学問の危機に関する再論考 | a depressed and fragile mechanical engineer

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うつ病患者として、機械技術者として生きる小市民が、仕事や治療の日常生活、裏話、ウンチク、経験談、失敗談を綴ります。それと並行して読書で出合った本の紹介と論考を披露します。

 こんばんは、機械技術者「おだぐ」です。

昨日の記事「本物の学者と学問の将来」こちら!


 昨日書いた学問を巡る私の批判と覚悟に関する拙文は思いのほか反響があり、改めて考えさせられるメッセージも幾つか受け取りました。ツイッター上でもアカデミアの方と熱い議論を交わすことができました。

 今の私の力では上手く纏め上げることのできない問題群が存在するのですが、可能な限り論点を整理したいと思います。



【論点1】死んだ学問は蘇らない。
 「一度死んだ技術は蘇らない。」この言葉は私が師事したある工学系の教授のものです。若いころは技術は発展する一方のものだと思っていたが、技術担保を怠ると、技術は死んでしまい、蘇らせるにはもう一度セロから構築しなければならない、という趣旨でした。
 
 学問も同じだと私は思います。一度死んだ学問は蘇らない。もう一度ゼロから構築しなければならない。それが如何に大きな損害であるのかを技術者も研究者も、そして社会も理解しなければならないと感じます。


【論点2】背景としての「国家」
 私の学問に関する議論の背景には「国家・国益・国力」という概念がちらついています。ツイッター上での指摘で気づきました。このことについては無自覚でしたが、やはり国家のあり方として議論する必要はあると思います。学問の盛衰は、企業利益や個人利益とも決して無関係ではない、という気もしております。国家を主体として論ずるからといって必ずしも個人、法人のあり方と無関係な問題ではないと考えます。


【論点3】博士号取得者の就職問題

 現実的に見て、今のドクター院生、ポスドクが全員アカデミックなポストに就けることは有り得ません。これは大学院拡充計画が政府の方針となった時点で明白なことでした。そのことに手を打ってこなかった政府、大学執行部の責任は重いと感じます。ただしそんな愚痴を今更言っても就職ポストはありません。アカデミック・ポストを探すか、民間企業に職を求めるかの二択しか有り得ません。

 ところが、ドクターを採用するルートは新卒採用ルートとは別であり、そのルートが存在しない、つまりドクター採用・ポスドク採用はしない、という企業の方が多数を占めます。理由は「採用実績が無いから」です。扉は閉められているのです。企業側の対応を変えるカンフル剤が打たれなければ、この扉は簡単には開きません。

 ちなみに私の場合は、助手を退官して、博士新卒枠で今の会社に入社しました。
助手という社会人であったわけで本来ならば中途採用枠で採用されるべきなのでしたが、当時の部長判断で「同期という仲間がいた方が良い」という理由で新卒枠での入社となりました。同期のみんなとは公私共に仲良く付き合っています。ただし私のような例は例外中の例外でしょう。


【論点4】カリキュラムへの企業の協力
 大学人だけでは現実的に有効なカリキュラムを支えきれないところまで教育体制の事態の悪化は進行しているように思われます。有効なカリキュラムの維持・継続には企業の介入、協力が不可欠であると考えます。既に学部生や修士院生に対しては短期のインターンシップがなされているようですが、ドクター、ポスドクと企業との関わりは共同研究を通じての関係以外では存在しないのではないでしょうか。

 個人的にはドクターには半年から1年間くらいの長期のインターンシップを義務付け、学位取得の必須単位とするくらいでなくては、企業が欲しがる人材が育たないと思います。もちろん、これには企業側の協力と負担が必要です。

 また、博士課程のカリキュラムが整備されておらず、研究室次第で教育の質が変わるという指摘もありました。これも通常研究活動以外の共通講義を増やすなどの改革が望まれます。会計や財務などの経営実学も学んで欲しい、というのが本音です。

【論点5】企業内の改革
 企業の側も採用を考える際の一般論として「使える人材を取ってくる」と言う発想から「人材育成のための種を大学に蒔く」という採用戦略への転換が必要だと思いました。

 ただしこのためには強力な企業内組織としての人事部を動かさなければならないのですが…。やはり企業側の改革も必要と思います。そのための一つの道は、私のような博士入社の人員が充分な成果、結果を出して示すことにあると思っています。やはり結果がないと企業は動きません。理念だけでは(特に大企業は)動きません。難しいところです。責任を感じます。



 以上、今現在で私が考える論点は挙げ尽くしました。
 基本的には、研究のみならず教育でも企業と大学が協力しなくてはならない、というのが現時点での私の結論です。正直言って事態は既に厳しい局面に入っていると感じています。私たちの世代(中間管理職)が踏ん張って学問・研究の世界を守らなければならないと思います。



 誤解を避けるための一言(長いですけど…)。
 私の議論は理工系のドクター、ポスドクのみを対象としているように見えるかもしれませんが、私個人は人文科学系のドクター、ポスドクにも同じ議論を適用したいと考えています。
 
 特にインターンシップの義務化は、一種の「フィールドワーク」の訓練だと思って欲しいのです。私はフィールドワークは優れて科学的な方法論だと思っています。(もちろんこれは従来の科学観とは異なります。)その方法論を身に付けるためにも、長期インターンシップの義務化が望ましいと考えています。