ノロ惨禍 ~俺はその時、神を見た~ その4 | 男だって介護するしぃ。~俺たちは天使じゃない~

男だって介護するしぃ。~俺たちは天使じゃない~

介護業界10年目。今はグループホーム併設の小規模多機能ホームで働いています。真面目に介護やってる人は読まない方がいいよー。

午前4時。

最後のオムツ交換に出発。


仮眠は取らなかったが、

テンションはやけに高くなっているので、

疲れは感じていない。


相変わらず下痢の入所者は多いが、

量的にはかなり減ってきていて、

オムツ交換にも、

さほど時間は掛からなくなってきている。


それでもやっぱり終わってみれば、

5時を過ぎていたので、

60分以上は掛かっている計算。

自分では気付いていないが、

体力の消耗は相当なものだろう。


次の業務はゴミ捨て。


いつもならゴミ捨てカート一杯分の量が、

今夜は二倍になっている。

とても一回じゃ捨てにいける量ではない。

ゴミ捨て場は施設内にあるとは言え、

結構な距離があり真っ暗な通路を通っていく。

おまけに寒いし。


なんでこんなとこ、

二回も通らなきゃいけないんだよ、バカ。(^^ゞ


午前5時半。


さぁ、入所者を起こしにいこう。

これが終われば朝食。

そして待望の早出職員がやってくる。


午前7時前。


ほとんどの入所者を起こし終え、

朝食の到着を待つ俺たち。

そこへ鳴り響くナースコール。

体調が悪くて部屋で寝たままの入所者が、

ポータブルトイレの介助をして欲しいと言う。


訪室し介助する俺。

一通りの処理を終え、

ふと隣のベッドのおばあちゃんを見ると、

痛烈に感じた嫌な予感。


あああ・・・。


その1 で書いていたばーちゃんが、

再び下痢便まみれになってるんだよぉ。

布団、毛布、衣類、すべてが茶色。


俺の中でガラガラと何かが崩れていくのがわかった。

メーターが振り切れたと言う表現でもいい。

入所者に対して怒鳴っていいとか悪いとか、

尊厳がどーしたこーした、

そんな理屈は今の俺には通じない。

自分でもビックリするくらいの大きな声で、

俺はおばあちゃんを怒鳴りつける。


なにやっとんじゃああああああああああああああ!


しかし当のおばあちゃんは、

ケロッとした表情で、

意味のわからない言い訳を連ねてくれ、


「いやー、堪忍ぇ。

 隣のおばあさんが一晩中ブツブツ言うてて、

 ちっとも寝れへんかったわぁ」


その事と今のこの状態が俺にはどうして結びつかない。

おばあちゃんもパニくって、

意味のわからない事を言っているのかも知れないし、

進行する認知症の関係かもしれない。

とにかくこの場をなんとかせねば。


そこへ朝の検温のため偶然現れた夜勤ナース。

この便だらけの惨状を見て一瞬ひるんだが、

すぐに気を取り直し笑顔を見せる。


「おばあちゃんが動かないように見ててあげるから、

 rokuちゃんは新しいシーツ取りに行ってきていいよ」


はぁぁ、さすが百戦錬磨のナース。

こういう時でも冷静だねぇ。

それに引き換え俺ってば・・・。(自己嫌悪)


リネン庫に新しいシーツを取りに行くとき、

夜勤の相方に遭遇。

朝食の配膳と食事介助には間に合いそうにないことを伝え、

再びおばあちゃんの部屋に戻る。


見守りしてくれたナースの報告によると、

ちっとも事態を理解していないおばあちゃんは、

俺が出て行った後も、

なんやかんや理由をつけて、

あっちこっちを触ろうとしていたらしい。

俺が汚染拡大の防止のため、

おばあちゃんにはめたゴム手袋も、

何度も外そうとしていたとのこと。


実は以前から、

便いじりの目撃報告が多数出ているこのおばあちゃん。

今回のノロ騒動の一因は、

この人なのかもしれない。


いや、絶対にこいつじゃ。(^^ゞ


便汚染の処理に手間取っていると、

そこへ現れたのは早出職員のうちの一人。


「あらあらあら。大変やったなぁ、rokuちゃん。

 私も手伝うわね」


神。

今俺の目の前に神様がいる。

光って見えるよ、この職員が!


この神職員に手伝ってもらい、

何とか処理を終えた俺はフロアに復帰。

他にも出勤していた早出職員の姿を見た途端、

体中の力がスーッと抜けていく。

ひょっとしたらそれは力じゃなく、

魂が抜ける瞬間だったのかもしれないが。(^^ゞ


魂が抜けたような状態の俺は、

その後ほとんど動けなかった。

食事介助はちっとも進んでいなかったが、

体がほとんど動かない。

夜の様子も早出職員に聞かれたが、

脳死状態のため返答できない。


その後、申し送りが始まり、

俺は最後の力を振り絞った。


「下痢、嘔吐、更衣、シーツ交換、便いじり」


ほとんどそんな単語しか出てこない申し送り。

こんなのでいいのかなと思いつつ、

だって実際そうだった夜勤。

いつもは鋭いツッコミを入れてくるナースも、

だまって聞いていてくれる。


申し送りが終わった。

俺がしなければならない仕事は全て終わった。

いつでも帰れる。

帰っていいはず。


ところがねぇ。


夜勤の相方さんが、

まだポータブルトイレの掃除をやってんだよねぇ。

俺の戦友がまだ働いてるんだもん。

置いて帰れるわけがない。


下痢便だらけの、

ポータブルトイレを洗うのを手伝い、

それぞれの部屋に設置。

これでようやく、

本当の夜勤業務の終了が訪れたのである。


そして俺たちは、

お互いの労をねぎらいながら帰宅する。

家に帰ったらすぐに寝たいけど、

制服の熱湯消毒という作業が待ってるけどな。(^^ゞ


【読者の皆様へ】


長いことお付き合いありがとうございました。

ダラダラの文章で読みにくいかもしれませんが、

ここまで読んでいただいて本当に感謝です。


この夜勤から数日たち、

その後の経過が俺の耳に届きました。

夜勤の相方さんはノロに感染し、

下痢便が続いているそうです。


あちゃー。(^^ゞ