この年にして三島文学初挑戦でした。いろいろ衝撃的でした。自分の中の新たな扉が開いたような・・・。


内容(新潮社HPより)
維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の若き嫡子松枝清顕と、伯爵家の美貌の令嬢綾倉聡子のついに結ばれることのない恋。矜り高い青年が、〈禁じられた恋〉に生命を賭して求めたものは何であったか?――大正初期の貴族社会を舞台に、破滅へと運命づけられた悲劇的な愛を優雅絢爛たる筆に描く。現世の営為を越えた混沌に誘われて展開する夢と転生の壮麗な物語『豊饒の海』第一巻。


前半部分、主人公の清顕の高慢さがどうにも鼻持ちならなくて何度も投げました。「なんなんだ、この女を馬鹿にしたような態度は!」と思えば「ええい、じれったい男だな!はっきりしろい」と思ったり。もともと恋愛ものは苦手だったしね。

かれこれ半年くらい前に読み始めたでしょうか。中断してはまた手にとりの繰り返し。でも、それはこの作品のせいでは(もちろん)なくて、自分の心の扉が閉まってたから、目が開いてなかったから、だと思う。

何か、この作品から受ける印象とか世界観とか感情とかが、ちょっと大げさだけど「初体験」なのよ、すべて。だから拒絶反応が出たのかしら。でも、ある時ばーーーんと心の扉が開くともうすっかり「とりこ」「夢中」なの!!

禁忌を犯すことの快楽。

一言で言ってしまえば、私が「初体験」と感じたものの源はこれなのかもしれない。うわわわ、間違ってるかな、アタシ(汗)。

清顕と聡子の禁断の恋があってはならない状況へ、破滅へと向かっていくにつれ二人の心はどんどん純粋に、そして美しくなっていく。罪を重ねるごとに浄化されていくような・・・というような表現が作中にもあったように思うけど、まさにそういう感じ。

そしてこの美しさは物語後半その「罪深さ」「おぞましさ」「忌まわしさ」が色濃くなるとますます際立ってくる。ただただ圧倒されます。とくに聡子の家の女中で二人の逢引きの世話をする蓼科という女のいやらしさといったら、一級品です!

二人の関係を知る者たち、両親までもが、それぞれにこの二人の恋のどこかに歪んだ己の欲求を投影して満たそうとしているところがこれまたおぞましい・・・。当の本人たちはどんどん純化していくというのに。

人が人のどこに優越感を抱き、何に愉悦を見出すのかの新境地を見せ付けられたような気がします。否、新境地なのではなくて、こういう人間心理の深淵をこれほど巧みに美しい文章で読まされたのが初めてなのか・・・。

清顕の親友・本多の存在が多少救いになりました。恋の虜になっている清顕を羨望、憐憫、同情、嫉妬など色々な感情を持って見守りながら常に冷静さを失わない男。理性と知性の象徴のような人物だった。ちょっと清顕に惚れてるのかな。その本多が最後に清顕の願いをかなえようと尽くす場面はとても感動的だった。この時代の男の友情っていいですよね~ラブラブ

シャム王国から留学のためにやってきた二人の王子の挿話も幻想的かつ暗示的ですばらしかった。不吉の予兆やら仏教の教えやらを見事に体現してくれた。

もはや、というかはじめから現世で成就することに意味を成さなかった清顕と聡子の恋。清顕が愛する人に誠を尽くさねばならぬことに気づき命を懸けたことは意義深いかもしれないが、問題は「豊饒の海」がここで終わってはいないことだ。

最後に輪廻転生という宗教的なテーマを投げかけて「春の雪」は閉じるわけですが、やはり四部作すべてを読まなければ「豊饒の海」を真に読み解くことはできないですよね。続きがすごく気になります。「春の雪」投げずに最後まで読めて、よかったです。

春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)/三島 由紀夫

¥660
Amazon.co.jp

読了日 2010年3月9日