メディア関係者様向け:ティラノサウルス「類」にご注意 | 化石の日々

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オフィス ジオパレオント代表のサイエンスライター 土屋健の公式ブログです。
化石に関する話題,ときどき地球科学,その他雑多な話題を書いていきます。

古生物関連の記事を読んでいると,シバシバ混同されているなぁ,と感じるのが,
ティラノサウルスとティラノサウルス,
アノマロカリスとアノマロカリス
……などの「類の有無」についてです。

これ,実は「類があるかないか」は重要なので,ここにまとめておきます。

久々のざっくり認識でいえば,「類」とは「グループ」です。
なので,上の例は次のように言い換えることが可能です。
ティラノサウルスのグループとティラノサウルス
アノマロカリスのグループとアノマロカリス

ですので,例えば小学生の班分けのような概念でいえば,
山田さんのグループと山田さん
というぐらいのちがいがあります。
山田さんのグループには,山田さん以外にも,田中さん,中村さん,村上さん,上野さん,野山さんといったメンバーがいます。
「山田さんのグループ=山田さん」としてしまっては,無視された他のメンバーが可哀想です。
山田さんは班長かもしれませんが,田中さんは全校イチの俊足のもち主かもしれませんし,中村さんは全国模試上位ランキングのもち主かもしれません。
グループのメンバーにはそれぞれ個性があります。
(以上の名前はすべて例です。念のため)

古生物の世界でも同じです。

有名なティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)↓

フェバリット
ふぉっしるより許諾を得て掲載/フェバリット社の模型)

この恐竜は,ティラノサウルス類のティラノサウルス・レックスとなります。
ティラノサウルス類には20をこえる恐竜が属していて,グアンロン(Guanlong)やラプトレックス(Raptorex)などの,別に「ティラノサウルス(Tyrannosaurus)」の属名をもっていない恐竜が多数含まれています(というか,ティラノサウルス・レックス以外は,「ティラノサウルス」の属名をもっていません)。

つまり,「ティラノサウルス」と書くと(ほかにティラノサウルスの属名をもつ種がいないので)「ティラノサウルス・レックス」を指します。
そして,「ティラノサウルス類」と書くと「グアンロン」や「ラプトレックス」などさまざまな恐竜を指します。なかには「名前をつけるほどの情報をもっていない標本だけれど,ティラノサウルス類の特徴はもっているよね」という「名無しのティラノサウルス類」が含まれることもあります。

……と,いうことはどういうことかというと,

「ティラノサウルスに新種!」という記事を書くと,「ティラノサウルス」という属に「ティラノサウルス・レックス」以外の種,たとえば「ティラノサウルス・タロウ」とか「ティラノサウルス・ハナコ」とか(あくまでも例です)が発見されたことを指します。

一方で,「ティラノサウルスに新種!」という記事であれば,「グアンロン」や「ラプトレックス」,4月に報告された「ユティラヌス(Yutyrannus)」を指します。

誤解を恐れずに書けば,その動物を特定する「精度」でずいぶんちがいます。

まあ,ぶっちゃけ,それならば「ティラノサウルス類」なんて混同しやすい名前なんてつけずに,まったく別のグループ名「獰猛王様肉食竜類」とか(あくまでも例です)をつけてくれれば良かったとも思いますが,まあ,それは置いておくとして。。。

そういうことで,メディアの立場としては,「類の有無」を確認してから記事を書く事は,とても大切なのです。

ちなみに,「類」は畳み掛けで使われることがあります。
ティラノサウルスの場合だと,「竜盤獣脚コエルロサウルスティラノサウルス」と使われます。これは,分岐分類という分類法によるものです。
近年,リンネの階層分類(「目(もく)」とか「科」とか)にかわる分類法として主流になりつつある分類法ですが,分類の上下関係がわかりにくいという点があります。

「わかりやすさ」を重要視するメディアとしては,この「類」をどこまで分類的に使用していくかどうかは検討課題ではありますが,とりあえず「類の有無」が意味することは大事ということだけおさえて取材や情報収集をすれば良いかと思います。



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