吉田修一さん2001~3年ころの作品を三つ収めた短編集です。

あ~やっぱり初期のころの吉田文学、好きだな~~~。

最近のエンタメ系も楽しませてもらってるけど、純文芸作はより吉田色が強いような気がします。もっとこういうのも書いてくれないかな~。


表題作「熱帯魚」がとてもよかったです。

はじめはごくごく平凡なある大工見習いの男の日常話的な感じで始まるのに一人、また一人と周辺の人物が加わるごとに「んーなんか変わった人たちですねえ」っていう居心地の悪さを感じ始め・・・、そして最後で一気にひっくり返される。

あ~詳しく書けないんですよ。これはぜひ読んで楽しんでいただきたいところなので。

月並みな言葉で言えば「日常の狂気」。

ほんの少し過剰でほんの少し逸脱した人々が出てきます。三編ともに、ですね。

でも、じゃあ正常って何だろう。これが正しいと思ってやってることでも相手側からしてみたらそうじゃないってこと、結構あるのかも。こっち側とあっち側で全然見え方が違う。

そういうことに気付かされる話でした。

あと、最後のほうに出てくる鴉のエピソードが印象的で、私は主人公の大輔がこうキラキラ光るきれいなものを何でも集めてしまう習性を持った鴉のようにも見えました。
水の底に沈む色とりどりの百円ライターと熱帯魚のイメージもぴったりで美しかったです。


「グリーンピース」は一番わけが分からなかったです(;´▽`A``

まあ「分かる」「分からない」の問題じゃないんでしょうけど、読書メーターではこの話が一番面白かったというレビューが多かったのでちょっとびっくりしたくらいで。若い人の感覚?なのかしら・・・(汗)。

これもあっちとこっちの感覚の差みたいなものがあったかなあ。

あとこのタイトル、読む前には一体全体「グリーンピース」なんて題でどんな話が展開するものなの?って非常に興味津々でした。どんな使われ方をしてるかは読んでのお楽しみ。結構ひどい男です。


最後の「突風」も軽い日常からの逸脱が描かれてます。

長期のヒマをもらったエリート証券マンが千葉の海岸の民宿でアルバイトをするという非日常性。これは読んでてなんかすごくゾクゾクしました。なんていうか・・・エロはないのにエロい?雰囲気。いや、そういう下品な感じではないんですが(;^_^A

最後は本当にソコに女の人が立ってるような、残像があるようなホラーっぽい感じがよかったです。


短編はこれくらいぴりっとぐりっと胸をえぐるようなパンチがあるものの方が私は好きですね。この短編集の場合は読後かる~く不安感に襲われるのが逆に心地いい。


Amazon Kindle版あり

私はSony リーダーストアで購入。他、紀伊國屋書店ウェブストアなど主要電子書店にて取り扱っています。

読了日 2013年4月27日