キャプテンK | DRIFTER

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~漂流者の日々徒然~



僕は幼稚園の頃からピッチャーをやるのが大好きだった。



それは主に野球漫画の影響だったのだが(主人公は殆どが投手)、当時の漫画は今思えばあまりにも無茶苦茶であった。

たかが野球の試合のために練習の段階で野球生命を賭けたりするのは日常茶飯事!
特訓といえば非科学的で、生身の人間には不可能なものばかり!

もちろん試合中に死者が出るのも珍しくなくて(アストロ球団参照)、それらは最早実際の「野球」とは程遠いものとなっていた。


しかしながら小学生当時の僕はそんな一連の「バカ野球漫画」に夢中だった。


無論、現実に同じことが出来るとは思っていなかったが練習の参考にはなるだろうと考えていたのだ。(もしかしてバカ?)


そして小学生時代から毎日100球の投げ込みを自らに課し、いつしか「町内の速球王」になっていた僕だったが中学に入っても野球部に入ることはなかった。
実はその数年前から極度に片目の視力が落ち始めて遠近感が無くなっていたからだ。

つまり遊びでソフトボールとかをやっていてもフライが全く捕れないのだ。

だから仲間達からはヘタクソの烙印を押されてしまい野球部に入る意欲も失っていたというわけだ。

しかも僕がやりたいのは野球ではなくピッチャーだけだったので動機もかなりいい加減だったと言えるだろう。


そんなわけで成り行きでテニス部に入った僕だが投手への夢は捨てきれずにいた。


テニス部のキャプテンになってからも毎日の投げ込みは欠かさなかったものだ(ますますバカ?)。


しかも漫画の特訓にヒントを得た僕は、学校から盗んできた砲丸投げの鉄球を使って投球練習していたのだ!


そんなある日、野球部の友人から声をかけられた。


オマエならリリーフ投手になれるから野球部に入らないかと・・・


リリーフといえば聞こえはいいが中学野球のリリーフって補欠じゃん!?
それに僕は当時すでに「七色の変化球」(これも漫画の影響で)をマスターしていたのだが、中学野球は変化球禁止になっていた(今はどうか知らない)。


なんだか野球部に入ってもつまらなそうだ・・・

第一、キャプテンなのに部を変わるわけにもいかないし、「野球部への転向は断りテニスに専念しよう」と心に誓った僕だったのだが・・



何と視力の悪化が両目に及びボールが全く見えなくなりテニスでも補欠に!?

しかも鉄球での投げ込みが災いして肩も故障・・・(凄く悲しかった)


で、高校進学と共にスポーツは諦めて映画研究部に入ったというワケ。

そしてテニス部のキャプテンだった頃のエピソードで覚えてるのがコレ。


ある朝礼の時、壇上の校長先生から発表があった。

「これから、とても優秀な成績を収めた運動部を表彰いたします。」

ちょうど夏の県大会予選が終わったところなので、頑張ったクラブを激励も兼ねて表彰するらしい。


今までに無かった企画だなぁ、などとのんびり考えていたのだが・・・

「代表して賞状を受け取るのは地区大会準優勝のテニス部です!代表の方は前に出てきてください」


へ???


聞いてないって!そんなの!!!


たしかにテニス部は地区準優勝までに与えられる県大会出場権を5期連続でゲットしているので表彰されてもオカシクはないだろうけど・・・


仕方なくノソノソと立ち上がった僕は、背中を丸めながら全校生徒の前を横切って壇上に上がった。


あとで女子の後輩が「あの時の先輩はとても小さい男に見えた・・・」と言っていた。


校長先生は僕の目の前でおごそかに表彰状を読み上げ出した。
僕はそんな校長を見つめながら心の中で呟いた。



『校長先生、ご存知でしょうか?ウチの地区にはテニス部のある学校は二つしかないわけで・・・だから準優勝ってことはビリと同じなわけで(泣)』



そんなので表彰されてもなぁ・・・そりゃ背中も丸くなるって。