ボクがボサノバを聴き始めたのは、アストラッド・ジルベルト、セルジオ・メンデスあたりからです。
当時の日本のボサノバ聴きとしては順当な入り口だったと思うけど、ブラジル音楽の側から見ると周辺部から入ったことになるんだろうなって思う。アストラッドにしたってセルメンにしたって、アメリカ経由のボサノバだからね。
で、最終的にはやっぱり「神様ジョアン・ジルベルト」に至るという経緯をたどり真正のボサノバ聴きとなったわけで、アメリカ流のボサノバには時々批判的なことを言ったりしたのです。こんな風に・・・
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ボサノバとジャズの組合せで一番有名なアルバムと言えば、「ゲッツ=ジルベルト」だと思う。世界一のテナー吹き(ほんとか?)とも言われるスタン・ゲッツと、ボサノバの神様ジョアン・ジルベルトの名前を組み合わせたもので、つまりこの2人が競演したアルバムです。
当時アメリカではちょっとしたボサノバブームが起きていて、ブームにあやかってヒットをいただこうって考えたジャズメンもたくさん居たのですが、しかしながら結果は、「ジャズではないもの」になったり、「ボサノバではないもの」になったり、「どっちでもないもの」になったりすることが多かった。
何が言いたかったかと言うと、「ゲッツ=ジルベルト」では、ジャズとボサノバという2つの要素が十分にこなれていない。そう感じるのだ。
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実際に、このアルバムの録音時のエピソードとして、ジョアン・ジルベルトがスタン・ゲッツの演奏に対して「あいつはボサノバがわかっていない」と言ったとか。ポルトガル語で言ったものだからゲッツには理解できず、通訳が気を利かせてあなたのプレイを褒めてますよ、と取り繕ったとか。
でもね、米国発のボサノバだって今聞けばとても心地よいのがあるんですよね。この「ボッサ・アンティグァ」はほんとうに良い感じです。
ポール・デスモンドのソフトでクールなアルトが、ボサノバにとても合う。それと、絶妙な間のジム・ホールのギターがいい。ブラジル人の全く居ないカルテットなんだけど、大人のボサノバのテイストが本当によく出ていると思う。
つまりなんていうか、例えば、アストラッド・ジルベルトの英語で歌うボサノバが、フォークソング的、アングロサクソン的無粋(失礼!)であって、これまた例えば、クレモンティーヌの仏語のボサノバが、コケティッシュとお洒落さの過剰(失礼!)だとすると、そのどちらでもなく「都会的で、大人で、親密で、色気があって」ってな感じで、ちょうど心地よいのです。
8曲すべてボサノバムードむんむんで、とってもリラクシンな感じ。助手席にめっぽうきれいな女の子を乗せて、オープンカーで夕暮れの海辺をドライブするときには、是非BGMにかけたい。あればの話しですがね。
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Bossa Nova の bossa の意味は、ちょっと訳すのが難しくて、「感覚」とか「傾向」とか「潮流」とかそんな感じなんで、つまりボサノバは「新しい感覚」という意味なのです。このアルバムのタイトル曲 BOSSA ANTIGUA の意味は「古い感覚」。ボサノバという新しい音楽に対して、「古い」ジャズの観点からもちゃんと理解できるのですよという、ポール・デスモンドの自信の表れでしょうかね。
他にも、O PATO (邦題は「がちょうのサンバ」)というボサノバの曲があるのに対して、O GATO (猫)って曲を用意とか、Girl from IPANEMA (ご存じ「イパネマの娘」)に対して、THE GIRL FROM EAST 9TH STREET
ってな具合に、有名なボサノバの曲をもじった題名もなかなか楽しませてくれます。
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アストラッド・ジルベルトも、クレモンティーヌも好きなんですよ。念のため。
↓それから、ゲッツ=ジルベルトはこちら。悪くはないですよ。
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