2015年12月。

 

 

 

 年末年始に重なるかもしれないと心配していた結果、入院日18日、手術日21日、退院日は28日頃と決まった。ひとりぼっちの年越しを病院で過ごすことになると思っていたので、うまくいけば年内に退院できることがうれしかった。

 体調の良い時を見計らって、ひとつひとつ仕事を片付けていった。年賀状は、姫路城へ行ったときに撮った写真を載せることにした。

 

 

 

 この写真を見ていると、いろんなことを思い出す。

 5月に乳がんと診断されてから7カ月が経っていた。

 妊娠かと思っていたら乳がんの診断。奈落の底に突き落とされた。それまでの人生で頭をよぎりもしなかったことをたくさん考え、迷い悩み、深い力のようなものに支えられながら、なんとか化学療法を終えた。

 

 

 

「今はまだ見えなくても、一歩一歩進めば、きっと見えるようになる視界がある」

 

 

 

 確か私、そんなことを言っていたっけ。一歩一歩、おそるおそるだったけど、ここまで来ることができた。そして確かに、今いちばん来たことのない場所に立っている。物語で言えば、最後の決戦だ。本当にすごいことだな…、と私は思った。

 

 

 

「胸は痛いですか?」

「少し痛いです。チリチリします」

「なるほど」

 

 

 

 手術を数日後に控えていても、尾田平先生は冷静だった。化学療法の結果、乳がんが奇跡的に8ミリにまで縮小したからといって、尾田平先生は決してドラマティックに演出を加えたり、「大丈夫ですよ」と軽々しく患者をなぐさめたりはしない。むしろここからが本番と、淡々と任務を遂行するだけだ。 

 尾田平先生の術前説明は、やっぱりいつもの自信にあふれていて、私を充分に安心させた。(ちょっと、ドヤ顔はしていたような気もするけど…)

 

 

 

手術は、単純に言うと二部構成だ。

まず乳腺外科の尾田平先生による「切除手術」。

そのあとは形成外科の先生による「再建手術」。

 

 

 

 再建についてはこれまでに何度か話に上がっていた。

 再建手術とは、形成外科の技術により失われた乳房を再建することができるという手術だ。(※病状や施設によっては再建ができない場合もあります。)

 

 

 

 初めてこの存在を知らされた時、正直に言うと、「命が助かるだけでもすごいことなのに、いまさら胸なんてどうでもいい…」というような気持ちだった。

 乳がんで亡くなる人もいる中、幸運にも自分は生きることができた。しかしその幸運も、苦しい思いをして必死に耐え忍ばねばならないという条件付きだった。

 だから、「命の凄み」よりも重んじるべきことなど何もないように思えていた。私には、胸のある/なしで過ごす未来が、それぞれ何をもたらすかということを、現実のこととして丁寧に考えることができなくなっていた。

 

 

 

「命があるだけで幸せなのだから、なんでもいいよ」と言う私のことを、夫や母はとても心配していた。確かに、一生に影響することを一時の気持ちで決めるのは良くない。現実的に考えてみれば、胸がなくなったことで、気持ちがネガティブに変化することもあるだろうし、温泉などで人を驚かせてしまうこともあるだろう。

 

 

 

 私はできれば再建手術を受けたいという希望を、事前に病院へ伝えた。その後病院との話し合いで、インプラント(人工組織)ではなく自家組織とすること、お腹から移植することを決めた。

 乳頭は、尾田平先生によると「再発率に影響はない」とのことで、手術当日の状態を見て可能であれば残してもらうということにした。

 

 

 

 母や夫の意見を参考にし、その上で意志をはっきりと決断するのは、私にしてはめずらしいことだった。

 いろいろなことがあったこの数か月は、嫌というほど自分と向き合い、受け入れたくないことを受け入れ、自分なりの納得を見つけて次へ進むという試練の連続だった。もしかしたら私も少しは成長できたのかもしれない…。そんなことを思った。

 

 

 

再建を執刀してくれるのは、形成外科の田辺先生に決まった。

 

 

 

 

 

 

 田辺先生の第一印象は、若くて美人の女医さん! キリリと冴えた表情が素敵で、頭脳明晰オーラが出ている先生でした。

 が、しかし…!

 

 

 

 

 

 

…やっぱり、お医者さんって、個性的な人が多いのかな… と圧倒された杏莉でした。

 

 

 

 前日の夜の日記に、「杏莉は超健康体です!!」と書いている。覚悟が決まってさっぱりしていたのか、テンションが高まっていたのか、…もしくはその両方だったのかな。

 

 

 

さあ、いよいよ、手術だ。

 

 

 

 

 

 

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