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・過去記事 引越し分
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「早く返せって。もう一回読みたいの。」
「イヤイヤ、俺借りてないって。ハルじゃねぇの。」
「お前だった!」
「イテ!蹴りいれるほどのことかよ!」
湯野センパイは正しい。佐東センパイ、借りたよ春休み前に。
私は携帯をつついているふりをして彼らの後ろを追いて歩く。
「ハルに聞いてみろよ!絶対俺じゃないから!」
「ハルはマンデーは読まないの。絶対お前だ。お前失くしたな?」
絶対そうだ。
佐東センパイの苦笑いと湯野センパイの怒りの横顔を見ながら返事のない携帯を耳に当て思わず笑った。
彼らと適度に距離を開け帰路へと向かう放課後
これは入学した時から続いているストーカーみたいな私の行為。
何故って?…だって。
「ババアが捨ててさ…。」
笑ってごまかす佐東センパイの横顔を見ながら
「今日種村センパイは?」
返事のない携帯にポツリと問う。
今日は一緒じゃないのかな…。
いつも三人で帰っているのに。
・・・・
種村センパイが好きだった。
入学式 生徒会を代表してステージに上がり優しい笑顔で私たち一年生に語りかける姿に一目惚れした。
「困ったことがあったら生徒会に声をかけてください。皆で楽しい思い出をたくさん作りましょう。」
胸を突きぬかれたかと思うくらいの衝撃とはよく言ったものだ。
「すっごいかっこよくない?」
「ヤバい…。」
ときめいたのは私だけじゃない。
吉祥寺商店街にある花屋さんだってことも、幼なじみ三人でクロフネって喫茶店をたまり場にしていることも、聞いてもないのにすぐに情報として入ってきた。
「かっこいいよねぇ…。」
昼休み、教室の窓からひょいっと顔を出した友人たちの視線の先には佐東センパイ、湯野センパイ、種村センパイ…。
「あんなかっこいい人たちと友達になれたらいいだろうなぁ…。」
「あの中だったら誰がタイプ?」
彼というか彼らが目立っていたんだ。その中で好みが分かれる、そんな感じだった。
「…種村センパイ。」
ポツリ答える私の返事は 彼らがこちらを見た・見ないのキャァキャァした声にかき消される。
全く接点のない私はとにかく彼らに近づきたくていつも帰りを待ち伏せしていた。
この中の誰かと接点ができたら、きっと種村センパイとも…
けれどなんの進展もない。そりゃそうだ、だって私いつも携帯見てるふりしてるし…。
それでも私はこの帰り道が楽しくて堪らなかった。
センパイ達の会話に耳を傍立てていると彼らの日常が想像出来る。他愛ない会話だとしても秘密を知ったような気がして気分が良いのだ。
だって種村センパイが朝和食ではなく洋食だってことも絶対知り得ない事実だもの。
「…。」
だけど…今日種村センパイの姿を見ていない。
どうしていないんだろう。いつも三人なのに…。
またもめ始めた二人の背と絶妙な距離を保ちつつ何度も後ろを振り返った。
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