便秘の薬、ホントにそれでいいんですか? | ひねもすのたりのたりかな

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今日は便秘の薬について書いてみます。

便秘の治療は規則正しい生活、線維質の豊富な食事と運動が基本ですが、そうはいっても生まれつき近眼で眼鏡が必要な人がいるように、なんらかの助けを借りないとなかなか気持ちよいお通じが得られない方もいらっしゃいます。

私のつかう便秘の薬には大きく分けて主に次の3通りあります。
1 刺激性下剤
2 非刺激性下剤
3 そのほか(漢方薬)

刺激性下剤にはアントラキノン系誘導体が有名です。アロエ、センナ、大黄など生薬類に含まれる配合体であり小腸 より吸収され血行性に大腸の粘膜を刺激します。病院で処方される薬としては黄色い袋のアローゼン、赤い小粒のプルゼニドなどが有名で す。大腸肛門領域を専門にしている医師は好んで処方することはありませんが、一般内科の先生や他科の医師は比較的これらの下剤を処方していうケースが多いです。刺激性下剤を処方されているが満足いく排便が得られない、といって相談される患者は意外と多くいらっしゃいます。これらの刺激性下剤の特徴は比較的速やかに効いて、確実に軟便にしてくれる点です。効果も強いで、数日たまったお通じでも一気に出してくれるパワーがあります。薬局で売られている下剤のほぼ8割ぐらいはこの系統の薬です。

ただし刺激性下剤には思わぬ落とし穴があります。

それは習慣性や依存性です。はじめはすっきりして効果が実感できるのですが、そのうち徐々に薬の量が増えていき、これらの薬なしでは排便が困難になってしまいます。また刺激性があるので腹痛や下痢がつきものです。さらに長期連用していると、大腸粘膜が黒ずんできます(写真)。これはメラニン色素が大腸粘膜に沈着するためで、最近の研究では腸管の神経細胞にも影響を及ぼす可能性が示唆されています。めったに便秘しない方が時々使うのであれば大丈夫なのですが、習慣性便秘の方が常用、連用にするにいろいろと弊害が多い薬です。ですので私は外来でほとんどこれらの薬を患者さんに処方しません。ジフェノール誘導体といわれる薬もあり便秘薬の他に大腸検査の前処置として用いるラキソベロンがここに含まれます。これは刺激性下剤のなかでも比較的効き目がおだやかで、腹痛も少なく、液体なので滴数で用量調節もしやすく便利です。私も非刺激性下剤で効果が不十分な際に、このラキソベロンはよく処方します。

一方の非刺激性下剤にも幾つかの種類がありますが、もっとも一般的なものはマグネシウムを主成分とした軟便剤です。マグネシウムは浸透圧性に腸管壁(主に大腸)から水分を引き出して便中の水分含有量を増加させて軟便化させる作用があります。マグネシウムは食品として豆腐のにがりに用いられたり、ミネラルウォーター(美容によいとされる「コントレックス」など)にも含まれています。コントレックスはマグネシウムの効果で便秘が解消され、そのおかげでお肌がきれいになる、という理屈で「美容によい」とされているようです。マグネシウムは腎臓機能の悪化した方や人工透析中の方を除いて、妊娠中でも内服できる安全性の高い薬です。また刺激性下剤のように腹痛や突発的な下痢になることもほとんどなく、量の調節もしやすい緩下剤です。長期間連用しても依存性が少なく、食生活や運動療法など生活習慣の改善によって服用量を減らしたり、将来的に薬から卒業しようとする際には最も適した薬ではないかと思います。薬価も一錠5円程度ですから一日3錠内服して一ヶ月内服しても500円以下です。市販の刺激性下剤やセンナ茶などを使うよりもずっと安上がりです。
また最近になり新薬も登場しました。ルビプロストン(商品名「アミティーザ」)という薬で、これは主に小腸粘膜に働きかけて腸管内に水分を放出させ便の水分含有量を増やす薬です。マグネシウム同様非刺激性なので腹痛がなく自然な排便が得られるのが特徴です。マグネシウムのよりも効果が強く、腎機能が悪い方や透析中の方でも使えるため、特に高齢者でマグネシウムのみではなかなか便秘の治療が上手く行かない方にはよい薬だと思います。ただし、妊娠中には内服できないこと、吐き気などの副作用が時々みられること、マグネシウムに比較して薬価が高い(1錠=156円)、剤形規格が1種類しかないため用量調節がしにくい、などの短所もあり第一選択薬にはしていません。

最後に漢方薬も大変重宝します。漢方薬は2種類以上の生薬を組み合わせて配合したものなので、「センナ」単剤では「漢方薬」とはいいません(よく「アローゼン」を「漢方」とおっしゃる方がいますが、「アローゼン」は生薬としてセンナのみなので通常「漢方薬」とはみなされません)
便秘に用いる多くの漢方薬には大黄などの刺激性成分も含まれていますが、その他に甘草や芍薬など瀉剤効果を調節して和らげる生薬も含まれています。非刺激性のマグネシウムですら腹痛を生じたり、下痢してしまうほどのデリケートな便秘症の方には「桂枝加芍薬大黄湯」、腹部膨満感が強く冷えの強い方には「大建中湯」、高齢者で肌が乾燥気味、兎糞状、マグネシウムでは効果が不十分なかたには「麻子仁丸」、生理と関連したり神経的にたかぶりがちで左下腹部にしこりや痛みを感じるご婦人には「桃核承気湯」など、体質や症状にあわせてオーダーメードに近い感覚で処方できるのが漢方薬のよいところです。

いかがでしょう?たかが便秘、されど便秘。今まで使っていた下剤が実は刺激性下剤だったり、効果に満足できていないときは是非一度専門の先生に相談してみてください。下剤で黒くなった腸