ばんさん弁当 | 天神橋筋商店街 べろべろばあ 前略お客さん

ばんさん弁当

前略お客さん

 三輪のバイクは、とにかくギャップをよく拾う。
「ギャップを拾う」とは、スキーでデコボコのコブに引っかかるのと同じ。
後ろの大きな箱の中に積んでいる、お弁当が振動でグチャグチャにならないか過敏になっている。
南公園の信号を右折すると山口さんの家にたどり着くのだが、信号の20メートル程手前に今でも同じ大きなギャップがあった。ボコッ。鈍いがかなり大きな音。そして振動。大丈夫か?お弁当。
  山口さんのアパートの前にバイクを停め、そっと中身を確認してみる。大丈夫だ。
「お弁当でーす!」返事はない。
暗いアパートの奥の部屋のベッドに、山口さんは寝ている。と言っても眠りについている訳ではない。ベッドサイドにお弁当を持って行き声をかける。
「お弁当置いておきますね。何か用はありますか?」
「いや、今日はない。」と小さな声。
「分かりました。しっかり食べて下さいね。また明日!」
「おおきに。」と聞こえた。
山口さんは、たぶんベッドからゆっくり起き上がり、昼食のお弁当を食べてくれる。が、食べるところは見たことがない。担当のケアマネージャーから聞くだけだが、元気に食べてくれているようだ。咽頭癌の山口さんには、ムース食という特別のお弁当を届けている。
 それにしても、信号手前のギャップには悩まされる。大事なお弁当がグチャグチャにならないように気を付けないといけない。自動車で走っていると気が付かないギャップが、あちこちの道路に落とし穴のように点在している。
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