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・過去記事 引越し分
長編『Promise』と『WITH YOU』のあいだの話。付き合いたての二人。
超恥ずかしいタイトルだが三回言うと深みが増す。
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「***。」
お昼休み お弁当箱を片づけ終わった時 いっちゃんに声を掛けられた。
「ちょっと付き合えよ。」
「うん?」
サッサと教室を出て行く彼を慌てて追いかける私
「なに?どこ行くの?」
「行けば分かる。」
それはそうなんだけど。
太陽の日差しにまだ夏の暑さを感じるけれど 空は遠く朝夕の空気に程良い心地良さを感じるこの季節
幼なじみという厚くも高い壁を越え 私といっちゃんは晴れて彼と彼女になった。
なんかまだ実感ないけど。信じられないんだけど…私はいっちゃんの彼女なんだ。
「ねぇ、どこ行くの?」
「ついて来たら分かる。」
だからそうなんだけど。
休憩時間で賑わう廊下をくぐり抜け 行き着く先も分からないまま彼の後を追う。
「あ、佐東センパイだ。」
なんて黄色い声を途中途中で耳にしたけれど その後ろを歩く私には視線も向けられない。
それはそう。私達はまだまだ彼と彼女に成り切ってはいなくて。
自分達だけが分かっていれば良いものかもしれないけれど
皆の中で私ってただの幼なじみっていう位置づけでしかないことに寂しさを感じているのも事実だった。
だってずっと好きだったんだもん。
好きな人と両想いになれたの 自慢したいくらい幸せなのに。
けれど実際私達に特に変わったことなんてない。同じクラスだからといってもずぅっと一緒にいるわけじゃないし
毎日登下校を共にするわけでもないし 手を繋ぐことも肩を抱かれることも…全然ないし。
変わったことってなんだろ。
クロフネの彼の隣が私の定位置になった事くらいだろうか。
「ねぇ、いっちゃんどこまで行くの?」
上る階段に眉を潜めながら振り返りもしないいっちゃんに頬を膨らませちゃったけれど
「着いた。」
「え?屋上?立ち入り禁止だよ?」
私の言葉なんておかまいなしにいっちゃんは灰色のドアを押し開けた。
「わ…。」
と同時に目を細める程の眩しい光が逆光となって彼の姿を消す。
「眩しい…。」
瞳に痛みさえ感じたのは彼からの電話をいつまでも待っている孤独な夜のせいだろう。
けどそんな痛みなんて忘れちゃうくらい私は目を丸くした。だって
「わぁ~!!」
・・・・
特に何があるわけでもない閑散としたグレイな空間だったけれど
真っ青な空から降り注ぐ光がむき出しのコンクリートの床を白く照らし まるで雲の上にでもいるみたいだ
そして眼下に広がるパノラマは360度吉祥寺の街…開放感たっぷりのこの場所で
「すごい!!」
思わずフェンスに駆け寄りガシャン!!と手を掛けて。
「初めてだろ。ここ来るの。」
微笑んでいるだろういっちゃんの声に振り返りもせずうんうんと大きく頷いた私は少々興奮状態。
「真夏は暑くて堪らねぇけど。今ぐらいの気温だったら気持ち良いから。」
カタンと音がしたから フェンス傍に設置されていたベンチに腰を降ろしたんだと思う。
けれどそれさえも確認しない程 私は初めて見下ろす大好きな街に目を輝かせていた。
「ねぇ、クロフネどこだろ?」
「あ?それを言うなら商店街を探せよ。えっとぉ…あっち。」
立ち上がったいっちゃんの指さす方を見つめる。
「…あぁ~なんとなく。」
「嘘つけ。分からねぇくせに。」
舌を出し誤魔化したらすぐ真横に立ついっちゃんと目が合った。
一瞬ドキッとかしてしまう。だって学校でこんなに近くで彼と目を合わせたことなんてなくて。
「…ま。座れよ。」
「うん。」
いっちゃんもちょっとは意識してくれたのかな
だって落ち着かない時のクセ 唇を少しだけ舐めたから。
・・・・
綺麗な青色だったろうベンチは陽に照らされ雨に打たれ、ところどころ剥がれていた。
座ると多少なりとも視界は狭まれたけれど それでも青い空と街並みは見渡す事が出来て 私はどこかワクワクとした胸の高鳴りを感じながら身を乗り出し一人満面の笑顔で
「すごぉ~い。なんか感動。」
いつまでもはしゃいじゃって。
そんな私の横顔をいっちゃんは可笑しそうに見ていたけれど あっと私は首を傾げる。
「で、なに?」
「え?」
「なに?何か用があったんじゃないの?」
「…は…?」
私ってバカだと思ったのは10秒後のこと。だっていっちゃんが少しだけ唇をへの字にして
「なにってなんだよ。」
「え?」
「用がなきゃ呼んじゃいけねぇの。」
そう言って 呆れたように私を睨んだから。
あ…。
そう。そうなんだ。
だって私達は付き合っているわけだから 二人になることにいちいち理由なんて必要ない。
「あ~…。」
「ダル…。」
理由を求める私は彼女に成り切れない…。
一気に不機嫌になったいっちゃんは大きく息を吐き私を睨む。
そんな彼に そうだよね、私だってついさっきまで恋人に成り切れないなんて不満を感じていたくせに
私こそ自覚がないんだって反省したりして…。
「ごめ…。」
「うるせぇよ。…もう寝る。」
「え、わっ!」
いっちゃんにベンチの端に寄れと手でシッシなんて払い退けられたかと思ったら ごろんって
「…何してんの。」
「膝枕。」
真下に見えるいっちゃんの不機嫌な顔。真上に見えるきっと真っ赤な顔した私の顔。
彼をどんなに怒らせたとしても目と目が合えば自然と胸がドキドキとし始めた。
「…***。」
「ん?」
誰もいない屋上でこんなに広い空間でたった二人
それなのにお互いの体温をこうして感じることが出来るのはやっぱり私達が幼なじみではなくて
「俺ら、付き合ってるよな?」
恋人…だからだよね?
幼なじみとしての居心地の良さを うっとおしいと感じたから私たちは幼なじみを辞めた。
「…うん。」
だってこんな風に遠慮なくお互いの頬や髪に触れることなんて出来なかったもんね。
「好きだよ、いっちゃん。」
・・・・
「チャイム鳴っちゃう。そろそろ教室戻ろ!」
***はそう言って髪を撫でるのを止めた。
「あ~…。」
マジでうとうととしたかもしれない。
休憩時間の賑やかな笑い声は遠くに感じる程良い子守唄
ポカポカとした日差しと生ぬるくも心地良い風
その風に乗ってなんかホッとする優しい匂いに髪を撫でる静かなぬくもり
「…一瞬寝たかも。」
フッと意識が遠のいたような そんなぼんやりとした瞼を擦ると***がクスクスと笑う。
「行こう。いっちゃん。」
膝枕からダルい身体を起こしベンチに腰かけたままぼぅとした。なかなか腰を上げようとしない俺に
「早く!遅れちゃう。」
手を握り引っ張り立ち上がらせようとするコイツ。
「もう!いっちゃん!」
伸ばされたお互いの腕はギュッと握る手の平で繋がっている。
どれだけ思いっきり引っ張ったって女が男の俺を立ち上がらせようなんて無理だって…
「もう!」
「分かったよ。」
俺がその気にならなきゃ無理だって…だから立ち上がった瞬間 その手を引き寄せることなんて
「…チュッ。」
簡単なんだって。
・・・・
ここからの景色をこいつに見せてやりたかった。
絶対目ぇ丸くして喜ぶってすごいすごいって絶対はしゃぐって確信してたから。
でも…それもあったけど それはある意味俺自身への口実かもしれないと思う。
だって…だってあの流星群の夜って夢じゃなかったよな?
「ちょっ…!!」
触れるだけのキス
そうそうあの夜もこんな風に真っ赤になった。すっげぇ可愛くてすっげぇ愛おしくて
っつかこういうことこいつに出来るの俺しかいないのに せっかく一人占め出来るのに。
「ここ、学校!」
「分かってるし。」
何にもそれらしい事出来ねぇんだもん…もう一度重ねたらマジ怒るか?でも良いよな?
「お前、マジメすぎ。」
腰に廻した手にギュッと力を入れて抱き寄せる
俺がここに呼んだ本当の理由。もっと俺ら付き合ってるって確信したい。
「授業さぼろうぜ。」
もっともっと もっともっと お前とキスがしたい。
★END★
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