私は96年4月に新卒で地方に就職しました。
内定は8月初旬で、最終的に2つの企業を比べて入社する企業を決めることになりました。
どちらも営業職。
1 男女の区別なく給料が出る、地域に根ざしている企業。
2 その地方の水準よりも少し高めの給料設定で、全国に行く可能性がある企業。
結論からいうと、就職したのは1の企業でした。2の企業は新卒が卒業する2月に倒産し、40人ほどいた内定者が全部取り消されて、当時でも大きなニュースになりました。
8月の時点でどちらに行こうか迷った私は人ごととは思えず、背筋の寒い思いをしました。
ではなぜ2の企業を選ばずに済んだのか、ふり返ってみます。
8月、入社企業に迷っていた私は、内定後に2社へ同じ問い合わせをしました。
「御社では、入社後にどんな研修をされるのでしょうか?」
1の企業では、採用の最高責任者である総務部長が電話に出てくださり、詳しい説明がありました。それと「うちは大きな企業ではなく辞退者を見越した内定は出していないので、できればこちらに来て欲しい」ということでした。
2の企業では、人事部のおそらく若手の方が対応されました。ただ、3・4月に実際に何が行われるのか、その人も把握していないようで曖昧な答えでした。
電話を切って、考えます。
正直、2の企業の方がいろんな業態を持っていて、仕事の幅を考えて2の方へ傾いていました。この時点でもまだ気持ちは2です。
でも何かまだ不安が残り、周りの年長者の何人かに聞いてみました。
「この2つで迷っているのですが、どうでしょうか?」
バイト先でお世話になっていた社長は、学歴に頼らず腕一本で構成事務所を立ち上げた人でした。その人は「最終的には自分が決めること」としながら、どちらにもメリット・デメリットがあることを教えてくれました。それを頭の中で天秤にかけます。
母親は、いつも理由は教えてくれないのですが(というか本人も説明がつかない様子)、動物的な勘で「こっちにしなさい」という人。採用された職種ではないところに華やかな職種があり、そちらに後で移行すればいい、という理由で1を選択。
結局、私は1の企業に内定辞退の連絡を入れました。総務部長が、残念がりながらも受けいれてくださいました。
その後、それまであまり話をしたことがなかった父親が、2の企業の手広く営業している部分について指摘をしました。
社員数のわりに拠点数が多すぎでは。各拠点の営業は少人数でしんどいはず。
パンフレットにはこうあるが、一番の商材はおそらくこれで、これしか柱がない。
なのにこれだけの高い給料設定はどうだろう。
父親は「だからこちらにしなさい」とは一言も言わなかったのですが、社会人として学生にはない視点での指摘でした。確かに言われれば、華やかなわりに根拠が少ない。研修もどうなるのか、いまいちわからない。
その話を聞いてからもう一度考え直しました。
これから頼りにしなければいけない人事のスタッフがちょっと頼りない。
父親が言うように、拠点は少人数で自転車操業の可能性が高い。
面接は総務部長だったが、なぜ採用されたのか自分でもピンとこない。
(実は完全徹夜明けで面接をしたのに、その1回で内定が出ていた)
ということで、一度断りを入れた1の企業に(電話でしたが)平身低頭でお願いをして内定を復活させてもらい、2を辞退して1の企業に入りました。
ふり返ってみると、
分からないことは、実際に企業に尋ねる
長く社会で働いている人の意見を聞く
というのが、2の企業を選ばずに済んだ要因だったと思います。
今から考えると、2の企業の人事の人も、先のことは把握していなかったのだと思います。ひょっとしたら会社が危ないことを察知していたかもしれません。
内定が出るまでは企業に対して気を遣いますが、内定が出たあとの企業に対しての質問は「大変だな」と思われることはあっても、断られたりそれで評価が下がることはまずないです。むしろ熱心な内定者と思われるでしょう。
不安に思うことは、内定者同士で相談したりする前に直接当事者に聞いてしまった方が早いかもしれません。そのやり取りで気づく点もあるのだと、身をもって知りました。
一度で納得できなければ、二度聞いていいです。自分の人生を左右することなので。その不安については企業の人事の人も体験しているので、おそらく理解してくれます。
それに、何の経験もない学生は、企業や社会についていくら研究をしていても追いつかないものがあります。
社会で働いているからこそ利く嗅覚というのは、周りの年長者が持っています(社会に出てから、この学生と社会人の感覚の違いは痛感しました)。プライドは横に置いて、耳を傾けてみることをおすすめします。