本当は開けちゃいけないドレッサーの一番上の引き出しを開ける。
大丈夫、お母さんはまだ携帯ゲームに夢中だ。
金ピカの取っ手が付いている引き出しは見た目の重厚さとはうらはらに、するすると開いた。
中にはパールだろうか、つややかな白い珠がいっぱいついたネックレスがあった。
付けてみようか。ネックレスを持って鏡の前に立つ。
でも首の金具の留め方がわかんなくて、いじったら壊れちゃいそうで怖かったのでやめた。
それに、首筋のかゆさがネックレスを汚すような気がしたんだ。
あたしのこの汚い首筋がネックレスについたら、お母さんは発狂しそうな気がする。
それでも大好きなゲームをしてる携帯は、手から離さないだろうな。
秘密なことをしている。
これ、あたしに見られたら困るの?お母さん。別に壊したりしないよ。
ネックレスを元通りにそーっとしまい、右側の一番下の引き出しを開けた。
中にはお父さんの仕事関係だろうか、ファイルが整然と入っている。
でも手前にはスペースが空いていて、大きめの茶封筒がある。中に何か入っていてふくらんでいる。
迷わず開ける。中には紙の小箱が入っていた。
蓋はメタリックブルーとグリーンのしましま模様で、
「超うすい!高級すきん」と金色の文字が書いてあり、その下には少し小さい文字で「フィット感抜群」と書いてある。
何これ。うすくて高級…って高いってこと?
蓋を開けると、中には正方形の小さく平べったい袋が沢山つながって入っている。
数えると9個あった。何に使うんだろう?
小さく平べったい袋はギザギザがついていて、開けられるようだ。
開けてみる?何となく、子供が触っちゃいけないような気はしたんだけど、お菓子の袋でもなさそうだし、とピリッと袋を破る。
強烈なゴムの臭い。中には輪っかのようなものが見える。
何よりびっくりしたのはすごくぬるぬるした液体のようなもので、輪っかが包まれていることだった。
手にゴム臭いぬるぬるが付いた。え、油なの?これ。
「ひゃっ」思わず声を上げ、お母さんがいるリビングのドアを見る。大丈夫、何の音も聞こえない、はず。
何このぬるぬる、汚い。気持ち悪い。
食べ物じゃない、アクセサリーでもない、じゃあ何に使うの?
考えたらぞわっと背筋に鳥肌がたつ。何だか汚い!
思わずじゅうたんに放り投げた瞬間、中身がぬるっとはみ出した。輪っかが半分はみ出した。
「はっ!」また声が出てしまった。
ヤバいじゅうたんが汚れちゃう、片付けなきゃ、でも手で触りたくない…
あたしは部屋にあるティッシュを4枚くらい使って、ぬるぬるの輪っかを取り上げた。
ティッシュを使ってもぬるぬるしていて、ぐにゃぐにゃしたクラゲのようで気持ち悪かった。
輪っかを何とか持ち上げてよく見ると、輪っかが下にびろーんと垂れ下がり、袋になった。
細長い袋になり、先っぽが一番細い。
よくわからない物体を開けてしまったあたしはおぞましくなり、早く捨ててしまおうと思った。
が、このお父さんとお母さんの部屋には捨てられない。
ドレッサーの引き出しを開けちゃったことがバレる。
そうだ。捨てなきゃいいんだ。あたしはいいことを思いついた。
【続く】