鳩さんのオメメ | 幼妻日記

鳩さんのオメメ

今日、妻はいつもいく「食品館」ではなく、車で15分ほどかかるところにある大型スーパーに行ってきた。

知らなかったが、そのスーパーはどうやら今日は「わくわくデー」という「安売り」の日らしい。

午後3時半という時間帯に、ものすごい混みようで、駐車場では2人の警備員が忙しそうに入ってくる車を誘導していた。ひっきりなしに車が出入りし、ほぼ満車だっだ。

指示されたスペースに車を停め、買い物をすませた妻が愛車クロちゃんのもとに近づいていくと、警備員が何やら大声をだしてる。

「ストップ!ストップ!あたるって、あたるって」

駆け寄って見ると、クロちゃんの隣一台分の「軽」と表示してあるスペースに、日焼けした畳みたいな色をしたセダンが、頭から突っ込もうとしている

明らかに角度に無理があるので、運転手側のボディーがクロちゃんの右前バンパーをこすりそうではないか!!!

駆け寄った警備員の大声にも関わらず、その女性運転手はまだノロノロと前後に車を動かす。

妻が息を飲む中、「ストップーー!!」警備員が車の窓をたたいて、やっと動きを停めた。

(そんなギリギリの運転するときに窓も開けていないなんて)この時点で既に妻は憤っていた。

しかも、その運転席の女性(年の頃は妻と同じくらい)は、

「え~? どうすればいいんですか~?」

っと、すっとぼけた声で顔を出し、そこに困惑や緊張といったものはみじんも見受けられない。つまり事の重大さがわかっていないのだ。

だから、窓も開けずに、周囲の制止も聞かずに勝手な迷惑運転ができる。こういうドライバーって必ずいる。そして往々にして彼らの車は安くて汚い(泥だらけだったり、傷やへこみを放置してある)。

警備員さんの方が必死な形相で、

「この角度じゃ、無理だって」等々、

そのまま突き進もうとする女性を説得している。

その間、妻の頭の中は「どっちの手に出るか」の選択を急いだ。

以前子どもを扱っていた時の感覚で、タイプを見分ける。

1.注意の仕方が大声だったり強い口調だったりすると、それだけで萎縮して緊張の度合いも激しくなり、思わぬ行動に出てしまうタイプ。

2.論理的に説明しても状況が飲み込めず、ガツンと言われなければ目が覚めないタイプ。

(この女性、紛れもなく後者だわ)と思った瞬間、不本意だが妻は「その筋のおねーさん」に成りきる覚悟を決めた。

そうでなくとも最近、着付け教室に行く時は「黒のベンツ」と「着物」の組み合わせで完全に誤解され、「信号、変わったんだけど、進んでくれる?」程度のちょっとしたクラクションに、前の車がものすごい勢いで逃げていくこともしばしば。

今日は洋服だけど、全身コムデギャルソンの黒。車のこととなれば、目つきだって変わるのだ。

低ーーい声で「ちょっとおー、当てんじゃないわよー!!」と凄む

そこで初めてドライバーの顔がこわばり、警備員の指示でゆっくりバック。

「だいたい、その腕で頭から突っ込もうってのが間違いよ」

再度、ドライバーを睨むと、「鳩が豆鉄砲くらったような」とはこういう目のことか・・・と思わせるお顔をなさって口をパクパク、頭をペコペコ下げフラフラと別のスペースに向かって移動が始まった。

本物とは思われないまでも「なんちゃって その筋」とは思ってもらえたのか、ただの「たちのわるいオバさん」と思われたのかは不明。必要以上に謝る警備員さんには気の毒だったが、ここは成りきるしかない。厳しい表情のまま車に乗り込み、出口へ。

妻は、自分が慣れていない駐車場や、子どもや自転車が多い場所では必ず前の座席両側の窓を全開にする。音による情報も安全確保に大切だからだ。

出口へ向かう妻の耳に、「ガシャ」っという不穏な音が聞こえたのはその時だった。バックミラーには、遠くで変な畳色の車に駆け寄る警備員の姿

(あれって、私が怒鳴ったためにおなりになった「鳩さん豆鉄砲状態」のせいか?)と思いつつ、素早く退散する妻だった。