ズボンをおろそうとするテツを見たくなくて思わず大声をあげたら、クラスの目があたしとテツに注がれた。

「何?またテツかー」

はいはい、みたいなテンションのクラスメイトが諦めたような声を出す。

先生は給食係に何か話しかけているため、こっちを見ない。

見て見ぬふりしてんじゃねーよ。


お母さんいわく先生の世代は

「ゆとり世代だからねぇ。ハズレだわね。」

だそうだけど、ゆとりっていう奴は本当に頼りない。


「ほんとコレ、ちんちんにくっつけるやつだって」

ニヤニヤしながらこっちを見るな。そして下ろしたズボンをあげろ。

「嫌だ。やめてよ。」

憎悪で体の力が抜けそう。ダメだ、これじゃ復讐にならない。


「お前、これ持ってみろよ。すげーくせーぞ」

「やだってば!」

「ほらー」

「やめて!顔にくっつくじゃん!」

気持ち悪くて目の奥がツーンとする、泣きそう。

「でもさー、俺こんなちんちんでかくねーわ!あははは」

テツは笑うと、

「あ!そうだ手洗わなきゃ!」

とゴムを持ったまま廊下に出て行き、またすぐダッシュで戻ってきた。


「どーよコレ!水風船みたいだろ」

テツはゴムに水を入れてきたのだ。

大きくふくらみ、液体がたぷたぷいっている。

ナスみたいな形の、うすい黄色のゴム。

何だか本当に、その…お父さんの…ちんちんだったら入るかもしれない、とか考えちゃったのだ。

でもどうしてこれをちんちんに付けなきゃいけないの?

ドレッサーの引き出しに入ってた。

お父さん、これを付けて何をしてるの?


「父ちゃんのちんちんってこれくらいだよな?お前んちもそうだろ?」

「違うよ…」

「え?じゃあもっとちっせーの?だせー!」

「何であんたにお父さんのことまで言われなきゃいけないの」

「だって見たことあんだろ?まだ風呂一緒に入ってんだろ?ガキだなー」

「あんただってお母さんと入ってるでしょ」

「入ってねーよ!俺、兄ちゃんと入ってるし」

「へー。どうだかね!何であんなに可愛いお母さんからあんたみたいなクズが産まれんのよ!お母さんかわいそう!」


そこまで言い切ったあたしは、きっと「ドヤ顔」だったに違いない。


テツの顔が赤くなった。怒った?ここだ、とどめだ、いくんだあたし。

「何でいつも意地悪ばっかすんだよ。てめぇお母さんに言うぞ!

バカ!死ね!チビ!あたしより2センチも背が低いくせに。二度と顔見たくない!」


一気に言葉があふれた。

頭の中でずっとくすぶっていた黒いものが、今ここで初めて一つの塊となって口から出たようだった。

顔がかっかと熱い、興奮で胸がドキドキしている。

初めてだ、テツにここまで啖呵をきったのは。

テツは下を向いて顔を赤くし、何も言わない。

何だよ。いつもの屁理屈はどうしたんだよ。


その時だった、ばしゃっ!と音がして顔が冷たいもので覆われた。




【続く】