すべての道は幸福に通ず<後編>※最終回 | 奥さま聞いてよ!妻を愛す恋愛体質夫の生活      変なタイトルだけど意外にも長編私小説なのです

すべての道は幸福に通ず<後編>※最終回

⇒前編からの続き

 

 

 

 

 

(中略)

 

 

年末年始を無事にやり過ごし、仕事始めの1月4日

おとそ気分が抜けないまま私は新年挨拶回りをこなしていました。

途中、取引先で偶然ばったり会ったK田から、Mが既に落ち着きを

取り戻したことを聞きました。さらにK田とS原の仲間内だけの質素な

入籍祝いパーティーの誘いも受け、迷わず出席の返事をしました。

 

 

 

夕刻前に職場へ戻ると、S原からのメモが置いてあります。

 


  

 

 

“私は暇してるので戻ったられんらく下さい  S原”

 

 

  

 

 

仕事始めの日は、挨拶回りを済ませた順に勝手に帰宅していくので

職場にはほとんど人は残っていません。Y部長は挨拶回りから

自宅へ直帰のようです。私はさっそく内線でS原に電話をしました。

 

 

内線電話に応答したのはS原本人でした。

 

 

 

 

 

 


「はい!××事業部です!」

 

 

「あ・・・S原?俺・・・○○だけど・・・」

 

 

「あぁ・・・○○君?遅いよぉ~・・・諦めて帰ろうと思ってた」

 

 

「すまん・・・担当してる会社が多くてさ」

 

 

「だよね・・・ごめん・・・仕事なのに無神経な発言でした」

 

 

「いやいや問題ないよ。・・・で例の件だよね?」

 

 

「そうそう・・・私も早く話してすっきりしちゃいたいからさ」

 

 

「今は・・・話せる?」

 

 

「私は暇でお酒飲みながらマンガ読んでたくらいだから♪」

 

 

「どこで話す?」

 

 

「私の部署・・・もう誰もいないからこっちおいでよ・・・酒もあるし♪」

 

 

「いいね・・・了解」

(内容が分からないので少し不安) 

 

 

 

  

 

 

 

私はすぐに荷物をまとめてS原の職場があるフロアまで急ぎました。

 

 

S原のいる部屋に入ると、だだっ広い大部屋の中にぽつんとS原が

1人で一升瓶から日本酒を注ぎながら酒盛りをしているのが見えました

ほんのりと顔が赤くなっています。少しフラフラと揺れながら、職場には

似つかわしくないレディースコミックを読みふけっています。

正月ならではの風景です。普段ならありえません。

 

 

 

 

  

 

 

「おいおい・・・S原・・・美人が台無しだろ」

 

 

「うるせぇ!ほっとけぃ!ただ酒だもん♪マンガは拾い物だし♪」

 

 

「もしかして・・・けっこう出来上がってる?」

 

 

「少しだけね♪平気だよ・・・襲ったりしないから♪」

 

 

「じゃあ・・・俺も1杯くれ」

 

 

 

 

 

  


私はコーヒー用の紙コップを差し出しました。S原は一升瓶を持って

トクトクと注いでくれます。

 

 

 

 

 

  

欲求爆発ゾウ  

「じゃあ・・・あけましておめでとう!・・・かんぱーい!」

  

 


 

 

 

  

2人ともコップの酒を干しました。私は挨拶回りの出先で少しずつ酒

をご馳走になっていたため、この一気飲みでかなり酔いが回りました。

そこで・・・S原が切り出しました。

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言うけど・・・あなた・・・もうあの女は忘れなさい!」

 

 

「あの女って・・・その・・・あれか?」

 

 

「Aのことよ!こないだ言ったでしょ?ヒック・・・」

(ちょっと酒癖悪いな)

 

 

「・・・もう引きずってないよ」 

 

 

「あなた・・・あの女となんで別れたの?」

 

 

「いや・・・1回別れて・・・復活して・・・婚約して・・・」

 

 

「それから婚約破棄して・・・また復活して・・・最後は別れた・・・でしょ?」

 

 

「詳しいな・・・(驚き)

 

 

「別の信頼出来る筋から全部聞いてるからね」

  

 

「そうだったよな・・・人間関係ってコワイな・・・」

 

  

「あなた・・・ずっと幻影を追ってるでしょ?」

 

 

「そういうわけじゃないけど・・・」

 

 

「でも・・・なんとなく引きずって女性不信気味でしょ?」

 

 

「うん・・・そういう部分はちょっと前まではあったかな・・・」

 

 

「あなたが女性に優しいのはAに忍耐を強いられたからだよね?」

  

 

「まぁね・・・相当我慢したから慣れちゃった」

 

 

「Aって最低だよ!私ずっと話聞かされて腹立ってたもん!」

 

 

「知ってるよ・・・途中で浮気とか不倫も分かってて黙認してたし」

 

 

「それもすごいよねぇ・・・○○君、エライ!」

(かなり酔っている)

  

  

「う~ん・・・やっぱり好きだったからだろうなぁ・・・」

 

 

「でも・・・多分○○君・・・Aの本性、知らないと思うよ」

 

 

「知ってるよ・・・男と金には確かに汚かったよ。それは認める」

 

 

「じゃあ・・・S山って男とヤッてたの知ってる?」

 

げげ!ねこ  

「・・・・え!?」

 

 

「Y村は・・・?あと・・・H島は?・・・あと・・・(以下省略延々続く)

   

  

  

(中略) 

 

  

  

「ちょ、ちょ、ちょ・・・ちょっと待ってくれ・・・・・それどういうこと?」

 

 

「あと・・・・T田も・・・他にもいるよ」

 

 

「それって・・・みんな俺の知り合いばっかじゃん・・・」

 

 

「あなた彼女と何年付き合ったっけ?」

 

 

「まともには5年・・・復活して2年・・・微妙に2年・・・」 

 

 

「9年間か・・・大きいね・・・今の話、受け止めきれる?」

 

 

「それって・・・まじで本当なのか?」

  

 

「わざわざ正月から呼び出してウソなんか言うはずないじゃん」

  

 

「・・・そうだよな・・・」

  

 

「しかもあなたが付き合いだした最初の年からのお話だよ」

 

げげ!ねこ  

「え・・・・!?」

 

 

「あなたがまともに付き合ってたつもりの5年間も、実は幻だったのよ」

 

 

「・・・・・・(絶句)

 

 

 

      トラウマ聞いてびっくり  

                イラスト協力:佐藤美雪さん

 

 

 

「ひどいよねぇ・・・」

 

 

「でも・・・最初の年・・・彼女・・・妊娠して結婚しようって・・・(息絶え絶え)

 

 

「それって・・・いきなり行方くらまして勝手に中絶しちゃった・・・でしょ?」

 

 

「・・・なんで知ってんの?」

 

 

「それ・・・あなたの子じゃなかったんだよ」

 

 

「・・・・・・(絶句)

 

 

「不倫してた写真家さんの子だよ」

  

 

「・・・・・・(絶句)

 

 

「あなた最初っから利用されてたんだよ」

 

泣きぽよ  

「ウソだ・・・(半泣き)

 

 

「ごめん・・・残念だけど・・・これ確実に本当のこと」 

  

 

「ウソ・・・だろ?」

 

 

「信じるかどうかは任せるよ・・・でもあなたも内心疑ってたでしょ?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「黙ってようと思ったけど・・・現実を知った方がいい思ったんだよね」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「・・・・言わない方が良かった?もしかして」

 

 

「いや・・・ありがとう・・・感謝します」

 

 

「・・・・仕返しするなら手伝うけど?」

 

 

「いや・・・そんなつもりはないよ・・・子供じゃないんだし・・・」

 

 

「・・・大丈夫?今日1人で帰れる?」

 

 

「うん・・・かろうじて平気だと・・・思う・・・」

  

 

「・・・もう1杯飲んでいきなよ」

 

 

「いや・・・とりあえず・・・俺帰るわ・・・ごめん・・・」

 

 

「・・・なんだか・・・正月からごめんね」

 

 

「いや、俺が頼んだことだから・・・ありがとう」

 

 

「そう・・・じゃあ気をつけてね」

 

 

「ああ・・・お先に・・・」

 

 

「ことよろ」

 

 

「ことよろ」
※念のため「ことよろ」=「今年もよろしく」 

   

 

 

 

 

 

  

私はS原から聞いた事実があまりのい衝撃的だったため、打ちひしがれて

家路につきました。街の景色も、地下鉄の中の乗客も一切目に入りません。

亡霊のような状態になって自宅までかろうじてたどり着きました。

 

 

Aというのは私が大学入学と同時に上京して、そのまま9年間付き合い続けた

女性です。その間、他の女性と何も無かったと言ってしまうとウソになりますが、

間違いなく、私の人生の中で大きなウエイトを占める存在でした。

 

 

ただ、少々金と男にだらしない面があって、彼女の浮気や既婚男性との不倫には

相当悩んだのも事実です。しかしいつも最終的には私のところに戻ってくるので

黙認していたのです。惚れた弱みと言うやつです。

 

 

しかしS原が挙げた男性の名前が本当だとすると、Aの行動は私の想像を

はるかに超えていたことになります。また、彼女が妙な行動をするようになった

のは4年目くらいからだと思い込んでいましたが、最初から裏切り行為があった

というのは考えてもいませんでした。

 

 

一番ショックだったのは、付き合って1年目に彼女が中絶手術をしたのですが、

その相手が私じゃないということです。確かにS原に言われてみると怪しいこと

だらけなのですが、私は事実から目をそむけて疑おうとはしませんでした。

学生だった当時の私ですが、子供を産んで入籍することを提案したところ、

Aは急に2週間姿をくらまし、再び戻ってきた時には中絶手術を済ませていた

のです。私は少ない蓄えから手術代金を渡しました。この経験はずっと十字架

として心に重くのしかかっていたのは確かです。

 

 

今となっては何が真実かは分かりませんが、私自身も本当は薄々気付いて

いながら怖くて認めていなかった部分を、S原が強引に掘りおこしたような

形になったのです。自我が崩壊しそうになるのを耐えながら、やっとの思い

で自宅のドアを開けて部屋に転がり込みました。

 

 

 

     

 

 

 

「おかえり~!」

 

 

 

 

 

 

  

何も知らないl婚約者が明るく出迎えてくれました。

しかし、私はその場に崩れ落ちてしまいました

  

 

 

 

  

 

 

 

「うわ!お酒臭いねぇ・・・会社で飲んだでしょ?もう~しようがないなぁ」

 

泣きぽよ  

「・・・・うっうっ・・・・ひっく・・・(泣き声)

 

 

「どうしたの?」

 

 

「・・・・ひっく・・・うぅ・・・」

 

 

「なんで泣いてるの?あなた泣き上戸だったっけ?」

 

 

「あのさぁ・・・ひっく・・・」

 

 

「どうしちゃったのよ・・・正月からぁ」 

  

 

「俺さぁ・・・Aにかなり騙されてたみたい・・・・」

  

 

 

 

 


 

過去の女性についての愚痴なんて、本来は婚約者に対してこぼすべき

ではないのは当然です。その当時の私にもその程度の分別はあったの

ですが、あまりに大きな衝撃を受けてしまったのと、空きっ腹に酒を一気

飲みした勢いもあって、つらつらと泣きながら語ってしまいました。

   

  

婚約者は私の過去の辛い遍歴について、元々ある程度把握しています。

  

 

 

 

 

  

 

 

「Aさんってあのトラウマになってる人?」

 

 

「うん・・・・」

 

 

「あ・・・分かった・・・S原さんに色々言われたんでしょ?」

 

 

「・・・・うん」

 

 

「知らなかったことが・・・いっぱい分かっちゃったとか?」

 

 

「・・・・うん」

 

 

「あらま・・・当てずっぽが当たっちゃったか・・・」

 

 

  


 


婚約者は、情けなくも玄関でうずくまって泣き続ける私の背中を

さすりながら、しばらく黙って考え込んでいます。

 

 

 

 

 

 

「あなたも辛いところよね・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「お父様のご臨終に間に合わなかったのも彼女のせいだしね・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「彼女のイメージが崩れれば崩れるほど・・・あなたの後悔は深まるわよね」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「彼女のせいでボロボロになったんでしょ?」

 

 

「・・・・・うん」 

  

 

「人間不信だったんだよね」

 

 

「・・・・・うん」

 

 

「でも・・・もしもあなたが自信満々のままだったら・・・」

 

 

「・・・・・?」

 

 

「もしも・・・あなたがボロボロになってなかったら・・・」

 

 

「・・・・・??」

 

 

「あの日・・・あの場所にあなた、来なかったよね」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「あなたは今・・・私のこと愛してる?」

 

 

「うん・・・」

(きっぱり) 

  

 

「今一番大切に感じてる女性は私だってことでいい?」

 

 

「もちろん・・・」

(きっぱり) 

  

 

「迷ったり、悩んだりしないで・・・私だって断言出来る?」

 

 

「それは・・・絶対に間違いないよ」

(きっぱり) 

  

 

「じゃあ・・・あなたが私に会ってなかったこと想像してよ」

 

 

「・・・・それは・・・辛い・・・かなり辛いな」

 

 

「ってことは・・・あなたがボロボロになって良かったってことじゃない?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「そうじゃないと私たち出会ってないでしょ?」

 

 

 

 

 

 


そうなのです。婚約者との出会いの詳細についてここでは割愛しますが、

私がトラウマ女のせいで心がボロボロになっていなかったら・・・

私が25歳の時に父親が死んでいなかったら・・・

その後、激しく生活が荒れていなかったら・・・

やっと人間不信を振り切るきっかけになった元カノと別れていなかったら・・・

 

 

私がAと普通に別れて自然な自信を持ち続けたまま過ごしていたら・・・

田舎に両親が健在で、潜在的な依存心を持ったままだったら・・・

荒んだ生活も体験せずに順調な毎日を過ごしていたら・・・

元カノと出会っていなかったら・・・元カノと付き合い続けていたら・・・

 

 

私は目の前にいる愛する婚約者とは出会っていなかったのです。

 

 

私のマイナス経験があったからこそ、この大切な女性と巡り会えたのです。

 

 

 

 

  

 

 

「だから・・・いいよ・・・過去のことは好きなだけ愚痴ればいいよ」

  

 

「・・・・・・」

 

 

「それがなかったら・・・私もあなたに会えてなかったんだから」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「確かに辛い出来事かもしれないけど・・・結果オーライじゃない?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「はい!じゃあそういうことで。寒いから早く中に入って」

 

 

「うん・・・」 

  

 

 

  

 

 

 

私は急に元気がよみがえってきて、靴を脱ぎリビングルームへと

入っていきました。部屋中に美味しそうな匂いが漂っています。

 

 

 

 

 

 

 

「晩御飯作ったよ♪今日はビーフシチューなりぃぃ~♪」

 

「うわ!美味そう!サンキュー♪」

 

 

 

  


 

(後略)

 

 

 

 

 

 

その後・・・私たちは春を迎え、都内某所にて華燭の典を挙げました。

オーソドックスな披露宴を望んだ私たちは、媒酌人をY部長に引き受け

てもらい、友人席にはK田の姿もあり、あのタクシーの運転手には来賓

として出席を頼みました。家族をはじめ、良き友人たちに囲まれて、大変

幸せなひと時だったことを申し添えておきます。

 

 

長い間、私の情けない姿を、拙い文章にもかかわらずお読み下さり

本当にありがとうございました。

 

 

妻を心から愛している恋愛体質夫の回想は、これにて終わりにしようと

思います。

 

 

 

 

 

 

だって・・・やっと妻にブログのことを言えましたから・・・。


 

 

  

 

 

 


※次回、「登場人物たちのその後」をアップします。

 事実上それが最後になります。 

  


 

最後に慰労の意味でよろしければお願いします。
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○現在の夫婦生活一口メモ

妻にはつい最近、このブログのことを話しました。

彼女は最初から一気に読みきったようです。すべて

彼女も知っている内容ばかりなので、特に驚いた

様子はありませんでしたが、私がブログを書いて

いたことを大変意外に思った様子でした。ここ最近

様々な出来事も説明しました。ここに書いたこと

はもちろん、書けなかったことまで説明しました。

妻は大変怒ってしまい、その怒りをなだめるのに

かなり苦労してしまいました。もちろん怒りの相手

は私ではありません。とにかく私が実生活を重視

してネットの世界とお別れすることについては賛成

してくれました。今後はこの妻を幸せにするべく、

足元をしっかり見つめながら、背伸びすることなく

自分を見失うことなく、誠実に生きていこうと思い

ます。このブログで初めて使うセリフでご挨拶を

致します。長い間、本当にありがとうございました。

夫婦揃って感謝申し上げます。皆様のご多幸を

妻ともどもお祈りしております。

なお、次回のおまけで、もしかすると妻の言葉

を掲載出来るかもしれません。

     


     

   

<ブログ初心者によるブログ探検>

ブログ探検してみて楽しかったり気に入ったブログを

勝手にご紹介しちゃうオマケのコーナーです。今回が

最後のご紹介になります。       

  

今回探検したブログ↓クリックしたら飛びます。

 

☆☆☆佐藤美雪のお絵かきじゃんぐる☆☆☆

「真夜中の訪問者」の中でも「さとみゆさん」のイラストを使用

させて頂きましたが、最終回もやはりお世話になりました。

本当にお忙しいところ、無理を言ってイラストを描いて頂き

ました。感謝するばかりです。「さとみゆさん」と私の合わせ技

のブログにするのが目標ではありましたが、残念ながら私は

閉店致します。「さとみゆさん」のブログはこれからも一ファン

として応援したいと思っています。ぜひ皆さんもご訪問下さい。

他にはない「味」があります。