Sign:1 (吉祥寺デイズ:Long:佐東一護) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
吉恋一護 誓い大和 怪盗流輝 スイルム英介 お気に入り
日々の出来事など。

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・前ブログからの引越し分(2012.11/9~2013.1.26)


・吉祥寺デイズ妄想長編五作目。


・Promise → WITH YOU → Distance → Liar の続き。


・オリキャラ有 キャラ崩壊有


・多少なりとも内容変更有


・途中 剛史の『Continue』が絡みます。


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朝夕の冷え込みがグンと強くなった頃、ちょうど銀杏の葉が色づきはじめる。


それはオレ達の注文するものがアイスコーヒーからホットコーヒーに変わるタイミングとほぼ一緒だった。


いや、それとも色付き始めたからホットを頼もうかという気になるのかな…なんて


「ハル、次とって。」


「ん。」


どうでも良い事に頭を使ってしまった今日この頃 いつものクロフネ


いつものように奥のソファーでいつものように剛史にマンガを渡してやった。


いつものように幼なじみ勢ぞろいの午後


それぞれの定位置に座り店番の合間に休息をとる


でもこの休息は店が閉まるまで続くわけで。


つまりはもうオレ達の中で今日やるべき事を終わらせたようなもんで…


~♪


一護の携帯が鳴った。


「…悪ぃ。」


「いや 良いよ。」


こいつはいつもそうだった。


バイブにしておけって言うのに いつもオレ達の休息を中断させる。


自分達の世界に入っていたオレ達は全員嫌味っぽくため息をつく…


…いや、今まではついていたんだけど。


「もしもし。…ああ、良いよ。」


一護は雑誌から視線を上げることなく静かに携帯を耳に当て


「…ああ。良いよ。何時?…分かった。良いよ。」


無表情に答え 無表情に電話を切り 今更のようにバイブに設定した。


「…。」


そんな一護を…何度見ただろう。


あの日から…こんな場面に出くわしてもため息さえもつかなくなっていた。


だって当の本人があまりにも大きなため息をついて携帯を放り投げるから…


「デート?」


おっと…


理人の声に胸の奥がドクンと音をたてる。


初めてのことだった。一護に…沙希との関係を聞くことは。


一瞬息を飲みこんでしまったオレとは裏腹に理人は冷やかすように


「沙希ちゃんでしょ?」


・・・・


無邪気な笑顔。でも理人は精一杯気を使っていた。


だって笑うような付き合いではないと 分かっているわけだから。


「うまくいってるんだ?」


「…ん。」


中途半端にしか答えない一護にそれでも聞き続けるのは現実を受け留めろと言っているみたいで…


「うまくいってるんでしょ?」


理人がチラッとオレに視線を向けた。オレは小さく頷いた。


そうだな。一護の為にはそれが一番良い。


だってどうせ付き合うなら楽しく付き合わせてやりたい。


オレ達がずっと沙希の話を避けていたらこいつはもっとしんどいんだから。


「…ぼちぼち。」


一護は静かに雑誌を閉じ 小さく答えた。


「ご飯食べに行くの?何食べに行くの?」


「…そうだな…」


一護の声はため息が混ざっていて


「…が良いかな。」


…聞こえ辛かった。



・・・・



あれから二か月。一護と沙希は続いている。


そりゃそうだ。別れるわけがない。別れられる…わけがない。


あの日、***を見つけ切れなかったオレ達はトボトボとクロフネへ戻った。


一護はこのソファーで力尽きたように身体を横たえていた。


『一護…』


『…。』


もう泣いてはいない


けれど随分泣いたんだろう、目がうつろでオレ達が目の前にいてもただぼう…と どこか一点をじっと見ている…そんな調子で。


『ごめん。見つけられなかった。』


オレのその言葉にゆっくりと静かに身体を起こした。


『…律子姉に…そうだ、塔子姉に』


理人は声を震わせながらそれでも笑顔で言った。


『いっちゃんの気持ちを伝えて貰おうよ?ね?』


だけど一護は何も答えずにただ


『クク…ッ…』


…一人顔を伏せ笑い始め


『…ダッせぇ俺…』


そう言って顔も上げずに一人 笑い続けて。


その時俯き 掻き上げる一護の茶色い髪が随分と朝陽に照らされて艶やかで。


『一護…』


…綺麗だなって思ったのを覚えている。



・・・・



律子も塔子姉ももちろんマスターも。


オレ達がどんなに頼んでも***の連絡先を教えてくれなかった。


まぁマスターは知らないみたいだったんだけど、それでも塔子姉に聞いてはくれなかった。


『自業自得だ。』


その一言がきっと一護に対する気持ちなんだと思う。


律子に関しては一護にはもちろんだけれどオレ達にさえも睨みを利かせるようになって


『注文以外話掛けないで。』


しばらくオレ達にもソッポを向く始末…


『…。』


『…。』


何も言い返せないオレ達 ため息ばかりのオレ達…


だけど…だけど。


・・・・


「そろそろ行くわ。」


「もう?」


一護は理人の頭を軽く雑誌で叩きながらゆっくりと腰を上げる。


「待たせるより待ってたほうがかっこ良いじゃん。」


なんて微笑み答えた一護は…もう割り切ったのかな。


「じゃね。」


・・・・


カランと音をたてて閉まっていくクロフネの扉を確認してやっと溜めに溜めた息を吐く。


「大丈夫かな、いっちゃん…。」


理人はさっきと打って変わって寂しそうな表情をしオレ達を見渡し


「沙希ちゃんのこと…好きになれるかな。」


沙希は悪くはない。たぶん、悪くはない…。


きっと彼女はずっと一護が好きだった。


遊びでも一度でも答えてしまった一護が悪い。


だから…この状況はしょうがないのかもしれないけれど…


理人の言葉にリュウ兄が首を傾げる。


「沙希を好きになるかじゃなくて…」


「…うん。」


「***を忘れられるか。そっちだろ、一護は。」


「…うん。」


…一護はあまり笑わなくなった。


・・・・


一護が出て行った扉をじっと見続ける剛史。頭を抱えるだけの、オレ…。


「ハァ…。」


幼なじみの為に何ができるのか。


そんな事ばかり考えてしまう…いつものクロフネで。



next

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