「ポカリスエット」と「アクエリアス」・・・どちらにもある表現の不足
この種のドリンクの名前には、炭酸飲料や茶系飲料など普通の清涼飲料と違う「スポーティー」な雰囲気と、「化学的成分がもたらす効用」をイメージ的に表す音が入っていなければなりません。
これら2つのネーミングが、どの程度それを表現しているか捉えてみようと、音相分析をしてみました。
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まず、「スポーティー」な感じを表すには、次の表情語が高点で出ていなければなりません。
「シンプル感、明白さ」 | A項 | 「躍動感、進歩的」 | B項 |
「新鮮さ、新奇さ」 | C項 | 「動的、活性的」 | D項 |
「軽やかさ、軽快感」 | F項 | 「若さ、溌剌さ」 | G項 |
「都会的、現代的」 | H項 | 「開放的、明るさ」 | I項 |
「強さ、鋭さ」 | L項 | 「健康的、清潔感」 | O項 |
また「化学的成分がもたらす効用」を表すには、複雑さや多様感をつくる淡(あわ)い青色の表情語
「暖かさ、安らぎ」 | P項 | 「安定感、信頼感」 | Q項 |
「高級感、充実感」 | R項 | 「高尚さ、優雅さ」 | S項 |
「静的、非活性的」 | T項 |
が高点でなければなりません。
(注)表情解析欄の青い棒グラフは、次の違いを示します。
- 「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語。
- 「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、複雑で非活性的なマイナス方向を向く表情語。
- プラス、マイナス、どちらにも機能する表情語。
ポカリスエット(大塚製薬)
表情解析欄の高点部分に単純明白なスポーティー感をつくる濃い青色の表情語
D、J 、M、H、A、F項
が並び、一段低めて「成分的効用」を表す淡い青色の表情語
P、R、S、T、Q項
が並びますが、成分的効用の表現が弱いため、一般の清涼飲料と同じようなイメージしか伝えていない語であることがわかります。
アクエリアス(日本コカコーラ)
この語は「成分的効用」をイメージさせる淡い青色の表情語
T、P、Q、R、S項
を高点部分に立てているが、スポーツ感を作る濃い青色の表情語
F、B、C項
のポイント数が極めて低いため、成分的な効用ばかりが強調されて軽やかな清涼飲料のイメージを感じない語であることがわかります。
成分的な効用の強いアピールが功を奏してか、販売成果は高いようですが、この語にもしスポーティーな音が入っていたら、格段の成果が上がっていたものと惜しまれるところです。
「ポカリスエット」が成分的表現を欠いたのは、無声音と高勁輝拍が多すぎたからであり、「アクエリアス」がスポーツ感を欠いたのは、有声音と逆接拍が多すぎたからであることを、それぞれの「有効音相基欄」が示しています。
俳句「花散て また閑(しず)かなり 園城寺(おんじょーじ)」・・・音相分析が捉えた「響き」の真意
鬼貫は、芭蕉と並び称された同時代の俳人ですが、生涯門人を持たず、孤高に生きた人といわれています。
おもしろさ 急には見えぬ 薄(すすき)かな
など、秀句も多いようですが、冒頭句もそういう1つといえましょう。
桜が散って、再び「歴史」の中へ沈んでゆく古寺の風情を詠んだものですが、古寺に見られる永遠感と、「おんじょうじ」という音が伝える暗く重たい寂寥感とが共鳴して、不思議な感動が伝わってくる句です。
寺の名がもし建長寺(けんちょうじ)や浅草寺(せんそうじ)であったら、また趣きの違う句になっていたことでしょう。
それは、寺の名の音に含まれる音相基と、その音相基が作るイメージを捉えて見れば明らかです。
- 「おんじょーじ」
- 音相基に有声音、逆接拍、オ音が多い
→ 重々しさ、永遠感のほか、暗さや寂寥感が伝わる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( ◎ ) - 「せんそーじ」
- 音相基に有声音、逆接拍、母音種が多い
→ 重々しさ、永遠感のほか、人間的な温もり感が伝わる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( ○ ) - 「けんちょーじ」
- 音相基に無声破裂音系と無声拗音が多い
→ 明るさ、清らかさや透明感が伝わる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( × )
「けんちょーじ」には明るさや透明感を作る無声音が多いため、存在感や重厚感を作る有声音中心の他の2句とは反対方向の句であるため、ここでの比較からは外れます。
そこで、同じ音相基(有声音、逆接拍)と「重々しさ・永遠感」のイメージを共有している「おんじょーじ」と「せんそーじ」の比較となりますが、「せんそーじ」は母音の種類が多いため人間的な温もり感があるのに対し、「おんじょーじ」は「オ」音が多く、暗さや寂寥感があるため、後者の方が句のこころに近い響きを持った寺の名であることがわかるのです。
松尾芭蕉は、句論の中で「響き」の大切さを説いていますが、「響き」とは耳ざわりのいい音の流れを言うのでなく、句の「こころ」にふさわしい音を持つ語を選ぶ「才華」のことだと思うのです。
音相理論を用いると、具体的な根拠を使ってその説明ができるのです。
“可能性を秘めた車” 「bB」(トヨタ車)・・・いま1つ足りないメカ表現の工夫
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「未知の可能性」や、「夢」、「期待感」などをことばの音で表現するには、情緒解析欄に「神秘的」、「不思議な感じ」、「普通でない感じ」、「夢幻的」などの情緒語が出ていなければなりませんが、それには表情解析欄の「安定感(Q)」、「充実感(R)」、「優雅さ(S)」、「静的(T)」などが高点であることが必要です。
分析表を見ると、これらのどの項にも高点が出ているので、「未知の可能性」を表現している語のように見えますが、ここで捉えた「可能性」は心情的なそれであり、クルマにほしいメカニックな可能性ではありません。
メカ的な可能性を表現するには表情解析欄の「躍動感(B)」、「活性感(D)」、「現代的(H)」、「合理的(J)」などが高点でなければなりませんが、分析表で見られるように、それらはどれもゼロポイントになっていて、その種の表現を持たない語であることがわかります。
心情的な可能性を捉えていればそれ以上は求めるまでもないと思われるかもしれませんが、高い音相感覚を持つ現代人はこの程度の異和感にも鋭く反応する感性をもっているし、それは大衆がネーミングの良否を採点する際のモチベーション(動機づけ)にもなっているのです
この語がメカ的な表現を欠いた理由は、「有効音相基欄」が示しているように「濁音および逆接拍の多用」と、「調音種比の低さ」があるからです。
逆接拍とは、子音と母音の明るさ(B値)が+と-の反対方向を向く拍(音節)をいい、ここでは「ビ」音(B+i・・・-と+)が該当します。それが2拍(50%・・・標準は23%)も入っているからです。
また、調音種比とは拍数に対する調音種の種類の数を見るもので、4拍語の標準は4音種ですが、この語には破裂音と両唇音の2音種しかないからです。
「ヤフー」と「グーグル」のイメージ差…ディテールは音相分析でしか捉えられない
だが音相分析を行うと、それぞれの語がもつイメージの違いを明白なことばを使って取り出すことができるのです。
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(注)表情解析欄の青い棒グラフは、次の違いを示します。
濃い青 | ・・・ | 「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語。 |
淡い青 | ・・・ | 「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、静的または非活性的なマイナス方向の表情語。 |
中間の青 | ・・・ | プラス、マイナス、どちらにも機能する表情語。 |
表情解析欄を見ると、「シンプル(A)」、「派手(E)」、「軽快感(F)」、「活性感(D)」など、明るく単純なイメージを作る「陽」の表情語を高点に置き、それに続いて「信頼感(Q)」、「非活性感(T)」、「高級感(R)」など、複雑、多様なイメージを作る「陰」の表情語を並べた、はば広い表現域をもった語であることがわかります。
この語は3つの音(3拍)でできています。
3拍以下の語を少拍語といいますが、少拍語は音の数が少ないから単純なイメージしか伝えない語が多いのですが、この語はわずか3拍でこのような複雑、多様な内容を伝えているところに顕著な特徴があるといえるのです。
このような表現域と奥行き感をもつ語を見つけた制作者の音相感覚は見事というほかありません。
グーグル(GOOGLE)
「ヤフー」とは反対に、表情解析欄のトップのところに複雑多様なイメージを作る「陰」の表情語、「静的(G)」、「信頼感(Q)」、「充実感(R)」、「優雅さ(S)」を置いたあと、明るくメカニックなムードを作る「陽」の表情語、「派手(E)」、「シンプル(A )」、「新奇さ(C)」、「進歩的(B)」を並べています。
この語は、ソフトな表情語が高点部分にあるため、情緒解析欄に多くの情緒語が出ているところに「ヤフー」との大きな違いが見られます。
「ヤフー」と「グーグル」は、共に「陽」、「陰」両面を捉えながら、「ヤフー」は技術のイメージを作る「陽」の方に、「グーグル」は情緒を作る「陰」の方に軸足があるのも大きな違いといえましょう。
だが、2つの語の間には顕著な共通点があるのです。
それは、表情語の最高ポイント数をどちらも60以下と低めに抑えたところです。最高ポイント数を抑えると、語全体から単純さや軽薄感が消え、代わって重厚感や存在感が生まれます。
両語はそういう効果を使って、共に存在感や社格の高さを表現しています。
いずれ劣らぬ、見事なネーミングといってよいでしょう。
「表情」は音の響きあいから生まれるもの
だが「グッチ」「バヤリース・オレンジ」「バイタリス」「バズーカ」「ギア」「ディオール」など語頭に濁音をおいて成功している例は山ほどあるのをみても、ことばが作る表情(イメージ)はそのような単純な仕組みでできてはいないことがわかるのです。
「ア」(有声音)は「明るい音」とよく言われますが、「ア」には「明るさ」のほか「開放的、適応性、暖かさ、穏やか、無性格的、汎用的」など10の表情がありますし、「s」(サ行音…無声摩擦音)の音には「清らか、爽やか、健康的、清潔感、静的、非活性的、奥行き感、暖かさ、安らぎ、穏やかさ」など、やはり10ほどの表情をもっています。
音の単位である「音素」はこのように多くの表情を持っていて、2つの音素が持つ表情の一部分が互いに響きあったとき、その部分の表情だけが顕在化した「表情」になるのです。
たとえば、「朝」という語は「ア(a)」と「サ(sa)」の音素でできていますが、前記した「ア」が持つ表情語の中の一部「開放的、明るい、汎用的、穏やか」と、「s」が持つ表情語の中の一部、「清らか、爽やか、静的、穏やか、」の部分が響きあうため、「明るく爽やか」な「朝」のイメージ伝わるのです。
「すてきな奥さん」(主婦と生活社)・・・意味と音相との見事な調和
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表情解析欄を高点順に見てゆくと、1つ1つの表情語がこの語の意味や雰囲気を適切な質と量とで捉えているのがわかります。
「すてきな奥さん」は、何をおいても爽やかで清らかさを高いレベルで持つ人でなければなりませんが、表情解析欄のトップに表情語「爽やか、清らか」を掲げたあと、「明るさ」、「高級感」、「健康感」、「穏やかさ」(静かさ)、「軽快感」、「若さ」など、すてきな奥さんのイメージに欠かせない表情語を多く捉えているのに深い共感を覚えます。
この語のうまさは、さらに高度な音相配慮があることです。
それは「明るさ」・・・以下の表情語のポイント数を思い切り低めに抑えたことです。
この欄で、これまで多く見てきたように、表情語のポイント数を低めに抑えると、表情語自体がもつ煌(きら)びやかさや明白さが圧縮されて、控え目で奥行き感とゆとりのある表情へと変わりますが、この語の場合ポイント数を抑えたことで「すてきな奥さん」の内面的な豊かさのようなものが伝わってくるのです。
このような音相が、この語のどこから生まれたのか。
それは有効音相基欄が示すように、次の音相基によるものです。
- 無声音の多用。(この語は拍数対比で63% → 標準は47%)
- 無声化母音の多用。(この語は拍数比で39% → 標準は12%)
無声化母音とは、母音iとuが、前後にくる子音の種類によって軽やかでモダンな音相に変わるものをいいます。
この語の場合は、「ス、キ、ク」の母音「u.i.u」がそれに当ります。 - 多拍であること。(8拍)
8拍以上の語を多拍語といいます。多拍語は、存在感や奥行き感のイメージを作ります。
このように、音相分析はネーミングが伝えるイメージを客観性の高い「大衆の平均的感性」で捉え、それと商品コンセプトとを対比しながらネーミングのイメージ伝達効果を評価するもので、これからのネーミング制作にとっては欠かせられない技術といえるのです。
「TSUBAKI」(資生堂)・・・表情の華やぎが情緒を消した
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資生堂、シャンプーのブランド名、「TSUBAKI」。
表情語のトップに「清らか、爽やか」をおき、それに「暖かさ」、「個性的」、「若さ」、「シンプル感」、「高級感」、「都会感」が続いて明白、華麗なブランド・イメージが作られています。
だがこの語には、大きな問題点があるようです。
ブランド名のように、情緒感や奥行き感がほしい語の場合は、情緒解析欄に「あいまい感」「不透明感」「不思議な感じ」などを含めた6~7語の情緒語がほしいのですが、ここでは3語しか出ていません。
そのため、この語にはことばの奥から伝わってくる「情緒」のようなものがないのです。
それは薄青色の「表情語」(R、T、Q、S項など)のポイント数が低いことによるものですが、このような音相になったのは無声音の多用 (拍数対比で67%→標準値は47%)と、高勁輝拍の多用 (拍数対比で79%→標準値は36%) に主な原因があることを、有効音相基欄が捕らえています。
無声音とは声帯を振動させずに出す「カ、サ、タ、ハ」各行音とその拗音をいい、高勁輝拍とはB(明るさや暗さ)とH(強さ)の値が標準値より高い拍をいいます。
表情語が作るイメージの絢爛さに中心が行過ぎて、奥行きや情緒感の見えない語になっているのが残念です。
音相理論はなぜ日本語から生まれたのか
言語学の意味論の中で一部扱われてはいますが、抽象的な把握で終っているうえ、特徴的な一部の音だけが対象のため、現用されていることばのイメージの解明などはできません。
そのような理論がなぜ日本語において立論が可能になったのか。その理由として、私は次の3つをあげています。
(1)日本語が体系的な言語構造を持っているうえ、他言語の影響をほとんどうけていないかったこと。
日本語の祖語「やまとことば」(和語)は、統辞構造(ことばの順序)や文法、音韻など、言語の基本となる部分に外国語の影響をうけることなく、独自の表現法が高い純度で受け継がれてきました。
その後の日本語は漢語、ひらがな、カタカナ語が混在し、外国語の影響を大きく受けているように見えますが、外国語が多数移入されても「名詞」の数が増えただけで、言語の基本部分への影響はほとんどないのです。
たとえば「Beautiful」という形容詞が入ってきても、日本人は「ビューティフル」のあとに「な、だ、で、に、なら」の定型の活用語尾をつけ、原語「Beautiful」は形容動詞の語幹、すなわち「名詞」としてしか使われておりません。漢語の場合も、「優美」という語はその後に「だろ、だっ、で、に、な、なら」の定形の活用をつけて形容動詞化し、「優美」は形容動詞の語幹、すなわち名詞としてしか機能させていないのです。
すなわち、日本語で「外来語が増える」という現象は、新たな語彙(単語)が増え、日本語の表現がより豊かになったというプラスはあっても、言語の基本体系を乱すものではないのです。
(2)日本語が開音節語であったこと
「音相論」という理論の体系化が日本語で初めて可能になった次の理由として、日本語が開音節語であったことがあげられます。
開音節語とは拍(音節)の終わりに母音が伴う言語のことで、日本語以外にもイタリー語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ポリネシア語などがありますが、日本語はその中でも完全形に近い開音節語といわれています。
日本語は「拍」の意識が明白なため、拍を単位とする表情「逆接拍、順接拍、無声化母音、濁音、促音、勁輝拍・・・」などが捉えやすくなり、語や文の音相把握が容易になります。
その反対の、子音どまりの音節が多い閉音節の言語(ドイツ語、ロシア語、英語など)では、音節の区切りが不明瞭なため、音相を捉える対象が無数に近い数になります。
(3)日本語の音節(拍)の数が、音相を捉える上で適宜な多さであったこと。
日本語で音相の把握を容易にした今1つの理由に、表情を捉える単位となる拍(音節)の数が合計138拍という極めて手ごろな数であったことがあげられます。
ちなみに、英語の音節数は区分法の違いによって、学者により「1,800」、「3,000以上」、「10,000以上」などとまちまちですが、表情を作る音の単位が1,800以上にもなると、脳内のイメージ識別機能が限界を越え、音節単位のイメージ(表情)把握は不可能となります。
日本語はあらゆる音声を138という手頃な数で把握できることが、音相論の成立を可能にした大きな理由だったといえるのです。
「チョイ悪るおやじ」の面白さ・・・音相基の組み合わせが作った隠された笑い
チョイ悪るおやじとは、一部にガキっぽさが残っているおやじのことだそうですが、この語に感じる「おかしさ」は意味的なもののほか、音の仕組みの面にもあるように思えたので、それを捉えてみようと音相分析をしてみました。
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表情解析欄を見ると、「おやじ」と「ガキ」を作っている表情語が次のように対立しているのがわかります。
(1)「おやじ」を作る表情語
暖かさ | 40.9ポイント | |
非活性的 | 30.0ポイント | |
安定感 | 27.3ポイント | |
充実感 | 25.0ポイント | |
高尚さ | 18.2ポイント | 合計 141.4ポイント |
(2)「ガキ」を作る表情語
鋭さ | 25.0ポイント | |
個性的 | 21.4ポイント | |
単純さ | 16.7ポイント | |
若さ | 12.5ポイント | 合計 75.6ポイント |
合計数は「おやじ」2、「ガキ」1の割合になっていて、この語の音が「おやじのくせにガキが抜けない人」の心の内側を見事に捉えているのがわかります。
また、それを作ったのは「有効音相基欄」(ここでは省略)の
オヤジ | (陰のムード) ・・・ | 「有声音と、逆接拍(子音と母音の明るさが反対の拍)」 |
ガキ | (陽のムード) ・・・ | 「破裂音、イ音、高勁輝拍(明るく強い音)」 |
という、反対方向を向く音相基の組み合わせであったこともわかるのです。
「美肌」は美しいことばか・・・大衆はこんな見方でネーミングを評価する
「美肌」という語は、女性の肌や色香を思わせる美しい意味と文字とを持つことばです。
だが、そういうことばであるにもかかわらず、この語を商品名に使ってヒットした記録はどこにもないし、テレビなどでこの語を声に出して言っている例も聞きません。
そのわけは、この語が意味と文字だけの美しさで、現代人にとって大切な「音」にはむしろ醜さを感じるものがあるからです。
そういえば、一昔前この語のことを「聞いただけで、肌がざらざらになりそうなことば」と言った著名な学者がおりました。
何時の時代でも、ネーミングにおける意味や文字の働きの大きさに変わりはありません。
商品の特徴などを意味や文字で伝えられれば、商品イメージは具体的になり、覚えやすくもなるからですが、音響感覚が発達した現代人の眼で見ると、意味や文字がどんなに良くても音が伝えるイメージが悪ければ、ネーミングとしての評価はケタ違いに下がるのです。
「ビハダ」という音には、なぜ「ざらざら」感があるのでしょうか。
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表情解析欄の上位を見ると、「充実感」「暖かさ」「優雅さ」など美しさを作る表情語はありますが、「美肌」の表現に欠かせない「清らかさ、爽やかさ」「新鮮さ」「清潔感」、「明るさ」などがすべてゼロポイント付近であることと、情緒解析欄に美肌と反対のイメージを作る「不透明感」や「あいまい感」などが多く含まれているからです。
個人々々を総称したことばに「大衆」という語があります。
大衆とはとりとめない存在のように思えますが、その大衆が平均的にもっている感覚的な価値観は、前記の音相分析で見られたように、きわめて冷静、賢明であることがわかるのです。
この音相理論を立論するに当たって、イメージの良否を判断する基軸に「大衆の平均的感性」を選んだ理由もここにあったのです。