18歳の男性が電車に乗っている。
故郷・新潟に帰るためだ。
座席は ボックスシートで、4人が2人ずつ向かい合って座る形になっている。
久しぶりの帰省に 少々 心躍らせながら、雪景色を眺める。
ふと 目の前に視線を向けると、前の席には 母親と小さい男の子の 親子連れ。
はしゃぐ子供。
回りを気にして、それを やさしく なだめる母親。
彼女らも帰省だろうか・・・?
幼い頃、自分も 母親も 同じ様にしていたのだろうか?
目を瞑り 自分の小さかった頃を思い出し、姿を重ねる。
軽く微笑んでいる自分に気付くと、咳払いをして 顔を擦り、また窓の外に視線を移す。
白い景色が いつの間にか黒く変わっていった。
車内の暑さに目を覚ます。
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
地方の列車は 旧式で、達磨ストーブが置いてあるのみ。
出入り口付近は 寒いのに、ストーブの周りは 暑過ぎるくらいの温度になる。
冬の厚着も重なり、服は 汗でビッショリ。
空いている席が無かったとは言え、これほどストーブの近くだったとは・・・。
迂闊な自分に ちょっと後悔する。
目の前には さっきと同じ親子連れ。
随分と先に進んだが、途中で降りてしまう事は無かったようだ。
『ひょっとしたら、同じ駅に向かっているのかも知れないな・・・。』
大した意味も無く、そんな事を考える。
そう言えば、子供が随分と静かになっている。
はしゃぎ疲れて、寝てしまったのだろうか?
そんな事は無かった。
青い顔をしながら 虚ろな目でどこかを見ている。
『マズい・・・! 』
直感的に、彼は そう感じた。
間も無く、子供が衝撃の告白をする。
子供 『気持ち悪い・・・。 』
あまりの暑さに 気分が悪くなったのか、吐き気を訴える子供。
母親 『もう少しだから 我慢しなさい。 。(´д`lll) 』
無駄な抵抗と知りつつも、子供を扇ぎ 体温を下げようと試みる母。
逆に 熱気を掻き混ぜるだけになり、子供の呼吸が荒くなっていく。
彼としては 出来れば頑張って欲しい。
が、子供にそれを期待するのは あまりにも酷!
と 変な音と共に、子供の頬が一気に膨らむ。
『もうダメだ~・・・! (T▽T;) 』
最悪の事態を覚悟する彼。
被害を最小限に抑える為、事の成り行きを 固唾を呑んで見守る。
・・・。
・・・・・・。
『? 』
何も起こらない。
『そんなバカな? (°д°;) 』
半信半疑で 子供に目をやる。
子供は 口いっぱいに何かを含んだまま、じっと固まり 動かなくなっていた・・・。
『うおぉ~~!! (((゜д゜;))) 』
状態的には アウトでもセーフでもない。
子供が口を開けば 事態は急変する。
彼がどうこうではないのだが、一瞬たりとも気が抜けない!
ゴクン。
子供の頬が 元に戻る。
子供は 何かを飲み込んだ。
『子供ぉ~!!
(/TДT)/ グッジョブ! 』
母親の躾か 子供の根性か、何事も無く 事態は収拾した。
結果的に 何も起こらなかったが、彼は この子供の事を 生涯 忘れないと言う。
『今 あの子は きっと大物になっているよ。』
遠い目をして 彼は言う。
30年くらい前の 林家さんの体験談。
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