MORITZ VON OSWALD TRIO〜ミニマルダブ・ミーツ・アフロビート | Future Cafe

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「Sounding Lines」 MORITZ VON OSWALD TRIO





ミニマルダブの祖、モーリッツ・フォン・オズワルドが、ドラマーのトニー・アレンを迎えて、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオ名義としては4枚目のスタジオアルバムとなる「Sounding Lines」をリリースした。
トニー・アレンといえば、ナイジェリア出身で、1970年代に活動したフェラ・クティ率いるバンド、アフリカ70のドラマーとしての活躍が有名だが、後年、クラブシーンでの再評価が進み、1999年にはフランスを拠点に活動するアブストラクト・ブレイクビーツのサウンドクリエイターであるDOCTOR Lをプロデューサーに起用して「Black Voices」を発表している。さらに、2003年にも同様にDOCTOR Lのプロデュースにより「Home Cooking」をリリースしている。
 モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオは、モーリッツ・フォン・オズワルド、マックス・ローダーバウアー、ヴラディスラフ・ディレイの3人によって結成されたトリオだが、本作にはヴラディスラフ・ディレイは参加していない。その代わりにトニー・アレンが加わっているというわけだ。ビートメーカーが2人も揃っていながら、ドラマーをメンバーに加えるというのは何とも酔狂な話に聞こえるが、生音とプログラミングの垣根を越えてテクノビートの多様化が進む近年にあってはさほど珍しい試みではない。記憶に新しいところでは、LAビートの中核を担うフライング・ロータスも最新作「You're Dead!」で複数のジャズドラマーを起用していた。
 ミニマルでありながら、聴き手を飽きさせないツボを押さえたサウンドは、さすがモーリッツ・フォン・オズワルドだ。黒光りするトニー・アレンのドラムに、最小限のエフェクトを効かせることで、最大限の効果を引き出すことに成功している。前作「Fetch」がベースやサックス、クラリネット、フルート、トランペットなどのジャズ楽器をフィーチャーして奥行のあるサウンドを展開していたのとは対照的だ。本作にはミキサーとして、あのリカルド・ヴィラロボスも参加しているのだが、ドラム以外の音を抑えることによって、ミニマルミュージックとしての美しさを際立たせている。
アフロビートの土臭さを残しながらも、ストイックに響くトニー・アレンのドラムの音色は、過去のDOCTOR Lのプロデュース作品よりも、さらにクールな印象だ。本作からは今ジャズを代表するドラマーであるリチャード・スペイヴンやマーク・ジュリアナの作品に近いニオイさえ感じられる。本作をひとつの企画物として、あるいはトニー・アレンの作品と捉えれば、最高傑作といえるだろう。しかし、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオとしては、テクノ・シーンに一石を投じるような先鋭的なサウンドを聴いてみたかった気もするのだ。
 本作の印象を簡潔に表現すれば、「モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオの新作として聴けば△、トニーアレンの新作として聴けば◎」ということになるだろう。