「グッドバイ」と「さようなら」・・・太宰治の音相感覚を見る・・・
「グットバイ」ということばを聞くと、やや年配の人は昭和23年、玉川上水で入水心中した小説家・太宰治の同じ題名の遺作を思い出されることでしょう。
この小説は、朝日新聞に連載し始めて10回目で終わってしまった、作品ともいえないものですが、太宰文学の評論などでは必ず話題に上る題名です。
未完成作品の題名がこれほど後世で話題になるのは、「執筆中の心中」という事件性だけでないように思えた私は、この題名の 音相を分析してみました。
表情解析欄からは
庶民的 100.0p
活性的、動的 60.0p
シンプル 50.0p
派手 50.0p
高級、充実 50.0p
軽快感 40.9p
清潔感 36.4p
静的 30.0p
安定感 27.3p
高尚、優雅 18.2p
新奇さ 23.1p
があり、また「情緒欄」には「純粋性」の高さなど、太宰個有の心性とロマンティシズムと軽く淋しいいユーモア感を表現するにふさわしい表情語でできた題名であることがわかります。
これがもし「さようなら」だったらどうでしょうか。
ついでに、「さようなら」を分析してみたら、表情解析欄の上位に次のことばが並びました。
暖か、安らぎ 27.3p
非活性的、静的 15.0p
軽やか 13.6p
安定感、信頼感 13.6p
優雅感 9.1p
別離の思いを表現した表情語がそろっていますし、それらを包むオーラとして「表情解析欄」に「哀感、情緒的、クラシック感、夢幻的、さびしさ」などがあり、これまたまことに優れた音相をもつ語であることがわかりますが、「グッドバイ」に見られるようなユーモア感はありません。
ユーモア感は「高級、優雅、軽快感、派手さ」の響合いから生まれるものなのです。
太宰について語るとき「グッドバイ」という語が自然に出てくるのは、人々がこのような眼にはみえないつながりをそこに感じているからではないでしょうか。
私はそこに、「音相」という不思議な世界の存在を見るのです。