高校地学が必要な「三つ+α」の理由 | 化石の日々

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オフィス ジオパレオント代表のサイエンスライター 土屋健の公式ブログです。
化石に関する話題,ときどき地球科学,その他雑多な話題を書いていきます。

先日,twitterで高校地学の重要性をツイートしたところ,たいへん多くの方のご反響をいただきました。

そこで今日は,高校地学の重要性について注目してみたいと思います。

以下,あくまでも私見ですので,とくにプロの教育者の方々には異論も多いのではないかと存じます。その点をあらかじめ,ご容赦ください。

高校地学の履修状況は芳しくないと聞きます。
私が高校生だった1990年代の半ばでさえ,良いものではありませんでした。私のいた高校では当時,地学IBは全員必修であったものの,より発展的な地学IIに関しては文系のみ履修が可能であり,例外として専門学科である理数科は,希望者のみの開講でした。そのとき,理数科で地学を履修したメンバーは,私を含めて5名です。

ちょっと調べただけでも,地学の履修状況は芳しくないことがすぐわかります。読売新聞が,九州・山口の各県を調べたところ,すべての県の県立高校で地学の開講は低迷しており,宮崎県は1校のみ,大分県にいたってはゼロとあります(2011年10月25日読売新聞)。

さて,「地学」,「地学」といいますが,いったいどんなことを教わるのでしょうか。

手元には私が高校時代に使った地学の教科書がありますが,もう20年近く前のものなので,改めて調べてみました。たとえば,教科書会社の数研出版や,NHK高校講座を見ると,この教科の内容を知ることができます。

その内容をざっとまとめると

・銀河系や太陽の歴史などの天文学
・地球の内部構造
・地震学
・火山学
・地質学,古生物学
・気象学

などなど,地学の内容は実に多岐にわたります(昔からかわりませんね)。

では以下,かなり独断と偏見で,高校地学の重要性3項目をあげてみたいと思います。

・東北地方太平洋地震に代表されるように地震多発国の日本。
 その地震について,基礎教養として基本を知ることができるのは地学。

・「富士山の噴火」といえば,だれもが注目する。
 そんな火山国家の日本。
 その火山について,基礎教養として基本を知ることができるのは地学。

・台風,集中豪雨。気象災害は毎年必ずといって発生する。
 日々の天気予報では,必ず「天気図」も登場する。そんな日本。
 その気象について,基礎教養として基本を知ることができるのは地学。


この三つについては,それなりのご賛同を得ることができるのではないかと思います。
生活に密接していますから。
上の三項目は,いずれも自然災害に関連しています。
こうしたものへの知識は,何かがおきたから,というのではなく,おきる前に基礎教養としてもっていてよいものだと思います。


宇宙のこと,地球の内部構造のこと,地球や生命の歴史のこと。
個人的にはこれらは,理科(科学)の「魅力」に関する分野と思います。

見上げれば空があり,その先には古くから人々を魅了しつづける宇宙がある。
足元には地面があり,地層があり,固体でありながらも流動するマントルがある。
地層には,化石が含まれており,それを調べることで生命の歴史を知ることができる。その生物は,現在の地球には生存しない,不思議な姿をしているかもしれない。

これらに対する知的好奇心は,多かれ少なかれ,人が人であるかぎり持ちつづけるものだと思います。

・物理,化学,生物の3分野と同じように,
 地学も知的好奇心を育み,知的探究心を満たすことができる。
 

だって,天文学や古生物学って,なんだか楽しそうでしょう?

「地学を履修したかったけれど,うちの高校では開講してなかった」。「文系しか選択することができなかった」という声が多いのが現状です。私は大学で地球学科に進学しましたが,同期で高校地学を受講した経験のある者は,3割に届きませんでした。「地学に興味があったから進学した」という者の多いこと多いこと。

学びたいのに学べない。これって,非常に残念なことですよね。

このことからは学生側には需要があるのに,「受験」を盾にして開講が進んでいない高校地学の現状が見えてきます。つぶしの効かない地学は,高校で開講しても仕方がない,というわけですね。

きれいごとでしょうけれども,高校を「大学の予備校」と位置づける慣習には断固として反対します。高校はやはり「高等教育の学びの場」であってほしいのです。
ですから,需要もあり,また基礎教養としての重要性が高い高校地学をもっと本格的に開講してほしいと思います。だって,本当に楽しい学問なのだから。

現場の先生方には,もっともっと地学の楽しさを伝える活動に力をいれていただければと思います。


なお,最後に大学の先生方にも一つ,苦言を書かせていただきたいと思います。

大学で地学系の学科にいながら,高校で履修してくる教科をあげるときに「地学は必要ないから,物理や化学を学んでこい」とおっしゃる先生がいます。
この点だけは,昔から私は断固として抗議してきました。
かつて日本地球惑星科学連合が発足したときの記者会見で,「高校地学の充実」が目標にかかげられました。そのとき,反射的に記者会見上で手をあげ,その目標をかかげた大先生にも「まずは,高校地学不要説を唱える学会員(大学教員)がいることを把握し,対応すべきでしょう」と噛みつかせていただきました。今思っても,ずいぶんと生意気な記者です。

地球科学は総合科学の側面があります。
ですから,大学で専門的な研究を進めるときに,高校物理や化学の知識は便利なものでしょう。しかし,多感な高校時代に地学を学ばずに,どのようにして地学の楽しさを広めていくことができるというのでしょうか。
その点をぜひ考えていただきたいと思います。

今回はいつもとはちがって,極めて個人的な主張をさせていただきました。