人が人を疑うことのどうしようもなさ | Pacific231のブログ -under construction-

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O, Mensch! Gib Acht! Was spricht die tiefe Mitternacht?


しばらくブログ更新をサボっていた間に、わが愛する棋界で大騒動が起こってしまった。
面白おかしく書き立てるマスコミのいい加減さは今更だが、汚名を着せられた三浦九段の心中は察するに余りある。

 

私は将棋はほとんど指さないくせして棋界には妙に明るい「観る将」の典型で、正直に言うと疑惑の第一報が流れたとき、何人かの棋士の顔が頭に浮かんだ。しかしそれが三浦九段を指していると知ったときは到底信じられない思いだった。

 

彼は一日10時間は将棋の勉強をすると言われるほどの研究の虫である。知人の結婚披露宴でこっそり詰将棋を解いていたというエピソードは有名だが、その性格の生真面目さと不器用さは将棋ファンならみな知っている。

 

今回の騒動で一番解せないのは連盟側の首尾一貫しない対応だ。すでにあちこちで書かれているのでここでは詳しく触れないが、一人の棋士の人生そのものを奪うような重大な決定をわずか一日、二日で出す拙速ぶりは、間近に迫ったタイトル戦を主催する巨大スポンサーへのご機嫌伺いのためでしかなかったと言われても仕方あるまい。

 

考えたくないことだが、仮に三浦九段が「黒」だったとしても、それは処分する側が証明しないといけない。それができない状態だからこそ、ソフト指し疑惑は表向き否定しつつ、「休場届を出さないから出場停止処分とする」という妙な決定となったのだろう。灰色決着を狙ったのだろうが、斜め上もいいところである。黒という動かし難い証拠があるなら除名処分とすべきだし、それが無いなら彼は潔白なのであって、今回の連盟側の処分は完全に一手ばったりの失着である。

 

灰色決着が一番いけない。疑われた方は疑惑の棋士の名を生涯背負い続けることになる。その疑いを晴らすすべもないままに。人を疑うということはそれほど重いことなのだ。

 

数年前、八段だったころの彼が羽生名人(当時)と繰り広げた死闘を思い出す。秒読みに追われ、59秒まで読まれても着手ができず、時間切れと同時に「負けました」と投了を告げた三浦八段。そのとき彼の両の眼は真っ赤だった。体は小刻みに震えていた。

死力を尽くして戦い抜いた彼の姿を、私は美しいと思った。今はあの眼を信じたい。