カーニバル休暇をとって小旅行に出かけていました。春の気配を感じつつリフレッシュしました。


さて、久々の読書感想は「日の名残り」です。

20年位前に観た映画の記憶がいい感じに薄れていたので、原作を初めて手にしました。

久しぶりに読書の醍醐味を味わったと言うか・・・ああ、こういうのがいいと思えるような年になったのかな、と思いました。もちろん、若い人が読んでもいいものはいいのでしょうけど、40を過ぎて多少人生がどんなものか分かり始めた者にとっては心への響き方が違います。

内容(「BOOK」データベースより)======
品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。
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映画を観たときは、スティーブンスとミス・ケントンの部分ばかりに気をとられてしまったけど、原作ではよりダーリントン卿へのシンパシーを感じました。

二つの世界大戦のはざまで没落していく大英帝国と台頭してくる新勢力アメリカという大きな構図がようやく自分の頭の中でもはっきり描くことができたし、それらを象徴するのが旧主人のダーリントン卿と新主人のファラディ氏というのもうまくできているなあと感心することしきりでした。

執事の仕事や品格について、小説ではじっくり読めたのも大変うれしかったです(^p^)

(「執事」というと今でこそ萌え系ジャンルで人気のカテゴリーかと思いますが「本物」を堪能したいならぜひとも手に取っていただきたい作品です。)

スティーブンスの一人称で語られる話ですが、日本語訳も素晴らしく言葉遣いや言い回しから「品格」が見事に表れていると思いました。

執事として頂点に立った瞬間があったと自負できるほどの人生を送れたのはスティーブンスにとってはこれ以上ない幸せでしょう。だけど、それと同じくらいのどん底も経験したし、執事生活以外は人並み以下だったかもしれない。結局どんな人も死ぬときには「とんとん」なのかなあ、なんて思ってしまったり。

終盤のミス・ケントンや見知らぬ男とのやりとりはスティーブンスを多少現実に引き戻したかもしれないけれど、彼はこれからも変わらず輝かしい過去を胸にしまいながら最後の品格ある執事としての人生を全うしていくのでしょう。おそらくアメリカン・ジョークは最後まで体得できないと思うけど、それでいいんじゃないのかな・・・。


電子版ではカズオ・イシグロさんの作品が他にもいくつか読めます。私はSonyリーダーストアで購入。

Kindle版あり。しかし、なぜこの表紙・・・

読了日 2014年2月


ここからはちょっと妄想というか、ナナメった感想を。(若干内容の詳細に触れていますので未読の方はご注意ください!)


ダーリントン卿って生涯独身だったのかな。夫人が出てくる場面はなかったしスティーブンスの口からも一切語られることはなく、また何よりダーリントン・ホールを子孫が継ぐという話もなかったようなのでそう考えるのが普通かも。

当時の貴族社会で、しかもかなりの名家でありながら未婚ていうのはアリだったのでしょうか。

ダーリントン卿を親ドイツにしたきっかけの出来事はとても悲しくまた読者の共感を得やすいものだったと思うけど、私は心の隅でずっと気になってしまいました。もちろん純粋な正義感からでもあるのでしょうけど、単なるジェントルマンとしての行為以上に思えたのですよね・・・。

友人の子息レジナルドへの性教育?をスティーブンスに押し付けるあたりも・・・。

まあ無理矢理特定しなくてもいいのだし、原作ではそこが重要なわけではないので掘り下げなくてもいいのだけど、そういう風に思って読んでも違和感ないなーと思ったまでです。

あと、(まだあるんかい!)スティーブンスのドライブ旅行中に出会うある館主と従僕ががが!!

主は戦争に従事した元・大佐ということだったけど、まずそういう軍人さんでも位の高い人はお屋敷をかまえることができるのですね。

けど、ダーリントン・ホールもそうだけど大きなお館を維持・管理していくのはだんだんに大変な世の中になっていて、使用人をたくさん雇うこともできなくなっている、と。

この大佐の館もスティーブンスは一目でそういう状況であることを見抜くわけだけど、いくつもの仕事を兼任して仕えている下僕が大佐の従卒だったっていうのが興味深く、へえ~そういうこともあるのかと。

戦時中も身の回りの世話をしていて戦後そのままそのポジションを保ったまま一緒にお屋敷に入ったってことですよね。よっぽど他に身寄りがないのか何なのか、いずれにしても馬が合うからでなけりゃ、元上司の下にずっと居ようとは思いませんよね~。

これも物語の核心部分とはほとんど関係ない設定ですが気になったので書いときました。