーマット変更により改行ポイントがずれてしまい、ほとんどのページがガタガタになっております。
読み難くて申し訳ないです。

例年と異なり、寅年も残りわずかというタイミングでコソッとアップです・・・(;・∀・)

年頭には書き始めていたのですが、何故か手が進まずでした。

不穏な内容はいつもの事ですが、虎だけに生々しい死が連想されたのかもしれません。

これは、人間の都合で(回復傾向の地域が有るとはいえ)絶滅の危機に追いやられている虎自身もですが。

 

 

 ↓ 河鍋暁翠(かわなべ きょうすい:1868~1935年) 

  『毘沙門天寅狩之圖』(1889年)

  虎は百足と共に毘沙門天の神使ですが、ここでは戦っているように見えますね

 

 

 

虎は中央~東南アジア及びロシアなどに生息しているので、虎が登場する伝説・民話もこれらの地域が中心となります。

その生態や外見からのイメージ通り、強さや勇敢さ、更には獰猛さや残虐さの象徴とされます。

空の龍に対して地の虎、ですね。

虎が生息していない日本でも、その存在は主に古代中国や朝鮮から伝聞として流入していましたし、中世から近世には毛皮も輸入されていました。

画題としても人気でしたが、本物を見た絵描きは少なく、概ね猫を参考にした表現が多いですね。

 

その強さ故、虎を退治する英雄の伝説や絵は多いですが、強さを己の物にしたいという欲望とそれに対する恐怖が結びつくと怪異となります。

 

 

日本ではあまり馴染みが無い存在ですが、人虎(じんこ)・虎人(こじん)などと呼ばれる獣人が中国、インド、インドネシア、マレー半島などに伝わっています。

これらはある種の魔術によって人間が变化するモノ、或いは憑き物の一種ともされます。

ヨーロッパを中心とした狼男伝説と非常に近い関係です。

中国の志怪説話集に収録される「人虎伝」を題材に書かれた中島敦(1909~1942年)の『山月記(さんげつき)』では、唐の時代、高慢で官吏になる事にも詩人になる事にも挫折した李徴(り ちょう)が虎に变化した末に旧友・袁傪(えんさん)と再会し、己の身を嘆く姿が描かれます。

『山月記』では虎になる理由は明らかでなく、強欲や高慢の象徴的な変化と解釈出来ますが、原典では理不尽な殺人を行った因果応報とされています。

 

2022年は特に、人虎の様なヒトを多く見たような気がします・・・

「人でなし」という言葉が有るように、自分の理解が及ばない程残虐なヒトに人は人虎を見るのでしょう。

 

 

 ↓ 泉屋博古館蔵 「虎卣(こゆう)」(殷(商)後期;紀元前11世紀) 酒などの容器とされます。人を食べているとも守っているとも、邪鬼を食べているともされ、定かではないです。

前項でも触れた饕餮(とうてつ)文が施されています。饕餮文が実は饕餮そのものを意味するのか確かではないのですが、ここに貪欲を司る饕餮が関わってくるのが面白いです。

 

 

 

虎の妖怪と云えば、鵺(ぬえ)が有名でしょうか。

『平家物語』に登場する頭は猿、胴は狸、尾は蛇、そして手足が虎という妖怪で、弓の名人・源頼政(1104~1180年)に射殺されました。

鵺は和製キメラとでも云うべき容姿からでしょうか、史跡などが残っているからでしょうか、記録の数に比べ妖怪としてはかなり有名な部類に入ります。

しかし、この類話とも云える伝説が岐阜県に有ります。

おおよその話は・・・

 

昔、美濃国高賀山(こうがさん、こうかさん。現在の関市及び郡上市)に魔物がいました。

この魔物は麓の村に降りてきては田畑を荒らしたり、女子供を連れ去ったり、夏に雪を降らせて村人を困らせていました。

そこで朝廷は藤原高光(ふじわらのたかみつ:939?~994年)を遣わします。

高光は、先ず高賀山の麓にお宮(後の高賀神社)を建て、村人と共に七昼夜祈祷しました。

すると夢の中で「瓢(ふくべ;ひょうたん)の中に動かぬものを討て」とお告げが有りました。

部下を引き連れて高賀山に連なる瓢ヶ岳に登ると、頂上には沼が有り、そのほとりに無数の瓢箪が生っていました。

その中でも一際大きな瓢箪に「夢のお告げはこれに違いない」と

弓で射ると、断末魔が響きました。

そこには頭は猿、体は虎、尾は蛇の魔物の死体が有り、「さるとらへび」と呼ばれました。

 

今でも神社や川や淵など、高光公の足取りが分かる程の史跡が残されています。

 

 ↓ 高賀癒しの郷HP より(以下2店)

  右下にさるとらへびの姿が有ります。

 

 

 ↓ 関市・高賀神社にある像

 

 

 

最後は、前項でも取り上げた 『怪奇談絵詞(かいきだんえことば)』「虎にゃあにゃあ」です。

本作は、諸外国や世相への風刺などを妖怪絵巻に仕立てたもので、何故か「虎にゃあにゃあ」だけ2点3体描かれています。

前項の詞書には、

「禅宗の経文にとらにゃあにゃあと

 云は是なり

 欲深き坊主

 の顔に似たり 子が

 また至

 て手がながし

 丁銭を

 好んで

 地獄銭筒の

 竹に住む しかも

 だいのねこなでなり」

と有り、強欲の僧を風刺しています。

「虎にゃあにゃあ」は、禅宗で読まれる仏教の経典『大悲心陀羅尼(だいひしんだらに)』の出だし「南無喝囉怛那哆囉夜耶(なむからたんのーとらやーやー)」の地口ですね。

その子供も手が長い(手癖が悪い)。

お金が好きで、竹で出来た銭筒に住む。

そして猫なで声である、と。

ここでも強欲の象徴として描かれています。

 

 ↓ 『怪奇談絵詞』より 「虎にゃあにゃあ」

 

 

 

2022年はまさに虎の様に駆け抜けていきましたが、2023年も兎の様に、ですかね・・・