CAE業務の日常風景 | a depressed and fragile mechanical engineer

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うつ病患者として、機械技術者として生きる小市民が、仕事や治療の日常生活、裏話、ウンチク、経験談、失敗談を綴ります。それと並行して読書で出合った本の紹介と論考を披露します。

 こんばんは、機械技術者「おだぐ」です。

 昨日は「現場・現物」を大事に、という締めをしましたが、「現場・現物」の範囲が狭過ぎる書き方になっていました。CAD専任技術者にとってはワークステーションとCADソフトウェアが「現場・現物」ですし、CAE専任技術者にとってはCAEソフトウェアの世界が「現場・現物」ですよね。働く人それぞれに異なった現場・現物がある。そのことに配慮を欠いた言い方をしてしまいました。反省しております。


 さて、昨日はCADに関する話題をしたので、今晩はCAE業務のお話をしたいと思います。

 昨日は説明し忘れましたが、CADとはComputer Aided Design、直訳すると「計算機援用設計」となります。コンピュータを使用した設計・製図作業のこと、またはそれを実現するソフトウェアのことです。

 一方、本日の話題となるCAEとはComputer Aided Engineering、和訳が難しいのですが、いわゆるコンピューター・シミュレーションのことだと理解してください。現実の現象をコンピューター上での計算で予測または再現する作業です。私の専門である板金プレス加工の世界でも広く活用されています。市販のソフトウェアも存在します。

 今や、プレス加工で機械部品を作る前にCAEで成型可否を予測・検討するのは当たり前の時代になっています。私の所属する研究所にもCAE専任技術者がいて、日常的にCAEモデルの作成とシミュレーションの実行を行ってもらっています。

 プレス金型の形状モデルはCAD専任技術者が行う。
 CAEモデル作成と解析実行はCAE専任技術者が行う。
 じゃあ、研究員である私はCAE業務において何をやっているのでしょうか?

 答えは、企画立案、マネジメント、そして結果の評価です。
しかし、ここに陥りやすい落とし穴があります。

 まず、企画・立案。これはCAEで何ができるのか、別の言い方をするとそのソフトウェアはどのような計算ができるのかを熟知していなければなりません。その上で、業務上必要な情報がそのソフトウェアから得られるか否かの判断を最初にしなければなりません。「わかったつもり」のレベルだと実行不可能な企画を立ててしまう恐れもあります。これが一つ目の落とし穴。

 次にマネジメント。進捗確認です。これは、CAE業務上にどのようなワークが発生し、それにどれくらいの時間と手間がかかるかを把握している必要があります。時には計算が進まない、あるいは計算モデルが最初から動かない、という不具合に直面することもあります。そのようなときにCAE専任技術者に解決を任せることも可能ですが、私の場合は一緒に問題解決に当たることにしています。理由は後で述べます。不具合対応も含めてこそマネジメントです。進捗を眺めているだけではマネジメントとしては不十分ですが、これも陥りがちな落とし穴。二つ目です。

 最後に結果の評価。これにはCAEの知識と、プレス現場の知識の両方が要求されます。シミュレーションの知識だけではそれが適切な計算結果かどうかは判断できないのです。この判断はプレス現場の知識や経験との比較によってしか、成され得ないのです。CAEの知識とプレス現場の知識の両立。これが必要です。このことに気がつかず、どちらかに偏ってしまうのが三つ目の落とし穴。



 以上、CAE業務の流れを研究員の目線から見た場合、一つ重要なことが分かります。研究員はCAE作業自体はCAE専任技術者に任せているのですが、企画立案したり、それらをマネジメントしたり、結果を
評価するというポイントにおいては、研究員もCAEの専門知識が必要だということです。更に結果の判断にはプレス現場の知識が必要になるのです。要するにCAE業務を進めるためには「プレス技術者としての総合力」が要求されるのです。

 私が解析途中でトラブルが発生した場合にCAE専任技術者と一緒に解決に当たるのは、トラブルという機会を利用して、この「プレス技術者としての総合力」を養うためです。トラブルそれ自体は困ったことですが、その解決を試みることは技術者としての成長のチャンスなのです。これを逃す手はありません。CAE専任技術者と知恵を出し合います。これは共に成長できるチャンスなんです。


 このような流れでCAE業務に取り組むのですが、実際はどんな感じの仕事なのでしょうか。

 最近の例として、6種類の金型のプレス・シミュレーションの依頼をCAE専任技術者に出しました。金型の量は多いですが、形状は簡単なCAE業務です。担当者が

「モデル数多いですけど、類似のモデルを数ヶ月前に作っていたので、それを基にして作ればそんなに難しくないですよ。納期がちょっとタイトですけど。」

 頼もしい言葉です。この言葉で調子づいた私はこんな言葉を発してしまいました。

「この計算はあくまで、解析モデルが適切に動くかどうかの確認計算です。これが上手く行ったら、その後でもっと複雑な解析を複数件してもらいますよ。」

 このときの私の顔は笑顔です。ドSの笑顔です。
 担当者の顔は青ざめています。引きつっています。それでも一言こう応えてくれました。

「わかりました。この先の覚悟だけはできました…。」

 担当者さん、ごめんなさい!いじめている訳じゃないんです!私も業務でやっているんですよー。

 こんな感じで私がCAE専任技術者に(結果的に)プレッシャーを与えてしまう光景がCAE業務の現場では日常的に起こっているのです。これが彼ら(と私)の現場の姿なのです。彼らの努力で、ものづくり技術の研究開発が日夜続けられているのです。