ばらく前に日経ビジネスのウェブサイトで興味深い書評を見つけた。


壮絶な学問バトルの中で『ブラックホールを見つけた男』
~学会村八分からノーベル賞への長い道のり



というのがそれ(ちなみに本の原題は"Empire of The Stars"=『星の帝国』)。


これは若干19歳にしてブラックホールの存在を理論的に指摘したインド人科学者(天文物理学者)、チャンドラセカールと、その世紀の大発見をコケにしてつぶしてしまった当時の学会の長老、エディントンの闘いを描いたノンフィクションだ。


ブラックホールを見つけた男/アーサー I.ミラー

¥2,625
Amazon.co.jp


この書評につられて早速アマゾン経由で中古の本をイギリスから取り寄せ、読み始めた。


これが期待以上のおもしろさ!文字通り、読み出したら止まらない本だといえる。


天体物理学というなにやら小難しそうなテーマにもかかわらず、筆者の筆力がすばらしいため、比較的すんなりと頭の中に入ってくる(原文がすばらしいので邦訳もよいに違いない)。


まだ五分の一程度しか読めていないのだが、この本の中に登場する人物(科学者)がそろいもそろって魅力的な人たちばかりで、科学の本とはいっても、中心にあるのは、そういう人たちが織り成すヒューマンドラマ。特に主役であるチャンドラセカール、そして彼の敵となるエディントンがいい。


また、全体に流れるイギリス特有のエキセントリック(変わり者的)な空気もおもしろい(ただし、その中で生きるとなると時と場合によっては非常にやりにくい空間となるかもしれない。このあたりは1年足らずのロンドン暮らしで多少経験したところだ)。




この書評で書かれている通り、この本の最大のテーマは「斬新なアイデアは権威筋といわれる人たちに(当初は)つぶされる運命にある」ということ。天文物理学の世界だろうがどこだろうが、それは古今東西、人間社会の変わらない真実だといえるのではないだろうか。


それにつぶされないものが残る。というか、本物はどんな抵抗にあっても、生き残るということなのかもしれない。ただし、場合によっては時間がかかる。ブラックホールの場合は、40年あまりも「無駄な時間」が費やされたことになる。



以前どこで読んだか、その記憶は失われてしまったが、「アイデアを出してだれにも理解、支援されなかったら『しめた』と思いなさい」という言葉を目にしたことがある。つまり、斬新なアイデアであればあるほど、まわりの人々には理解されないということだ。


それが、いわゆる権威筋といわれる人々の既得権益をつぶすようなものであれば、理解されないどころか、コケにされ、闇に葬られる可能性だってある。そう、このブラックホールの物語が伝えているうように。


でも、前述したとおり、本物は残る。それでも残る。




そういえば、最初のアメリカ留学時代、部屋の壁に貼っていたポスターを思い出す(どこで買ったのかは、忘れた)。それはアインシュタインの写真が載ったポスターで、彼の大きな写真の下には以下のような言葉が書かれていた。


Great spirits have always encountered violent opposition from mediocre minds.
-Albert Einstein



「偉大なる精神は常に、並以下の(つまらない)頭脳からの激しい反発に遭遇してきた」




繰り返そう。



何か新しいことを始める場合、無理解や反発に遭遇するのは当たり前のこと。それに負けていては、世の中はいっこうによくならないし、現状打開や真の意味での進歩はもたらされない。



少しでも今をよくしたいと思っている人――ビジネスの世界だろうが教育の世界だろうが関係なく――この本は、そういう人たちへの応援歌ということになるのかもしれない。



さて、続きが楽しみだ。