山本みずき

山本みずき

いつの間にか博士課程に進学しておりました。相変わらず政治学専攻で、戦間期のイギリス政治を中心に研究しています。関心の対象は、政治史、思想史、社会史など。学問から離れると華道と日本酒のことばかり考えています。

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元外交官の藤井宏昭大使の外交回想録が刊行されて3ヵ月が経ちました。こちらでまだお知らせしていませんでしたが、今年5月に藤井宏昭(細谷雄一、白鳥潤一郎、山本みずき編)『国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ』(吉田書店)が刊行されました。

一昨年の春ごろに、藤井氏のオーラル・ヒストリーのプロジェクトで人手の足りない部分があるとのことで、お手伝いに入ることになり、細谷先生、白鳥先生、昇先生、藤山先生の末席に加えていただき、藤井大使の外交官としての歩みをご本人から聞く貴重な機会に恵まれました。その後、昨夏には毎日のように藤井大使の森アーツセンターの理事長室にうかがって、原稿の一字一句を読み合わせて文章を整える作業を行い、そのような日々を懐かしく思い出します。

 

あの頃はマスクをつける必要もなく、温厚な人柄の藤井大使がコロコロと表情を変えながら、学生時代から大平大臣秘書官時代、北米一課長、官房長、駐英大使時代などのさまざまな過去の出来事を回顧するお話に耳を傾けておりました。藤井大使の目を通じて浮かび上がる戦後日本外交史は、第二次世界大戦で生じた国家間の心理的軋轢とも言うような、歴史の問題を前向きに解決しようとする時代であり、さらに日本が経済大国としていかに世界秩序に貢献するかという、国際社会の中での地位を模索する時代だったのだろうと思います。

そのお話の中で、私がとくに好きだったのは、藤井大使による人物評です。中曽根康弘、大平正芳、田中角栄、レーガンやブレジネフ、グロムイコなど歴史的な人物と、ともに交渉に臨み、また直接渡り合った経験から、政治家としての彼らの姿を華麗なタッチで描いています。情に厚い方なのか、藤井大使がご自身の敬愛する人物についてお話なさる際には、まだ本人が存命で目の前にいるかのような話しぶりで、一応その方々との最期の思い出までお話なさるものですから、特に大平さんのお話を最後まで聞き切ったときはどうお声をかけたらよいものかと沈黙してしまったりしました。長い人生というのは悲喜交交あるものですね。

 

そのような思い出深い日々の集大成であり、また資料としても価値のある一冊を無事に刊行できたことをとても嬉しく感じております。

そして本日付けの産経新聞には、井上正也先生が素晴らしい書評を書いてくださいました。こちらからぜひお読みいただければ幸いです。

https://www.sankei.com/life/news/200816/lif2008160011-n1.html

 

 

細谷先生や白鳥先生、井上先生など、一流の外交史家のご解説や仕事ぶりを身近に見せていただいたこともまた、貴重な機会となりました。長い時間をかけて培った専門があるからこその、本質的な指摘や奥行きのある解説に多くを学びました。

 

またこのプロジェクトを陰で支えてくださった藤井大使の秘書の伊藤さんには、いつも細やかなご配慮をいただき、おかげさまで快適なインタビューができました。心より感謝しております。