この日の昼ごろ,ICUからHCUへ移った。HCUというのはICUと一般病室の間に入る部屋で,6人部屋ナースステーションのすぐそばに位置する治療室である。

 移動が,ちょうど妻がお見舞いに来たときで,HCUで一段落したとき,妻が入ってきた。

「暑いねえ」と妻が言うと,男性看護師が「ICUと違ってここの空調は自然が基調ですから。HCUってそんなとこです」と笑いながら教えてくれた。

 わたしの左隣は誰もいない。右隣は,後で知ったことだがわたしと同じ手術を受けた男子高校生だった。

 その隣の隣くらいにいるおじいさんはやたらとナースコールを押している。そのたびに駆けつける看護師達。つくづく大変な仕事だなあと感じた。

 妻は,「術後3日目でこんなに元気になるんだね」と喜んでいたが,妻が帰った後しばらくして痛みが激しくなった。今草案を書いているこの時点では,もうそのときの苦しみはあらかた忘れてしまっているが,そのときはかなりきつかったと記憶している。前後から考えて,ICUでの麻酔が切れ始めたのであろう。

 麻酔を希望すると,「HCUでは麻酔は使用できません。痛み止めでがんばるしかないんです」とさきほどの男性看護師が教えてくれた。そしてすぐ痛み止めの手配をしてくれた。痛み止めは主治医の許可がなければ出せない。すぐに連絡をとってくれた。しばらくして主治医の久先生がわざわざ足を運んで来てくれた。「痛い?痛いですよね!でもここを乗り切れば明後日にはシャワー浴びれるから」といいながら看護師に痛み止めを指示してくれた。「シャワーなんて,まだとんでもないですよ」と苦痛に顔をゆがませながらわたしが答えると「いやそれが入りたくなるんですよ」と久先生は自信を持って答えた。

 この日最も大きいドレーンが外された。