嵐の予感
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奥さま聞いて下さい・・・。
愚かな私を笑って下さい・・・。
そして私を叱って下さい・・・。
「俺・・・こんなとこ住めないよ・・・」
封を開けて取り出した予備校学生寮のパンフレットに並ぶのは、自由に
生活してきた私にとって信じがたいものばかりでした。仮にも元暴走族
の私が住む場所です。それなりの不良的要素があってしかるべきだと
私自身は勝手に思い込んでいたのですが、目の前の紙面で踊る文言
は背筋が凍るようなものでした。
「あなたを合格へ導く・・・5つの特長・・・だとぉ・・・!?」
赤い太字で書かれている内容はすべて私の癇に障るものばかり。
「門限22時厳守、テレビ持ち込み禁止、規律正しい入浴時間・・・」
門限が22時なんて私にとって絶対にあり得ません。テレビがない生活
なんて考えたことさえありません。入浴時間を決められているなんて
人権無視としか思えません。
「電話は共同公衆電話が5台完備・・・電話も無しかよ・・・」
どうやら個別の電話は持ち込めないようです。共同で設置してある公衆
電話だけになるようです。現在と異なり携帯電話などまったく存在しない
時代(正確には大きな形状の自動車電話はあったが・・・)です。入寮後
は自由に電話連絡さえ取れなくなるのです。考えられません。
「食事は栄養バランスを考慮した完全食を3回・・・っておいおい(汗)」
つまり食事もすべて寮の中でしろということです。好きなものを食べる自由
さえないのです。気が合うかどうかもわからない受験生たちと一緒に食事
をするなど・・・気ままに暮らしていた私にとって気が遠くなるようなシステム
でした。要するに一日中外出しないで寮の中で過ごせということです。ただ
ひたすら勉強だけをして、他人と交わることもなく、食事の心配もしないで
生活しろということです。
当時の私は18歳です。4月になれば法的にも高校生ではなくなるのです。
18歳未満禁止のあらゆることが出来るようになる年齢です。パチンコだっ
て堂々と打てますし、エッチなビデオだって堂々と鑑賞できるはずなのです。
しかも思春期真っ盛りの健康な男子なのです。こんな禁欲的な世捨て人の
ような生活に堪えられるとは到底思えません。
しかし、あと数日で住んでいる部屋は出なければなりません。荷物と私の
体の行き先は、もはやこの寮しか残されていません。この寮が嫌だと言う
ならば、おとなしく遠く離れた親元に移り住み、そこで働き口を探すしか
ありません。いえ・・・私の親の性格から考えれば、そうやって逃げ帰った
としても、素直に私を受け入れてくれるかどうかさえ怪しいものです。
「もう大人なんだから自分で自活して何とかしろ」とでも言われて放り出さ
れるのがおちです。
大変甘いようで恥ずかしいのですが、当時の私にはそこまでの覚悟が
まだありませんでした。というよりも・・・そんなことを想定したことがなか
ったため、心の準備がまったく出来ていなかったのです。
パンフレットをめくりながら色々考えてみると、私にはこの学生寮に入る
しか道がないように思えてきました。一番無難な道に思えてきました。
「慣れれば・・・何とかなる・・・のかなぁ・・・(不安)」
大切な女性であるN子を失った私にとって、受験を諦めるという選択肢
はありません。それは彼女の死を冒涜することにつながります。あくま
で前向きに歩き出すことによって、彼女の死のショックから(暫定的です
が)立ち直ったのですから、ここでくじけてしまっては元の木阿弥です。
N子の母親からも「受験を頑張れ」と言われています。色々不安と不満
はあるものの、この時点で採りうる選択肢は1つしかないように思えます。
「とりあえず・・・親の言うとおりにしてみるか・・・」
生意気なことを私は言っています。「とりあえず」もなにも、生活費のほぼ
すべてを負担してくれるのは親なのです。ある程度は私の意志を主張する
ことがあるとはいえ、大学受験をするというラインでは一致しているのです
から、これ以上私がわがままを言うことは、世間の常識から言って許され
ません。それくらいの物分りの良さは、まだ未熟な当時の私でも持ち合わ
せていました。
「そうと決まれば、さっそく準備しなくちゃな・・・」
アパートの契約も終わりますから急がなくてはなりません。一人暮らしです
から、大袈裟な引越し業者は必要ありませんが、軽トラック運送の業者くらい
は手配する必要があります。荷造りも大急ぎですが、規則で持ち込めなくなっ
たものも多数あります。そういった品々は捨てるなり譲るなりして処分しなくて
はならないのです。電気・ガス・水道を止める手配も必要です(実は親が既に
済ませていた)。住所が変わることを郵便局に届けないと、郵送物の行き場が
なくなります。
それから2日間、私は引越しの準備に忙殺されることになりました。
(中略)
まさに3月の末日・・・法的にはぎりぎり高校生の身分である日、私はY予備校
の学生寮の前に立っていました。先に出発した軽トラックの運送業者は、渋滞
のせいか、電車で移動した私よりも遅れているようです。もしも先に業者が到着
したら、学生寮の事務室に名前を言ってから玄関先に荷物を置いておくように
打ち合わせておいたのですが、玄関前は整然としています。
私は小さなボストンバッグを片手に玄関へ入っていきました。学生寮というから
には私と同世代の若者がたくさんいるはずです。私の想像では至るところで
大騒ぎしている予備校生の姿が見られるはずだったのですが、あたりは静まり
かえっています。
寮は思ったより大きな施設でした。予備校の学生寮なんて・・・そんなにニーズ
があるとは思っていなかったのですが、大きな棟が3つ連なるちょっとした団地
のような雰囲気。ただ・・・まったくと言っていいほど人の気配がしないのです。
スチール製の靴箱が並ぶ少々古臭い玄関に入って私は呼びかけました。玄関の
中は数百人分の靴箱と、公衆電話が5つ並ぶかなり広いスペースです。入った
右側に受付窓口のような小窓があります。事務員がいるとすればそこでしょう。
最初の呼びかけで返事がなかったので、私はさらにその小窓に顔を近づけて
中に向かって呼びかけました。
「ごめんくださーい!今日から入寮予定の者ですがぁ~!!」
「はーい!ちょっと待ってね~」
今度はかなり奥から年配の女性らしき声の返事がありました。どうやら
小窓の中は事務室で、そのさらに奥には事務員が居住するスペースが
あるようです。声はそのあたりから響いてきました。
「はいはいはい・・・お待たせしましたぁ」
「あ・・・俺、今日からお世話になる予定の○○と申しますが」
「えぇっと・・・○○さん、○○さん・・・ちょっと待ってね」
その年配の女性はと老眼鏡をかけて、何やらリストを見ながら懸命に
私の名前を探しています。そんなに多くの入寮者がいるとは想像して
いなかったので、私は少し不安になりました。
「あった、あった♪・・・○○さんね。はいはい、お待ちしてましたよ♪」
「あの・・・荷物を積んだ軽トラが、もうすぐここに着くんですけど・・・」
「えぇっと・・・あら?○○さんは地元の方なのねぇ?」
(リストを見ながら)
「はい・・・親元を離れてますが高校は地元です」
「珍しいわねぇ・・・」
「そうなんですか?」
「そうね・・・ここはほとんど遠くからやって来る人ばかりですからねぇ」
「地元出身者はあんまりいないんですか?」
「近くて隣の県よねぇ・・・だって普通は地元ならここに入る必要ないじゃない?」
「ですよね・・・自宅があれば」
「あなたは高校のときも1人暮らしだったの?」
「はい・・・ちょっと色々事情がありまして」
「じゃあこういうところで生活するのも慣れてるわね」
「・・・どうかなぁ(苦笑)」
「大丈夫よ・・・簡単なルールさえ守れば快適だから」
「簡単な・・・ルール・・・ですか(苦笑)」
(ルールが一番苦手)
「ちょっと寮長が変わり者だけど・・・(苦笑)」
「・・・はぁ(不安)」
流れから推測するにこの年配の女性はこの学生寮の「寮母さん」でしょう。
寮母さんはこの事務室の裏にある部屋に住み込みで働いているようです。
そして常駐はしていない「寮長さん」が別に存在するようです。
寮母さんと話している間に、手配した軽トラックが玄関先に到着しました。
私は玄関の中に少ない荷物を全部降ろすよう、運転手兼運搬人に頼み
ました。持ち込み制限が厳しいのと、書棚や引き出し類は完備している
ため、ほとんどの家財道具は処分してしまい、実際に運搬したものは
わずかです。運転手に任せても5分とかからないでしょう。
「そういえば・・・この寮って今・・・誰もいないんですか?」
「うーん・・・半分くらいは部屋にいるわね」
「え!?でも・・・どこか外出してるんでしょ?」
「いえいえ・・・ちゃんと半分くらい、150人くらいは部屋にいますよ」
「・・・でも人の気配がないですよね?」
「そりゃ・・・いつもよりは人数は少ないわよ?」
「・・・・・・」
「春休みで帰省している人もいるし・・・」
「・・・・・・」
「あなたみたいに新入りでまだ着いてない人もいるし・・・」
「新入りってどれくらいいるんですか?」
「あなたを含めて100人ちょっとかな」
「あとの人は??」
「今年も失敗してもう1年っていう人もいるわね」
「ここに!?2年も!?」
「ここは2年間限定だから・・・それでもだめな人は自分でアパート借りてるわね」
「3浪ってことですよね・・・(不安)」
「でも、悪いことは言わないから1年で合格して出て行くことね(苦笑)」
「はぁ・・・(不安)」
「あと・・・いろいろな人がいるから、付き合う相手はよく選んでね」
「・・・どういう意味ですか?」
「私の立場で言えるのはここまで。あとはいずれわかるわよ」
「・・・・・・」
「見たところ・・・あなたはちゃんとした人みたいだからね」
(あの時イメチェンしてよかった)
寮母さんいわく、なにやらこの寮にはそれなりの問題があるようです。ただ
彼女の立場では具体的に説明することができないのでしょう。確かに彼女
が入寮者を色眼鏡で見ていることが公になれば、この職にとどまることが
許されなくなるでしょう。あくまで公平に入寮者全員を扱っているというのが
大前提のはず。これ以上彼女を問い詰めるのも酷というものです。
「あなたの部屋は1階の離れにある105号室よ」
「はい、了解しました」
私は荷物を車から降ろし終わった運転手に残金の支払いを済ませて、
すぐに玄関から部屋へと荷物を運び始めました。最初だけは軽めの
物を持って、寮母さんに部屋まで案内してもらいます。寮母さんは
私が荷物を持っていることを忘れたのか、どんどん早足で先を歩い
ていきます。私は置いてきぼりにならぬように必死で追いかけます。
「ここよ。なかなか静かでいい場所でしょ?」
「はぁ・・・」
「寮内の細かい見取り図とか、スケジュールは机の上に置いてあるから」
「はい。ちゃんと読んでおきます」
にこりと微笑んだ寮母さんは、また薄暗い廊下の先へ戻って行きました。
部屋は8畳はあるなかなか広いスペースです。ベッド、机、椅子、書棚など
基本的な家具は全部揃っています。窓は大きく、中庭の植栽を通して明るい
日差しが部屋の中まで入り込んでいます。風呂とトイレは共同ですので
個々の部屋にはありません。自由気ままに暮らしていた私にとって、好きな
時間に入浴できないこと自体が既に憂鬱の元となっています。
私は置いてある残った荷物を運ぶために、再び先ほどまでいた玄関まで
戻ります。今度は1人なので自分のペースで歩けます。窓から見える景色
や廊下の奥の様子、さらに別棟の開いている窓などを眺めながら、この寮
の雰囲気を少しでも感じ取ろうとしました。
1つだけはっきりしたことは、100人ほどの私とほぼ同世代の若者がこの
瞬間も滞在しているはずですが、一切雑音や騒音、歓声などが聞こえない
ことです。途中通過した入り口から見える広い食堂ロビーにも、誰一人とし
て姿が見えません。全員が自室にこもって静かにしているということです。
予備校の寮という特殊な環境ゆえの不思議な状況です。真昼間なのに。
「すげーな・・・みんな勉強してんだろうな・・・(不安)」
私はこれと同じ雰囲気を一度味わったことがあります。高校時代の図書室が
そうでした。大勢同級生がいたにもかかわらず、しーんと静まり返った室内
に辟易した覚えがあります。そしてこの学生寮は施設全体があの図書室の
ような空気に支配されているのでした。
私は足を速め玄関へ急ぎます。私物を長時間放置するわけにはいきません。
もうまもなく玄関に到着しようとするあたりで、突然耳をつんざくような爆音が
響き渡りました。
ブルルルンッブルルルンッブルルルゥ~
キッキキィ~~
間違いなくバイクの音です。バイクが玄関先に停車した音です。しかも
確実にエンジンやらマフラーやらをいじっている「暴走族仕様」。いわゆ
る“ゾク車”というやつ。それが学生寮の目の前に、たった今停まったよう
なのです。
「まさかY崎のやつがからかいに来たんじゃねーだろうな・・・」
しかし、Y崎をはじめとする“黒孔雀”の仲間や後輩には、私が学生寮に
入ることを伝えていません。だから本来はそんなことあり得ないはずです。
私は少し足を速めて玄関へと急ぎました。何やらトラブルの臭いがします。
とにかく大切な荷物を、私の新しい聖域である自室に運び込んでおかなく
てはいけません。
玄関の間近まで来ると先ほどの寮母さんの甲高い声が響き渡りました。
「だめよ!!ここはバイク持ち込み禁止よ!」
やっと玄関に立ちすくむ彼女のそばまでたどり着いた私は、彼女の視線の
先にあるものを目で追いました。
「なんでぇ?俺の足なんだからいいじゃんバイクくらいさぁ(ニヤリ)」
そこにはど派手な改造を施したバイクにまたがる、一人の若者がいました。
昔の漫画で言えば「湘南爆走族」の登場人物のような金髪のソフトリーゼント
で髪形を決めている、見るからに素行の悪そうな男です。
ブンブブ、ブンブブ、ブンブンブン~
まるで寮母さんを挑発するような調子で彼は爆音を鳴らします。玄関に面した
窓のカーテンが開けられて、そっと覗き見る入寮者がちらほら見られます。
玄関の奥の廊下にはそっと様子を伺っている者もいます。誰も現場までは
やって来る度胸が無いようです。もしくは受験で頭がいっぱいで、さほどの
興味はないのかもしれません。何よりも私は、あれほど気配がしなかった
割には予想を超える人数の寮生が部屋にいたことに驚きました。彼らは
気配を消すほど勉強に熱中していたのでしょうか。少しばかり背筋にうす
ら寒いものを感じてしまいました。
「とにかくダメったらダメ!!あなた新規の入寮者でしょ!?」
「うるせぇなぁ・・・いいじゃんよ・・・」
「とにかくうるさいからエンジン切りなさい!!」
「えっ??なにぃ~??聞こえない~??」
「エ・ン・ジ・ン・を・切・り・な・さ・い!!」
「・・・ちっ」
今回はここで締めさせて頂きます。
またのご来訪を心よりお待ちしております。
だって・・・悔やむことばかりですから・・・。
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