鴎外作品(現代語訳)

「なお、まな、つかさ」

文語調で書かれた鴎外の作品は、雅文(優雅な文章)ですが、君たちには読み憎いだろうなぁと思います。

そこで、下手な翻訳ですが、ここのブログで現代語に意訳していくつもりです。

ここのホームページに全文をまとめていきます。 
⇒ 鴎外作品現在語訳

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森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 041 完了

西暦1886年6月13日の夕方7時、
バワリア王ルードウィッヒ二世は湖で溺れ、
年老いた侍医グッテンはこれを助けようとして共に命をおとした。

顔には王の爪あとが残っていたという恐ろしい知らせに、
翌日14日のミュンヘンではひと騒動だった。

街の角々では、黒縁の張り紙にこの訃音が書かれ、
そのまわりは人山ができていた。

新聞の号外は王の死にさまざまな億節を付けて売られていて
人々は争って買い求めていた。

点呼用の制服を身につけ、
黒い毛並みのバワリア像を戴く警察官用の馬に乗り、
また徒歩での往き来で雑踏はすごい混雑だった。

しばらく人民に顔を見せなかった国王であったが、
さすがに痛ましさで憂いの表情の者もいた。

美術学校でもこの騒ぎのせいで、
巨勢の行方を心に掛けるものは、
エキステル以外には気づかうものはいなかった。

6月15日の朝、国王の棺がベルヒ城から
真夜中ミュンヘンに移されたのを迎え、
その帰り美術学校の学生が「カフェ・ミネルバ」に引き上げる時、
エキステルはもしかしたらと思い、
巨勢のアトリエに入ってみた。

すると巨勢はこの三日ほどに相貌が変わり、
著しく痩せており、ローレライの絵の下に跪いていた。

国王の死のせいで、レオニの漁師ハンスルの娘が、
同じときに溺れて死んだことを、問いかけてくる者もいなかった。

森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 040

レオニの店の前まで来たが、ここへは寄らず、
すぐ先にある漁師夫婦の自宅へと漕ぎ出した。

日も暮れ岸には木々の枝が生い茂り、
入り江には葦のあいだに白い花が咲いているのが、
夕闇の中にほのかに見えた。

舟には泥水にまみれの髪がほどけ、
藻屑がかかった少女の姿はあまりにも哀れに見えた。

舟を進めると蛍が驚いて岸に高く飛び去って行っくのが見えたとき、
マリーの魂が抜け出たのではないかと心痛の思いがした。

しばらく行くと木陰に隠れた漁師の家の灯火が見えた。
近づいて「ハンスルさんのお宅ですか。」と声をかけると傾いた小窓が開き、
白髪の老婆が舟を覗き込み
「また水の事故かい。主人はベルヒの城へ昨日から呼ばれてまま帰ってこないが、
手当てをしましょう、中へ。」
と落ち着いた声で答え窓を閉めようとした。

巨勢は声を振りたてた。
「水に落ちたのはマリーだ!あなたの娘のマリーだ!。」

老女は聞き終える前に窓を開け放したままで、
桟橋のほとりまで走り出て、
泣きながら老女と巨勢はマリーを家の中に抱きいれた。

中に入ると板敷きがひと間あるだけで、
灯したばかりの小さいランプが釜土の上で微かな光っていた。

壁の粗末なキリスト画は煤につつまれていた。
暖を取るため藁を焚き、介抱したが、
少女はついに目を覚ますことはなかった。

消えると跡形もなくなる泡のような悲しいこの世を
マリーの亡骸の傍らで
巨勢と老女は夜を通して語り合った。

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森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 039

本当に一瞬のことだった。巨勢は少女が堕ちるとき上着のすそを握ったのだが、少女は

 

湖水に堕ち、(あし)の間に隠れていた杭に胸を打った。

 

気絶して沈みかけた少女を小舟に引き上げると岸辺で争っている国王たちをあとにして、

 

もと来た方に舟を漕ぎ返した。

 

巨勢は少女を助けようと思う気持ちのみで、他のことにかまってはいられなかったのだ。

森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 038

少女は、「あっ」と叫び気を失い、傾く小舟から巨勢が助ける間もなく湖に堕ちてしまった。

 

湖水は、ゆるやかな勾配で、次第々々に深くなり、小舟のあたりで1.5メートル程の

 

深さである。しかし、岸辺の砂は、粘土混じりの泥状態で、王の足は深く沈み、自由に

 

歩くことはできなかった。

 

後ろにいた侍医グッデンは、傘を投げ捨て王に追いすがり、王の外套の襟首(えりくび)(つか)まえて、

 

無理やり引き戻どそうとした。しかし、王はこれを振り切ろうとして外套の脱ぎ捨てた。

 

グッデンはその外套を投げ捨てると、なおも王を引き寄せようとした。

 

すると王は振り返りとグッデンに組み付き、声もださずに()み合いになった。

森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 037

小船の上で巨勢は、上着をはおり、(うずくま)っていたマリーも岸にいる人物を見ていた。

マリーは驚いて、「あのかたは、国王よ!」と叫びながら立ち上がった。

背に掛けていた外套(がいとう)が落ちた。帽子はさきの店に置いたままだったので、

乱れた金色の髪は夏服の肩のあたりにかかっていた。

岸に立っていたのは、侍医(じい)グッデンを引き連れて、散歩をしていた国王であった。

国王は、あやしい幻を見るように恍惚(こうこつ)として少女の姿を見ていたが、

持っていた傘を投げ捨て、「マリー」と叫びながら岸の浅瀬を渡り近づいて来た。

森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 036

 巨勢は脱いだ上着を少女に被せると小船に乗せ、漕ぎ出した。

雨は止んだが、空は曇っていて、暮色は岸のところまで迫っていた。

少し前まで吹いていた風のせいで、波は高かった。

岸に沿ってベルヒ方面に漕ぎ戻り、レオニの町の端あたりまで来た。

岸辺の木立のはしに、砂地が次第に浅くなり、波打ち(ぎわ)に長椅子があるのが見えた。

葦の草むらに舟が触れるほど近づくと、人声や足音がして、


木々の間を出て行く者がいた。


身長は180cm近く、黒い外套を着て、手に雨傘を持っていた。

その左側に少し距離を置いて、ひげも髪も雪のように真っ白な老人がいた。

前にいる人物は、(うつむ)いて歩みより、縁の広い帽子で顔はよく見えないが、


今この木立の間から出てきて、湖水に向かい、しばらく立ち止まった。

そして、片手で帽子を脱ぎ取り、長い髪を後にかき上げ、広い(ひたい)をあらわにした。

顔の色は、灰のように蒼く、窪んだ目の光は、人を射抜くようだった。

森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 035

少女は立ち上がり、桟橋(さんばし)につないだ船を指した。

「舟を漕いだことある?」

「ドレスデンにいた頃、カロラ池で漕いだことがある。うまいとは言えないけども、君ひとりくらいなら平気さ。」

「庭の椅子は濡れてるし、屋根の下では暑すぎるわ。少しのあいだ、私を乗せて漕いでくれない?」

森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 034

レオニで馬車を降りた。左に高くロットマンが丘があり、「湖上第一勝」と題した石碑が建っている。右には、音楽家レオニが開いたという湖面を望む酒場がある。巨勢が両手で支え、すがるように歩いてきた少女は、この店の前に来て、丘を振り返った。
「わたしの雇い主だったイギリス人が住んでいたのは、この山の中腹の家です。老いたハンスル夫婦の漁師小屋もすぐ近くです。わたしはあなたを連れて、すぐにでも行きたいけれど胸騒ぎがしてなりません。この店で少し休ませてください。」
しかし、巨勢が店に入り、夕食が取れるか尋ねると「店は7時からです。30分お待ちください」と言われた。
ここは夏の間だけ客があり、給仕の者もその年ごとに雇うので、マリーのことは知らなかった。


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ロットマンが丘
下記のURLに「ロットマンが丘」が詳しいです。
ここの左の絵にあるのが「湖上第一勝」の石碑でしょうか。
http://hw001.gate01.com/ta1hanai/rottman/rottman.htm

ハイデルベルク出身の画家ロットマンが 「この丘こそ湖の眺望の一番素晴らしい場所」 と褒めたらしいのですが、これが石碑「湖上第一勝」になっているということでしょうか?実際に行って見たいですね。
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音楽家レオニ
原文では「伶人レオニ」
伶人とは、雅楽の演奏家、音楽を演奏する人、楽師、役者、俳優。

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森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 033

林の道を抜け出た。坂道を下ると、(むら)(くも)もなくなり、雨も止んだ。

湖の上の(きり)は、重ねた布を一重(ひとえ)二重(ふたえ)()ぐように、(またた)く間に晴れて、向こう岸の人家も手に取るように見えた。

木陰(こかげ)の下を通り過ぎるときに、(こずえ)に残った(つゆ)が、風に(はら)われて落ちるのが見えた。











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