第50話 『今日の彼の空』 | 『ザ・ナカツギフトのお世話になります。hyper』公式ブログ

第50話 『今日の彼の空』

第50話 『今日の彼の空』


私の隣で眠るのは、
達也が唯一残した伝えるべきもの。
そんな迷いの中にいる私に、
大胆にも圭吾先輩は結婚を申し出た。

私は、今すぐには考えられないけど、
その熱意にうたれた事と、
子供には父親が欲しいとの理由で、
前向きに話を考えるようにした。

今日も天気が悪い。
こんな春の空を見ると、
いつも思い出す人がいる。
 
あなたが私の前に現れてからの事、
駒送りのようにゆっくり思い出される毎日は、
かけがえのない輝きを持っていて、
大好きな宇多田ヒカルの曲が聞こえるたびに、
本当な好きだったのに言えない、
若さ故の叔父らしさを思い出しては笑う。


あなたに動かされて、
私も真由もヒーローも、圭吾さんも、
誰もが運命を変えた場面があっただろう。

わがまますぎる、まっすぐな想いと一緒で、
わがままに一瞬で消えてしまった達也。
その後ろ姿を今は誰も追いかけはしない。


今や日本中の誰もが追いかけるあなたの姿を、
私はしっかりと空に焼き付けて、
これから、あなたの残した大切なものを守り続ける。
 
黙って車を走らせる圭吾さんは、
その横顔で私の事をひっぱたいた。
目をそらしてはいけない現実を空にあげて、
差しだす手に新しい希望をのせて車を走らせる。

私は達也に謝らなければいけないだろうか?
ぼんやり眺める窓の外に移る景色に、
これまで来た道を重ねながら、
気持ちをあなたに残したまま、
私は無理矢理、新しい方向へと進もうとしている。

達也だけが、
今もこのページで、背景の青空に負けない笑顔で笑っている。