カンブリア爆発の原因に「大不整合」? | 化石の日々

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オフィス ジオパレオント代表のサイエンスライター 土屋健の公式ブログです。
化石に関する話題,ときどき地球科学,その他雑多な話題を書いていきます。

久しぶりに地球史関連のお話。
カンブリア爆発の原因は,地球環境の変化の影響を受けてのものだった,というお話です。
もともと,この「大不整合」に関する論文は,4月のnatureで発表されていたものでしたが,論文の入手やら何やらに時間がかかり,このブログでまとめるのが後手にまわってしまいました。

さて,カンブリア爆発です。
かつて,スティーヴン・グールドは,ワンダフル・ライフの中で,「カンブリア爆発=現生動物の多様性をこえる動物群が一斉に出現した」と説明しました。
しかし現在では,この考えには異論も多くなっています。
「化石記録として」多数の生物が発見されるようになったということで,「カンブリア爆発=生物が化石に残りやすい硬組織を獲得」という側面も指摘されています。

このカンブリア爆発を説明する一つの仮説が,眼の誕生でアンドリュー・パーカーが披露している「光スイッチ説」。
この説をざっくりと端的にいうと,「眼をもつようになったことが,生物の進化を促した」ということになります。眼をもつ→獲物・天敵が見える→対抗策が必要になる,というわけで,硬組織化もその一端であったという見方です。
これはどちらかといえば,生物学的な要因です。

一方で,地球環境と生物進化の相互関係はなかったのか? というのは,以前からさまざまなな議論がありました。
いくつか有名どころをあげますと,リンの供給。
この時代,リン酸塩が大量に堆積しており,このリンの供給こそが硬組織化に一役買ったのではないか,と考えられています。リンは,硬組織の材料の一つです。
ほかにも,酸素濃度の変化があったともいわれています。
カンブリア紀の海洋は,全体的には今よりも貧酸素環境だったとみられていますが,その中でも,酸素の増加があったのではないか,というお話です。
酸素が多い方が,生物が活発化する。このことが関与したのではないか,という話ですね。

今回注目されているのは,こうした地球環境と生物進化の関係についてです。
キーワードは「大不整合(Great unconformity)」。

「不整合」というのは,地層の重なり方の一つです。
ざっくりいえば,前(下)の地層が堆積してから,その後(上)の地層が堆積するまでに「時間的間隙」があったことを意味しています。
多くの地層は,海の中で上から降り積もった砂や泥などによってつくられます。
海の中では基本的にこうした物質は途絶えることなく降り積もるので,連続的に地層はたまっていきます。
しかし地殻変動によってその堆積場所が隆起して海面に顔を出すと,新たな物質が積もらないばかりか,それまで堆積していた地層が風雨で削られていくことになります。
その後,再び,その場所が海面下に没しても,失われてしまった地層はもとには戻りません。こうして,時間的間隙がつくられることになります。

今回のテーマで大事なことは,不整合があるということは,「地層が削られ,その物質が一時期に大量に海へ供給された」ということです。

「大不整合」という言葉は,日本ではあまり聞き慣れませんが,実は19世紀には生まれていた言葉です。
世界中のカンブリア紀の地層に,不整合が確認されることを指しています。
今回,発表された研究では,この大不整合の形成によって,大量の物質が海洋にながれこみ,海洋の化学組成が変化した,とあります。

現在から過去9億年にいたる歴史のなかで,この大不整合があったのはこのときだけ,とのこと。
このことが,カンブリア爆発に関係しているというわけです。
大型の生物でいえば,カンブリア爆発以前に「エディアカラ生物群」という生物たちが出現しています。
彼らはカンブリア爆発に数千万年先行しましたが,硬組織をほとんどもってませんでした。
今回の研究では,彼らが硬組織をもてなかったのは,そもそも海洋成分にそれをつくるものが含まれていなかったからであり,大不整合によって海洋の成分が整ったことで一斉に硬組織をもちはじめた→カンブリア爆発がおきた,というわけです。

カンブリア爆発を生物の内面的な部分から攻める「光スイッチ説」と,
地球環境という外面的な部分から攻める「大不整合」。

どちらもたいへん興味深いです。
今後も注目していきたいと思います。



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