■東電広告費90億円の波紋より | 原発事故は東電が招いた人災

■東電広告費90億円の波紋より

東京新聞【こちら特報部】東電広告費90億円の波紋より

▼ 原発擁護発言期待し謝礼500万円
東電に限らず、電力会社の広告・宣伝費は多額だという。いったいどのように使われるのか。
スポーツライターの玉木正之氏は、電力会社のギャラの高さに驚いた経験がある。「東電ではないが昨年、新聞の一面広告のインタビューとして原発について自由に意見を言ってくれとの依頼が広告代理店からあった。謝礼は五百万円とのことだった」と明かす。

「仕事を引き受けるつもりで、『今ある原発はともかく、これ以上原発を増やすべきではない』と話したいと伝えた。ところが代理店側から『それでは困る』と言われ、メールと電話でそれぞれ三回ほどやりとりした。結局、『また機会があれば』と物別れになった」

玉木氏のような著名なライターでも、五百万円のギャラは破格だろう。「原発の重要性を語らせるつもりなら、最初から私は不向き。地域独占と公共料金でなりたつ電力会社に宣伝費が必要だとは思わない。高額ギャラは口止め料のつもりだと思った」と振り返る。

▼ 番組スポンサー降板で圧力?
広告・宣伝費という「武器」を持つ電力会社から、マスコミが圧力を受けたことも度々ある。
ジャーナリストの青木理氏は「二〇〇八年、大阪の放送局が(原子力専門家で原発の危険性を警告してきた)京都大学の小出裕章氏らを取材して放送したドキュメンタリーがあったが、電力会社が抗議して放送局の番組から広告を引き揚げた。電力会社は否定しているが、局幹部にも原発の安全性を強調した講習を受けるように要求したようだ」と続ける。

「これ以前にも、広島のテレビ局が低線量放射線による被ばく問題を放送した時、地元電力会社から広告引き揚げの圧力を受け、当時のプロデューサーらが左遷されたこともあったと聞く」実際、東電のマスコミ対策は二百五十億円以上と言うのは評論家の佐高信氏だ。「表向きの宣伝費とは別に、記者の接待費や交際費もある。(電力各社でつくる)電気事業連合会の宣伝費も加えれば、実際にはもっと多い金額になるはずだ」

▼ マスコミ覆う呪縛
さらに「福島第一原発1号機がメルトダウンしたことが判明した今も、以前から原発の危険性を主張し続けた作家の広瀬隆氏を正面から取り上げたメディアは少ない。東電の広告による呪縛はまだマスコミ全般に行き渡っている」と批判する。

原発事故の後、原発擁護派の有名作家が還暦祝いパーティーをホテルで開いたが、ここには元東電幹部も参加していた。佐高氏は「事故が収束しない時期に、こういった無神経な行動をする文化人らを一人ずつ追及し、過去の行動も検証すべきだ。そうでなければ米中央情報局(CIA)になぞらえ、原発推進のために暗躍する通称TCIA(東電CIA)と呼ばれる人も復活し、マスコミ対策を強化するだろう」と危ぶむ。

多額の広告費を受け取る一方で、原発の問題点をどのように報道してきたのか。原発事故を機に、各メディアの報道姿勢も間われている。

前出の青木氏は「思想・信条とは関係なく仕事を引き受けざるを得ないタレントはともかくとして、ジャーナリストやニュースキャスター、弁護士、評論家、作家の人たちが、社会的に対立する問題に関し、ギャラをもらう広告で発言するのは控えるべきだ」と指摘し、こう提言する。
「原発推進の意見を持つのは自由だが、彼らは自らが活動する表現の場を使って意見を主張すればいい。それが社会的に影響あるとされる人たちの責任だろう」