続編と言うには18年後は間があきすぎてるし、16歳の少女が主人公とあっては、はてさてどんなもんか・・・と思ってたけど、期待以上に面白かった!!

「剣の輪舞」で20歳前後だったアレクとリチャードはアラフォー世代。本作「剣の名誉」では脇役に回っているけどなんのなんの、存在感はばっちり。特に未熟さが消え変人振りにも磨きがかかったアレクには十分楽しませてもらった。カシュナーさんはキャラの描き分けもうまいけど年をとらせてなおそのキャラの魅力を年相応に描く才能にも恵まれているんだなと。

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内容(「BOOK」データベースより)
田舎貴族の娘キャザリンは、都に住む伯父に招かれて喜ぶが、“狂公爵”として悪名をとどろかす奇人の伯父に命じられたのは、男装と剣術修行だった!いやいや従うキャザリンだったが、次第に持ち前の豪胆さを発揮し、名誉をかけた決闘を申し入れるまでに。だが時を同じくして、公爵の失脚を狙う陰謀が動きはじめていた…名作『剣の輪舞』の18年後の世界を舞台に、少女剣客キャザリンの青春を描いたローカス賞受賞作。
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少女剣客といっても血生臭い決闘シーンがたくさんあるわけではなく、タイトルどおり「名誉」とか「特権」の象徴として剣客が登場する。時代が変わって死人が出るまでの真剣勝負がなくなってしまったからなんだけれど、剣にかける誇りや名誉は昔と同じ。そしてそういうものを誰より深く愛し、また逆に剣に愛された男がアレク・キャンピオン、この人に他ならないわけで、その姪っ子が彼の命令によって剣客修行を積むことになる。

他人が見れば何を狂ったことを、と言うことになるんだろうけど、そこにはちょとした裏事情があって・・・。つまりアレクには選択の自由のない結婚をさせられた妹に対するコンプレックスがあって、それを姪に繰り返させたくないという思惑があるんだよね。決して周囲には明かさないけど。

狂人というレッテルを張られているけど、アレクの奇行はそれなりに一本筋が通っている。案外身内思いなんだよね、うんうん。リチャードやマーカスに対する保護もしかり。まあたまにご乱心って感じの時もあるけどそういうとこも含めてアレクらしくていい。若い時ほど自暴自棄になってないし、なんと言ってもトレモンテーヌ家の主だから。公爵としての威厳は保っている。(議会はすっぽかすけど)

話がアレクのことばかりになってしまったけど、キャザリンも非常に魅力的な少女で読書でこれだけ若い女の子に引き込まれたのは久々かなと。アルテミシアのために、そして全女性の名誉のために勇敢に決闘を申し込むシーンには本当に胸を熱くした。大人の世界を文字通り「覗き見」して性的にも目覚めていく様まで描かれる。まあちょっと官能的で刺激が強すぎるような気もしたけどね。

リチャードとキャザリンのシーンは本当に美しくて大好き!そのあとアレクが乱入してきて(?)ムフフなことになって・・・って、あれはちょっとキャザリンがかわいそうだったかな。っていうかアレク、大人気ないよいい年して。(けどそういうところが好き)

終盤はちょっと尻すぼみというか、陰謀というより嫌がらせ程度だったのがあまり説得力なかったんだけど、土壇場もアレクらしくてこれ以外の結末は考えられないね。作品としての面白さとかわくわく感は「剣の輪舞」より「剣の名誉」に軍配が上がる。でも「剣の輪舞」があるからこその出来に違いない。

この<リヴァーサイド>の世界観を共有している作品群はどこかでも指摘されていたけど本当にパズルのピースみたいで、ひとつ読むたびにひとつピースがはめ込まれ全体像が徐々に見えてくるようになっている。それでも「完成」することはおそらくないんだろうな。欠けている部分は読者の想像によって補われるように仕掛けてあるから。ああー自分にもっと豊かな想像力があったら・・・!!

次は60年後を読むのだ!


剣の名誉 (ハヤカワ文庫FT)/エレン・カシュナー

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読了日 2010年11月27日