僉(The Bootists)〜2010年代のゴア・トランス | Future Cafe

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「僉(THE BOOTISTS)」 VA
「ROCK MUSIC」 hanali








Gorgeと書いてゴルジェと読むらしい。まったくノーマークだったが、インド・ネパールの山岳地帯のクラブ・シーンで生まれた新しい音楽ジャンルなのだとか。そもそもインド・ネパールの山岳地帯にクラブ・シーンなるものが存在しているのかどうかさえ怪しいのだが、ゴルジェの定義も奇っ怪きわまりない。オリジネーターであるDJ NANGAによって日本に伝えられたというゴルジェを構成する要素は以下の3つ。
1.Use Toms(タムを使うこと) 2.Say it "Gorge"(それがゴルジェと言うこと) 3."Don't say it "Art"(それがアートだと言わないこと)"
残念ながら、これだけではゴルジェとは何なのか、さっぱり分からない。ライブストリーミング番組のDOMMUNEでもゴルジェ関連のイベントを企画したりしているようで、一部では大いに盛り上がっているという噂なのだが、いくら調べても全貌が見えてこない。これもまた、情報が細分化されすぎてしまったインターネット時代ならではの現象なのだろうか。ライナーノーツを読んでみても、遅れてきたサブカルと言った感じの内輪受けジョークが鼻につくばかりで、どうにも実態がつかめない。カナダやアルゼンチンでも人気というが、じつに胡散臭いムーブメントなのである。
日本のゴルジェシーンを代表するクリエイターが一堂に会したというコンピレーションアルバムが、「僉(THE BOOTISTS)」だ。じつは、何の予備知識もなくCDショップの視聴コーナーで聴いたのだが、そのいかがわしくもグルーヴィーなサウンドに、一発でノックアウトされてしまった。ゴルジェのルーツには、Moebius, Plank & Neumierの「Zero Set」やポップ・グループなどのポストパンクなどがあるというが、昨今のノイズインダストリアルとも共振し合う部分が大きい。メタルパーカッションさながらに、スリリングで暴力的なタムの連打によって虚空を震わせるそのサウンドは、得体の知れなさも手伝って、我が耳を体験したことのない高揚感へと誘うのだった。
どの曲にもタムが使用されているため、トライバル色が強いのだが、曲によってはジュークやダブステップ、EDMなどからの影響を感じさせる。タムの音色が和太鼓に似ているからだろうか。本コンピレーションには和太鼓集団の鼓童を思わせるトラックも多く、わらべうたの「とおりゃんせ」や祭囃子を絡めたベタな楽曲も収録されている。ゴルジェは日本の伝統文化とも親和性の高いテクノであり、極めてヤンキー的である。(DJクラッシュ、若しくは入江悠監督の映画「サイタマノラッパー」の世界だ)。まあ、そんなことは筆文字によるアートワークを見れば一目瞭然なのだが‥‥。
日本初のフル・ゴルジェ・アルバムというhanaliの「ROCK MUSIC」(2013年)も遅ればせながら聴いてみたが、「僉(THE BOOTISTS)」 のように、わらべうたやハルカリ風日本語ラップ、あざとい携帯電話の音声ガイドや着信音のサンプリングが入っていないこちらの方が、きわもの的な印象は少ない。誤解のないように付け加えると「ROCK MUSIC」というタイトルだからといって、本アルバムは一般的な意味でのロックアルバムではない。ゴルジェには峡谷や山峡という意味があるが、恐らくは岩のようにゴツゴツした音楽という意味が込められているのだろう。
ゴルジェを取り巻く現象やコミュニティはカルト的(DOMMUNEもカルト的といえばカルト的だが)な匂いがするので、到底好きにはなれそうもないが、サウンドの方は意外とバリエーションが豊富で癖になる。中毒性の高さといい、ヤンキー度の高さといい、閉鎖的なコミュニティといい、何かに似ていると思ったら、ゴア・トランスだった。