時貞の背中と、運之丞に胸がピッタリとくっつけられしばし互いの肌の温かさを噛みしめる、そして、時貞が首を後ろに傾けると、運之丞がその唇を塞いだ、腰を抱くようにして、運之丞が己を楔を時貞に打ち付け出した、ドンと内側に突き当たる場所が、時貞の身体を弓なりにさせる、目の前にある木にしがみ付くようにして、眼下の海を見つめると漆黒の闇が広がっていた。


「あああぁ・・運之丞・・この後、衣を着替えるとしよう。母上が、元服の祝いに、儂とそなたの着物をそろえてくれたであろう。同じ柄の同じ着物・・うんんっああ・・。二人で揃えて・・旅立ちの準備を・・・。」


背中に、接吻を落としてから


「そういたしましょう。そうすれば・・・敵の眼も・・欺ける・・・・。」


もうそれ以上の言葉は無かった。二人の艶姿は、誰に咎められることなく、背徳を背負いつつも、淫らに咲く二つの花のように最後の時を同時に迎え、そしてその儀式は、終わった。


汚れた衣服を変えるべく、二人は城内のなかの隠し部屋に入った、衣を整え、最後の深く、熱い接吻を交わすと二人は部屋を出た。もうそこには、互いを愛しみあった二人でなく、上下の立場がはっきりとした姿に戻っていた。ただ、違うのは、二人の身に付けている着物が、揃いのものであることぐらいだ。


真っ白の生地に金糸で縁取りのしてある羽織を着ている二人は兄弟のようだった。時貞はクルスを胸にかけ、穏やかに微笑んでねぎらいをかけながら城内を歩いて回る。その後ろを、運之丞が付き人として一緒に動いていた。毎日の朝の日課の事だけれども、どこか違う雰囲気であることは、皆が感じ取っていた。それは、自分たちに残された時がもうないことを暗に示していた。いつ討伐軍が動き出してもおかしくないことをわかっていたのだ。緊迫感を残した、静かな朝のひと時が皆の最後の時を告げていた。


討伐軍の中の佐賀藩 鍋島勝茂は、功を焦っていた、


「この島原藩をわが手に収めん為にも、何としても、天草四郎時貞の首が欲しい。軍紀などに構うていられるか、総攻撃の前日の今日に、わが軍が、原城を落として見せるぞ!!いざ、出陣!!」


佐賀藩は、抜け駆けをして、原城に向かって攻め入った。
それを聞いた松平は、


「なんと、鍋島め!!功を焦りよったか・・。しかし、もはや後には引けぬ。全軍総攻撃を開始する。城の中にいる者全て殲滅せよ!!天草四郎時貞の首を持って参った者には、褒美を使わす。いざ、かかれ!!」


突如として、城外から地響きを立てて、討伐軍が攻め入ってきた。
佐賀藩の軍勢ならば、何とか凌いでいたのだが、津波のごとく押し寄せる討伐軍の勢いにとうとう原城の最前線が崩れていった。そうなるとあっという間に城壁内に討伐軍の武士たちが流れ込んできた。応戦一方の一揆軍にはもはや力が残ってなかった。飢餓の状態での戦闘が長く続くはずもなく、死者の数は、増えるばかりだった。
時貞と運之丞も、城内に入り、中に入ってくる武士と闘いながら周りを助けていた。しかし、到底防ぎきれるものではない。


「もはやこれまで!!城に火を放て!!」


外からその声が上がった。城の周りに撒いてあった油に一斉に火を放った、業火となる火が時貞のいる場所を外部と遮断したのだ。


「皆もよう闘った。礼を申す。儂の力が足りぬばかりに、このようなことになってしもうた。皆の命尽きる時を、儂が最後まで見送ってやろう。」


時貞の言葉にその場にいた皆がすすり泣いた、そして、ある者は自分で喉に刃を突き立てて自害し、ある者は互いに刺しおうて命を絶つ、子どもは、母親が目を隠して一突きで命を絶つ、壮絶極まる光景が時貞の目の前で起こった。それを時貞は、じっと見つめ、そして聖書の御言葉を唱え続けていた。ここで自害した者たちが、主の元へ必ず行けるようにと。
運之丞は、死にきれないで苦しんでいる者を苦しみから解き放つ役割を担っていた。それは、時貞の手を汚さない為と、キリシタンの自害をしないという教えを守るために苦しんでいる者への憐みだった。


そして、ただ二人だけとなった。


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