行政書士の大越です。

 過去に、ブログで何回か東京都の青少年条例の改正問題について触れ、またツイッターでも言及していたせいか、今回の新しい改正案について問い合わせがあったので、個人的に思ったことを書いてみます。

※ご注意
あくまで大越の個人的見解であり、事務所や行政書士は関係ありません。
また、私自身はこの問題を集中して追っていないので、的外れな部分もあるかもしれないので、ご注意ください。

個人的に感じる問題点

■1.改正案による新たな規制基準は、現行の規制基準と事実上重複しており、法改正の必要がない。

 現在の東京都の不健全図書の指定基準は、

「青少年に対し、著しく性的感情を刺激し甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」

    ・・・となっています。

 これだけでも相当曖昧で、具体的内容がわかりませんが、その具体的基準は、『規則に定める』と書いています。
 では、その規則には何と書いてあるのでしょうか?

 その内容は、東京都青少年の健全な育成に関する条例施行規則の、第15条に書かれています。

第15条 条例第8条第1項第1号の東京都規則で定める基準は、次の各号に掲げる種別に応じ、当該各号に定めるものとする。

一 著しく性的感情を刺激するもの次のいずれかに該当するものであること。

イ 全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。

ロ 性的行為を露骨に描写し、又は表現することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。

ハ 電磁的記録媒体に記録されたプログラムを電子計算機等を用いて実行することにより、人に卑わいな行為を擬似的に体験させるものであること。

ニ イからハまでに掲げるもののほか、その描写又は表現がこれらの基準に該当するものと同程度に卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。

二 甚だしく残虐性を助長するもの次のいずれかに該当するものであること。

イ 暴力を不当に賛美するように表現しているものであること。

ロ 残虐な殺人、傷害、暴行、処刑等の場面又は殺傷による肉体的苦痛若しくは言語等による精神的苦痛を刺激的に描写し、又は表現しているものであること。

ハ 電磁的記録媒体に記録されたプログラムを電子計算機等を用いて実行することにより、人に残虐な行為を擬似的に体験させるものであること。

ニ イからハまでに掲げるもののほか、その描写又は表現がこれらの基準に該当するものと同程度に残虐性を助長するものであること。

三 著しく自殺又は犯罪を誘発するもの次のいずれかに該当するものであること。

イ 自殺又は刑罰法規に触れる行為を賛美し、又はこれらの行為の実行を勧め、若しくはそそのかすような表現をしたものであること。

ロ 自殺又は刑罰法規に触れる行為の手段を、模倣できるように詳細に、又は具体的に描写し、又は表現したものであること。

ハ電磁的記録媒体に記録されたプログラムを電子計算機等を用いて実行することにより、人に刑罰法規に触れる行為を擬似的に体験させるものであること。


これらが、現在の不健全図書類の指定基準です。

これらのうちのどれかに該当すれば、不健全指定と書類として指定することが出来ます。
これと、今会議会に提出される改正案の、新たな規制基準を並べてみましょう。

『漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現したもののうち、強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現したもの』
 (改正案第8条2号に第7条の定義を代入し、読みやすくするために一部を省略しています)

 並べてみると、現行の施行規則のうち赤字にした部分と、新しい規制基準は、何が違うのでしょうか?

(新基準)強姦等の著しく社会規範に反する性交

  と、

(現行基準)人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること

 って、どう違うのでしょうか?
 「強姦等」というからには、「等」にあたる性犯罪は、強姦致傷や強制わいせつになるはずです。それらはまさに、「人格を否定する性的行為」ではないのでしょうか?


そして、仮に刑事罰の方から考えるのであったら、

(新基準)刑罰法規に触れる性交を…著しく不当に賛美し又は誇張…したもの

 と、

(現行基準)・・・罰法規に触れる行為を賛美し、又はこれらの行為の実行を勧め、若しくはそそのかすような表現をしたもの

 って、どう違うのでしょうか?(近親姦はありますが・・・)


 つまり、わざわざ新しい規制基準を作る必要があるようには見えません。

 しかも、諮問された本がこの指定基準に該当するかを判断するのは、「青少年審議会」です。
 行政(青少年課)ではありません。
 今までに、一度でも、「新しく不健全指定したい本」を、審議会に諮ったことがあったのでしょうか?

 ないのなら、「これらの基準には該当しない」「これらの基準では対応できない」ということは言えないのではないでしょうか?


■2.新しい青少年条例改正案は、第28期東京都青少年問題協議会の答申の内容を大きく逸脱しており、立法事実を失っている。

 今回の条例改正は、第28期東京都青少年問題協議会の答申を受けて条例改正を行うもののはずです。

 波紋を広げた「非実在青少年」は、その答申の次の部分などの指摘を受けて法制化されようとしたものです。

『・・・このような漫画等が蔓延することにより、児童をみだりに性的対象として扱う風潮が助長されるとともに、このような漫画等が容易に青少年自身の目に触れるような状況下では、青少年が「大人の社会では、大人が子どもとこのような性交等をしても構わない、問題ないと認められているのだ」との認識を持つなどその健全な性的判断能力が大きく歪められてしまい、その結果、青少年が年齢にふさわしくない性的行動を取ったり、みだりに自らを性的対象にしようとする大人に対する抵抗感が薄れるなど、その健全な育成が阻害されるおそれが高い。』
(第28期東京都青少年問題協議会 答申より)

 この答申では、はっきりと『青少年の性描写」が問題であり、規制する必要がある、と記述されています。

 ですから、本来の手続的には、東京都は「非実在青少年」の概念を取り払ってはいけないのです。

 新しい法律を作るには、『立法事実』(法律などの制定がどうしても必要な理由)が必要です。

 今回の青少年条例改正の立法事実は、この青少年問題協議会の答申です。

 行政が勝手に「新しく法律を作ります。改正します」と言い出したら問題があるので、行政から独立した協議会や審議会という第3者機関を作って、「立法事実」があるかを確認してもらうのです。(本当は独立しているか怪しいのもあるのですが、それはまた別の話)



(※11月29日追記)

 法律上は、法令や施策を立案するとき、必ずしも審議会や協議会を行わなければならないという義務はありません。

 だから、行政から「そんなの関係ねぇ」と言われてしまったら、終わりの話ではあります。

 ただし通常は、そんなことをすると批判・糾弾の的なので、審議会や協議会を設けて、「あらゆる視点から検討した」「本当に必要なのかを見極めた」という実績づくり(と言っては言葉は悪いですが)も含め、検討の末に結論を出してその結論に従って法令や施策を立案するのが通常です。



 つまり、青少年問題協議会が、「皆で話し合ったところ、現在は○○という問題がある。だから法制化が必要である」という結論を出したから、行政はそれに基づいて法律を提案するのです。

 今年3月の青少年条例改正案は、まさに答申で改正の必要ありとされた部分を直すものでした。
 いわば、答申を踏まえたという意味では、手続きとしては、順当でした。(ただ、一部踏み越えてましたが)

 しかし、
今回の新改正案の、不健全図書についての改正は、明らかにこの答申とは別物です。

 しかも、一部を削除するならまだしも、
答申で指摘されたことと全く別の内容です。

 いわば、答申を無視した内容になってます。

 これは、ちょっと変な言い方ですが、青少年問題協議会を軽視し、後ろ足で砂をかける行為です。

 青少年課は、「青少年問題協議会の意見なんか無視して立法するよ」ということですから。
 
 ですから、協議会の答申に基づいて条例改正案を議会に提出し、それが議会で否決されたなら、青少年問題協議会に戻して再検討すべきです。

 そうでないなら、『行政が独自の判断で、首長や議会の様子を見ながら自分たちに都合のいい法制を作る』という暴走を許すことになります。


(重要※11月25日追記)

申し訳ありません。この項に誤りがありました。

この改正の根拠は、第28期青問協の答申ではなく、8月4日と8月30日に行われた、


『青少年健全育成のための図書類の販売等のあり方に関する関係者意見交換会』 など根拠にしているそうです。
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/09_ikenkoukankai.html

3.大阪府で今月26日に大阪府知事に手交された、「青少年を取り巻く有害環境の整備の答申」と、東京都の第28期青少年問題協議会の答申を比較すると、ほとんど同じ内容を審議しながら、その見解と結論が大きく異なりすぎている


 大阪府の橋本知事が、東京都の「非実在青少年」の条例改正をうけて、「うちもやるぞ!」と青少年問題協議会を立ち上げ、審議した答申が先日出ましたが、ほとんど同じ青少年に関する問題を審議しながら、その過程と結論が東京と大阪でかなり食い違っています。

(リンク)

大阪府・答申書
http://www.pref.osaka.jp/koseishonen/jorei/toushin_shukou.html


 もちろん、「地域が違うのだから、問題点や取り組み方は違ってくる」という反論はあり得ますが、大阪の答申を見ると、東京よりもかなり実地調査をしており、実態に即した条例見直しをしようとしているという姿勢が見えます。

 これを見たあとで、東京都の青少年問題協議会の答申を見直すと、さしたる調査や実態の確認をすることなく「自分が欲しい結論に無理やり導こうとしている」ことが一層明らかとなる印象です。

 前の項で「東京都は青少年問題協議会を軽視している」と批判しておいて何ですが、大阪と比較すると、やはり第28期の青少年問題協議会の答申はあまりにお粗末なので、これはやり直すべきです。

 というか、これも追認すると、各種審議会や協議会のずさんな運営を認めることになります。