エディーの改革について | 井上正幸のブログ

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エディージャパンについては、今までたくさん書いてきたけど、今回は、エディーが日本に根付いてた色々な信仰をどのように覆し、結果を出してきたのかについて書いてみたい。


1、「ラックを作らずパスで抜く信仰」

先ず、攻撃についてのてこ入れ。「体格が劣性なのでラックを作らずパスで抜く」という信仰が根強くあったジャパンラグビーに、ラックを作るためのシェイプを作り、それをリンケージさせることで横方向だけでなく三次元で防御に的を絞らせないシステムを導入。

最初は、「3フェイズまで」とフェイズを重ねずトライを取ると言っていたが、それは日本人のアレルギー反応を抑えるために、あえて当初は言っていたということにしておこう。

この「シェイプ」の「順目へ走り続ける」といったところや「フラットに走り込む」といったところも日本人の理解を得やすいところでだったと思うが、これも後程「リサイクルベース」のシェイプに作り替えられ、逆目を攻撃する「ポッド」のようなオプションやフラットに走り込むために外側の選手が前に出る形から、リサイクルを速くするためにシェイプを三角形にした「アロー」の形に変わる。

これらは、日本人の理解というより、戦術の進化でオプションが増えていったと考える。


2、「低いタックル信仰」
続いててこ入れしたのは「タックル」。長く日本には「低いタックル信仰」があり、とにかく低く入らせるために相手を見ずに頭が下がるタックルが横行していた。
ここを改善するために、頭を下げるのではなく、腰を落とすタックルをレスリングの高坂氏を招いて徹底的に鍛えた。
最初から低く構えると相手に狙われてしまうので、腰を素早く落とす「ダウンスピード」を鍛え、伴って腰や、膝、足首の柔軟性にもアプローチしたのではないだろうか。


3、「前に出るディフェンス信仰」
「タックルは頭を上げて入る」という基本を身に付けさせた後に組織的な防御を身に付けるために、ディフェンスコーチの「リー・ジョーンズ」を香港から招き入れる。
それまで、ボールウオッチして、キャリアーに飛び込んでいた防御に「トラッキング」と呼ばれるタックルまでのアプローチと「防御ラインを連動して動かす」ことを鍛えた。
とにかく「前に出る」のではなく、面で揃えてプレッシャーをかけ、タックルレンジに入っていなければ「パドリング」を使い左右にステップ切られないようにスピードをコントロール。
パスでさらに前に出てという動作を個々ではなく、防御ライン全体で行う。
この組織化の上に「スライド」や「アンブレラ」といった防御戦術を加えていった。


4、「セットプレイは弱い信仰」
平行して長らく弱味であったセットプレイにも着手。「個々の首の取り合い」であったスクラムもフランスからスクラムコーチの「マルク・ダルマゾ」を呼び、「8人で連動して組む」ためのトレーニングを徹底して行い、ラインアウトはイングランドから「スティーブ・ボーズウィック」を呼び、ラインアウトを徹底解剖し細かくトレーニング。

さらにストレングスを上げるために「ジョン・プライヤー」、スピードを上げるためにオランダから「ステルン・ボッシュ」を呼んでトレーニングを続けた。


5、「戦略的なゲームの進め方」
ここは信仰ではないが、日本に今まで無かった「ゲーム運び」という概念をエディーは与えてくれた。
ワールドカップ前までに、セットプレイ、モールディフェンス、組織的な防御、タックルスキル、シェイプの精度と文句ないレベルまで引き上がっていたが、問題を感じたのは攻撃時のブレイクダウンの精度。
特にキャリアーのボディーコントロールに問題のある選手が多かったが、本番では見事に改善されていたのには驚いた。

また、最大の衝撃は「エリアマネジメント」。
「蹴らない」と公言していたエディーではあったが、金星を上げたウェールズ戦や重要な試合ではキックをうまく使って勝っていたので、「蹴らない」は状況判断せずに蹴る日本人に向けて、判断の重要性を理解してもらうために、大袈裟に言ってるところと、エディー自身の「ラグビー哲学」によるところが大きいと考えていたが、ワールドカップ本番では、自らが唱えてた勝利するための「キック、パス比率の11対1」を見事に裏切り、南ア戦「5.6対1」、サモア戦「5.8対1」、アメリカ戦「5.3対1」で、逆に負けたスコットランド戦は「16.9対1」となり、見事にキックを使い戦略的に戦って勝利をおさめている。

キックを使って戦略的に戦わないとジャパンは勝てないと思っていたし、そう発信していただけにこの結果は納得であるし、エディー・ジョーンズのコーチとしての能力の高さを垣間見た。

エディーは、日本に根付く様々な信仰を覆し、結果を出したことは今後の日本ラグビーの道標になった。
これを一過性のものにしないためにも、優秀な監督に代表を率いてもらい結果を出し続けてもらいたい。