「何で今まで読まなかったんだ~当時あんなに騒がれてたのに!」っていうことが多いワタクシですが、この本もそうでした・・・。いやむしろこういう本を読みたくてずっと探してたんだよってくらい、よかったです。

多分映画化されたときの宣伝の感じ(寺尾聡さんの優しげな顔とか)からヒューマン・ドラマなんだろうと思ってたんですが、どうしてどうしてガッツリ警察小説じゃないですか!!

確かにヒューマンな部分もあります。というかそこが核なんでしょうけど、私は思いがけず硬派でかなり現実に近いと思われる警察内部のお話が読めてとても幸せでした。今ちまたでも警官の殺人容疑でT県警本部長が謝罪というニュースが騒がれてますが、ああここに至るまでにこういうことがあったんじゃないかなあと想像できるほど、この小説では表に出てこない部分がきちんと描かれています。

現職警官が殺人、というと今まではそれほどピンと来ませんでしたが、これは警察組織全体の威信にかかわる大変な、そしてまた最悪な事件なわけですね。よって警察としては何とかこの醜聞を最小限にしたい、しようと様々な駆け引き・取引を仕掛けていきます。

この物語でかかわってくるのは、検察官、記者、弁護士、裁判官、刑務官です。とんでもなく贅沢な顔ぶれにひひ

一つ一つの章がそれぞれの立場の人間の視点で描かれます。軸になるのはもちろん妻を殺してしまった現職警官の男。しかし、この男は黙して多くを語らない。扼殺後自首するまでに空白の二日間がある。ここで何をしたかが本作の最大の謎になっている。それを追求していくことがメイン・ストリームとしたら、底流にはそれぞれの章の主人公たちの生き様とでもいいましょうか、この事件にかかわることによって何を護り何を犠牲するのか、そういったことが描かれているように思います。で、そこが読んでいて非常に面白い。

各章本当に短いお話なんです。それなのに、そこに出てくる一人の男のことが、何というか愛おしくなるくらいよく分かるんです。組織に属する限り己を殺さねばならないことがある、信念を曲げねばならないことも。けれどその中でも絶対に譲れないこともある。そうなった時、人はどう感じどう行動するのか。う~ん、いいんですよこれが!

こればっかりは人ぞれぞれの選択ですから。

どう選択するかによって、勝者にも敗者にもなる。勝ち負けという言い方は正しくないかもしれないけど、ここでいいなと思うのは、負けは負けで腹に収めるしかないとか、勝ってもそれは表には出せないもので現実は何も変わらないとか、必ずしもどちらがよかったのかと言い切れないところなんですよね。そしてそれを淡々と、何の評価もせず書いてくれるこの小説。

よく「これぞ男の矜持!」みたいな宣伝文句を謳っている小説ありますよね。ああいうので本当に「これぞ男の矜持だ!」と思える作品に正直これまで出会ったことがありませんでした。どこかヒロイックすぎたり臭すぎたりで・・・。でもこの小説は真に「男の矜持とは」を見せ付けてくれた作品だと心から言えます。決してかっこいいこと綺麗ごとばかりでないところにとても好感が持てました。

ラストは泣きましたね。

最初と最後に出てくる刑事の志木さんがびしっと決めてくれてよかった。印象に残る章は、あまり小説ではフォーカスされることのない裁判官の視点かな。著者の横山さんは記者をやっていたこともあり、記者の章もリアルで面白かったです。この人たちは本当に警察組織と常に近いところにいるんですね。政治家担当記者なんてのも面白そう。ものすごい裏話がざくざく出てきそうですね。

横山さんの作品はいろいろ読んでみたいです。


Amazon Kindle版もあります。

他、リーダー・ストア 紀伊國屋書店BOOKWEBなどで電子版の扱いがあります。

読了日 2012年12月