「ゲド戦記」はそんなに悪い映画じゃない | 広報宣伝室ブログ

「ゲド戦記」はそんなに悪い映画じゃない

ども、のらいぬです。


先週末、話題の映画を観て来ました。

ネット上のレビューでは、かなり否定的な意見が多い、

   「ゲド戦記」です。

原作は、指輪物語やナルニア国物語と並び称される、ファンタジーの名作。
そして話題になっているのが、宮崎駿の実の息子である宮崎吾郎が監督をしていること。
しかも、映像制作についてまったく経験のない状態での初監督作品。

のらいぬも、それなりに覚悟して行きました。

第一に、あくまでも宮崎吾郎作品であって、宮崎駿作品を期待してはいけない、ということ。

そして、批判的な意見がネット上で出ていたので、まあ完成度は高くないだろうということ。



で、観てきた感想。

ひとことで言うと、「単調で暗い話だけど、わりと面白い」


ていうか、今までのジブリには決して無かった、かなりダークなトーンの映画。

暗めのイギリス映画とかに近い。でも、これもアリだ。

のらいぬは割と好きです。個人的にはハウルよりは楽しめました。



この「ゲド戦記」、どんな映画かをひとことで言うならば


「深い理由もなく父親を殺してしまった少年が、自分の

内面を見つめなおして、自首するまでの数日間の放浪

とその間の交流を描いた、苦めの青春ロードムービー」

です。


「俺たちに明日はない」のような、「バッファロー'66」のような、盗んだバイクで走り出すような、

そんな感じの「ダメな奴が旅をする」映画です(でも、カルトっぽさはあんまり無い)。


この説明を読んで、この手の映画のアニメ版が観たい!と思った人は、ぜひゲド戦記を

見に行ってください。けっこう気に入ると思います。



表面上は、神話的な構造の貴種流離譚(高貴な血を引く者が、辺境を巡って色々な経験をした上で

国に還る話)ですが、実際は現代的なダメ人間の少年を主人公にしたロードムービー。


とにかく、主人公アレンのダメ人間っぷりが超リアルに描かれています。

ここまでダメ人間のダメっぷりを描きぬいたファンタジー作品は、過去に例がないのでは?

しかも、このダメさが、現代的でいかにも「いるいる!」って感じのダメさ。

いうなれば、「カイジ」に出て来る脇役のようなダメっぷり。


そもそも主体性が無い、無気力・無抵抗・黙って服従。

その時の気分で行動する、変なきっかけでキレる。

状況に流される、すぐあきらめる。

いつでも死んでもいいと思っている(でも進んで自殺する気は無い)。

おそらく、「特に理由が無いけどムカつく。あいつがいなければ何か変わりそう」

くらいの理由で父親を殺してしまう。



すげー、ダメだなコイツ……。

このダメ描写がハンパ無くリアル。


そんな彼が、旅の途中で暖かい人々と出会って、自分自身を受け入れて、なんだかんだあった後で、

自首を決意する。そういうお話です。


鬱屈したアレンはバイトをすれば良かったと思います → 自分を変えるバイトが見つかるOPPO



構成や演出で言うと、凄くオーソドックス。

宮崎駿アニメに必ずあるような、派手な動きや、ユーモアや、凄い!と思わせるカットなどはありません。

父親のような、天性の映像的な才能は無い(もしくは、まだ開花していない)予感。

でも、話の展開は(間延びしてるけど)しっかりテーマに沿っています。


さらに映画のメッセージは、ドラマや自然なセリフではなく、ストレートな語りとして語られます。

ここも、ネットの感想などでかなり叩かれているところですが、のらいぬはあまり気になりませんでした。

それよりも、ラストでしっかりテーマと、キャラクターと、舞台効果のカタルシスを一致させたのは偉い

(演出がうまくないので、いまいち盛り上がりませんでしたが)。

この辺のしっかり終わらせてる感は、ハウルの動く城とかよりよっぽどいい。



何よりも、主人公のアレンと同様に、偉大な父を持ってしまった吾郎監督が、この鬱屈した想いを

フィルムに正面からぶつけたことに、感動しました。初作品らしい青くささが満載です。


でも、こういうストレートな表現が恥ずかしげもなく出来て、部分よりも全体の構成を大事に出来る人は、

意外と監督に向いてる気がする。

でも、出来れば駿氏のような、コダワリやカルトっぽさやフェティシズムがもう少し欲しかった。

キャラクター描写や演出が淡白で、濃さやマニアックさがほとんど無い感じ。これが一番残念でした。

吾郎監督は建築をやってたらしいので、建造物へのコダワリを全面に出せば良い気がします。



最後にひとつ、映画の中でかなり感銘を受けた設定がありました。

それは、アレンを「 追って来る影 」の正体。 ネタバレ → 「 光 

たぶん、それがどうしたの、って言うレベルの微妙な「 逆転構造 」ですが、よく考えるとかなり現代的。

原作には無い2大オリジナル要素(親殺しの設定とこれ)は、高く評価出来る部分だったと思います。



そんなわけで、ネット上の酷評で観に行くのを辞めようと思っている人も、宮崎駿アニメの新作を期待する

んじゃなくて、暗めのロードムービーのアニメ版を観に行くつもりで、是非観に行ってみて下さい。


■先の見えない旅に出るよりバイトしようぜ! → OPPO



たぶん、結構楽しめると思います。

でも、次回作はもうちょっと一般向けのエンターテイメント要素も出して欲しいなあ。

のらいぬでしたー。